多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)は、妊娠適齢期女性に影響を及ぼす一般的な内分泌疾患の一つで、その診断はアンドロゲン亢進症、排卵機能障害、超音波検査での多嚢胞性卵巣、抗ミュラーホルモン(AMH)値の上昇のうち2つが認められた場合に下される。
思春期における診断では、高アンドロゲン血症と排卵機能不全の両方が診断に必要。高アンドロゲン血症は多くが卵巣由来で、性腺刺激ホルモンと黄体形成ホルモンが卵巣テカ細胞を刺激してアンドロゲンを分泌させることで卵胞の成長を止めるため、排卵機能障害が誘発される。
PCOSのもう一つの特徴であるインスリン抵抗性は内因性アヘンによって制御されている可能性があり、高アンドロゲン血症の影響をさらに悪化させる。
PCOSに伴う慢性的なホルモンバランスの乱れ、慢性低悪性度炎症、インスリン抵抗性は、子宮内膜癌などの合併症や2型糖尿病を含むメタボリックシンドロームリスクの上昇を伴うことから、PCOS患者における新たな治療標的の解明を期待して、多くの研究が行われている。
最近では、多くの研究でPCOS発症における腸内細菌叢の役割と治療標的の可能性が示唆されている。腸内細菌叢の乱れであるディスバイオーシスは、疾患発生の指標として認識されつつあり、多くの研究でPCOS女性の腸内細菌叢は健常対照群と比較して有意な差(微生物の多様性、すなわち乳酸桿菌やビフィズス菌を含む有益な細菌の個体数の減少と、エシェリヒア菌や赤痢菌などの病原性属菌の増加)があり、そのことが疾患発症と関連することがわかっている。
また、ディスバイオーシスは腸管透過性を亢進させ、グラム陰性菌のリポ多糖が血流に乗ることで免疫系反応を誘導すると考えられている。慢性的な免疫系の活性化はインスリン受容体を阻害し、高インスリン血症および高アンドロゲン血症を引き起こす。これはPCOSの主な内分泌異常である。PCOSにおける高アンドロゲン血症の治療は、多毛症、にきび、脱毛症などのアンドロゲン皮膚症状を有する症候性患者にとって極めて重要。
経口避妊薬(OC)は、卵巣産生を含むアンドロゲン合成と代謝に影響を与え、皮膚のアンドロゲン症状を改善し、月経出血を調節することが示されている。
しかし、メトホルミンや経口避妊薬など最新のPCOSガイドラインで推奨されている治療レジメンが腸内細菌叢組成に及ぼす影響に関するデータは乏しい。健康な女性におけるOCの腸内細菌叢への影響に関するデータも限られている。
リンクのデータは、経口避妊薬を使用した治療前後のPCOS女性の腸内細菌叢の特異性を評価した初の系統的レビュー。
46件の論文が検索され、さらに136論文がGoogle Scholarで同定され、スクリーニングされた。2020年から2022年に発表された3件の論文がプールされた。
対象集団はトルコ人、スペイン人、アメリカ人で、PCOSと診断され、OCを使用している合37名の女性が対象。
【結果】
OC治療は短期間ではPCOS患者の腸内細菌叢に有意な影響を与えないようだ。
しかし、適切で統一されたサンプルサイズの、十分にデザインされたランダム化比較試験は不足している。
・アンドロゲン亢進症およびテストステロン濃度は、α多様性と負の相関があることが示された。
性差が思春期以降の腸内細菌叢の成熟を制御することが示されており、動物モデルではアンドロゲンとエストロゲンのシフトが腸内細菌叢組成を変化させることが示されている。オスとメスにおける腸内細菌叢の違いは、少なくとも部分的にはステロイドホルモンのレベルに起因していることが示唆される。
PCOSを持つ肥満少女とPCOSを持たない肥満少女における腸内細菌叢の変化は代謝マーカーやテストステロンと関連していた。
これらの研究は、高アンドロゲン血症がPCOS女性の腸内細菌叢に大きな影響を及ぼす可能性を示唆している。
・PCOS女性における腸内細菌叢のベースライン状態を、マッチさせた健常対照群と比較して評価したプロスペクティブ研究では、PCOS群でα多様性が低いことが確認された。
操作的分類単位(OTU)を分析した研究でも、肥満PCOS患者では肥満対照群よりも細菌数が少ないことが示された。種に関しては、PCOSではルミノコッカス科が多いこと、Family XIが多いこと、プレボテラとSenegalimassiliaが少ないことが報告されている。
・19のヒト研究のメタ分析では、PCOS患者は健常対照群と比較して、chao指数、シャノン指数、OTU数が低く、バクテロイデス科の相対的存在量が高いことが示された。他の門や科・属レベルでは有意差は見られなかった。
・過体重および肥満PCOS患者を分析した3件の研究では、健常対照群と比較してαおよびβ多様性が減少し、PCOS肥満患者と非肥満患者の間に有意差があることを示した。
・ベースラインにおけるマイクロバイオームは、PCOS患者の表現型と相関していた。OTU数および種の数が糖代謝パラメータと負の相関があることが発見された一方で、ルミノコッカス属はベースライン時のmodified Ferriman-Gallwey(mFG)スコアと正の相関があった。これは、レトロゾール誘発性PCOSが思春期雌マウスにおいてルミノコッカス属の相対的存在量を増加させたという過去の研究と一致している。メンデルランダム化試験では、ルミノコッカスがPCOSに対して有益な保護効果を持ち、肥満患者におけるインスリン感受性の改善と関連することが示唆されている。
・XI科は高分子量アディポネクチン(HMW-adiponectin)と負の相関があり、肝・内臓脂肪と正の相関があった。プレボテラ科は、SHBG、LDL、HMW-アディポネクチンと正の相関があり、us-CRPと負の相関があった。Senegalimassiliaは、テストステロン、SHBG、FAI us-CRPおよび肝-内臓脂肪と正の相関があった。
・インスリン抵抗性PCOS患者ではα多様性の減少、炎症性バクテロイデスの増加、プレボテラ科の減少と関連していることが観察された。また、HOMA-IRがラクノスピラ科およびベイロネら科と有意に関連することを見出した。一方で、ラクノスピラ科に属するセリモナス属がPCOSに対する保護作用を持つ可能性を示唆するデータもある。
・肥満、特に内臓肥満はPCOSと関連し、肥満は腸内細菌叢を大きく変化させる可能性がある。最近のメタ分析によると、肥満患者ではファーミキューテス門が有意に増加し、ビフィドバクテリウムとエガテラの相対比率が低く、エシェリヒア・シゲラ、ユウバクテリウム、フソバクテリウム、プレボテラ、ストレプトコッカスのレベルが高いことが観察されている。統計的に有意ではないものの、アルファ多様性の低下傾向も観察されている。
・現在のガイドラインはすべてのPCOS患者に身体活動を推奨しているが、これも腸内細菌叢に影響を与えるようだ。
・PCOSにおける脂肪量の正常化はPCOSの臨床症状を緩和するだけでなく、腸内細菌叢を回復させる可能性がある。
・思春期PCOSモデルマウスでレトロゾール治療を中止したところ、腸内細菌多様性が回復したのは2ヵ月後だった。このことは、思春期のアンドロゲンレベル上昇がPCOS発症につながり、アンドロゲン血症の正常化がPCOSの生殖および代謝パラメーターを改善する可能性を示唆している。性ステロイドは特定の腸内細菌叢の炭素源として機能するため、循環アンドロゲンレベルはアンドロゲン代謝細菌の存在量を調節することによって調節される可能性があり、したがってこのようなプロバイオティクスはPCOS女性におけるOC療法の代替となり得る。
・・深遠なる細菌の世界。まだまだわからないことが多い分野ですが、一つ一つ明らかになっているデータを紐解いていくことでより良い治療方法、治療効果をブーストするアイデアの発見にいつかつながるだろうと期待して、データを追いかけている次第です。
現時点で判明してるPCOS治療における栄養学的アプローチのデータが蓄積しています。
より具体的な栄養戦略をお探しの方は、当院の栄養マニュアルのご利用を是非ご検討ください。
リスク要因となる体脂肪減少ダイエット、体質管理にも非常に有益な内容になっています。
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