世界的に肥満が蔓延っている。
世界の成人人口の39%が過体重、13%が肥満であり、世界で1億2400万人以上の子供と青年(5~19歳)に影響を及ぼしていると推測されている。
肥満発症には複数の非修正可能な危険因子と修正可能な危険因子があり、一部の因子はは両カテゴリーに分類される。
主な非修正可能危険因子は、年齢、性別、思春期、発育状態、遺伝性因子(遺伝学とエピジェネティクス)、民族性で、所得、教育、雇用状態、住環境などは潜在的修正可能因子である。また、心理社会的要因、行動的要因、環境的要因なども修正可能因子として肥満と関連している。
子供や青年にとって、肥満の発症年齢は長期的健康に影響する重要因子である。
思春期前(9~12歳)の肥満は、2型糖尿病、心代謝性疾患、死亡率の発症リスクを高める。また両親のBMIが適正値ではない場合、家庭内のエネルギーバランス(早期から座りがちな生活習慣、低身体活動レベル、タブレット利用時間の増加、質の低い食事パターン)によって子どもは過体重や肥満リスクが高くなることが研究で示されている。母親の存在は特に、子どもの食環境と食事パターン/選択を決定する上で極めて重要である。
近年、妊娠中だけでなく、子どもの受胎前に起こる周産期因子と肥満リスクの関連性を指摘する証拠が増えつつある。妊娠前および妊娠中から出産時点までを通じた母親の肥満と、子供の肥満発症の間に観察された関連性を説明する機序的経路が提唱されており、妊娠前および子宮内環境で起こる周産期因子は生理的・代謝的変化をもたらして子孫の長期的健康に影響を与えることが判明している。
しかし、妊娠前からのどの時点における母親の体重状態が小児肥満の発達に最も影響を及ぼす可能性があるは未だ特定されていない。
リンクの研究は、9~13歳のギリシャの小学生2666人を対象としたHealthy Growth Studyのデータを用いて、妊娠前、妊娠中/妊娠時体重増加時、子どもの思春期前における母親の体重状態と小児肥満との関連を検討したもの。
結果
妊娠前に肥満だった母親、妊娠中に過度の体重増加があった母親、子どもの思春期前の時期に肥満だった母親で、小児肥満と有意な相関が認められた。
上記の母親群を組み合わせ、各時点での健康的な推奨体重に基づく閾値より上-下、上-上の母親は、下-下-下の軌跡群と比較して小児肥満の可能性が3倍高かった。
調査したすべての時点における母親の肥満は、小児肥満と有意に相関していた。
小児肥満予防の効果的な取り組みは母親が妊娠前から開始し、ライフコースおよび小児期の発達段階を通じた母親の体重を対象とすべきと考えられる。
・各時点で(WHO(2000年)のBMI基準値またはIOM(2009年)のカットオフポイント)推奨に基づく体重状態の基準値を超えていた母親と子どもの肥満との強い相関と最も高いオッズ比が報告された。時点を組み合わせると、子どもの肥満の割合が最も高かったのは、2つまたは3つの時点すべてで推奨に基づく基準値を超えていた女性であり全サンプルにおいて小児肥満の可能性が3倍増加した。
・検討したすべての時点における母親の過体重および肥満は、小児および思春期の肥満発症の重要な危険因子であることが示唆された。
・妊娠前に肥満の影響を受けた母親を持つ子どものオッズ比が最も高いことがわかった(4倍の可能性)。この知見はビッグデータ解析など先行研究の結果と一致している。
・妊娠前の過体重や肥満は、栄養状態、脂肪蓄積の増加、炎症、母親の遺伝的素因など、多くの要因に影響される。
・肥満はインスリン抵抗性と血糖値の上昇を伴う炎症状態である。受胎後、成長期の胎児は子宮内で栄養過多の環境にさらされ、その結果、胎児の発育プログラムが連鎖的に変化した結果、子孫の肥満リスクが高まる。
・他の研究では、7〜11歳の時点で肥満の子どもでは、健康な体重の子どもに比べて母親の妊娠中の体重増加が高かったことが明らかにされている。この知見は、妊娠前の体重状態が小児肥満のより強い予測因子であることを示した文献を支持する。
・子どもの思春期前における母親の過体重/肥満が、妊娠前に次いで、思春期における肥満の高い確率と関連することも示された。母親は子どもの主な養育者である可能性が高く、食べ物の種類や選択、身体活動の促進、睡眠パターン、スクリーンタイム、その他のライフスタイルの選択など、子どものエネルギーバランス関連行動に影響を与える重要な役割を担っていることが背景と考えられる。
・母親の体重増加の要因は子どもの体重増加にも大きな影響を与え、小児肥満の可能性を高める。過体重や肥満に罹患した母親が肥満誘発環境を作り出し、維持している可能性が高い。
・小児および青年にとって肥満の発症年齢は長期的な健康に影響を及ぼす重要因子である。特に女児において重要なホルモン(エストラジオールおよびゴナドトロピン放出ホルモン)およびバイオマーカー(血清脂質、グルコースおよびインスリンレベル)の変化が起こっており、食行動と比較して代謝に強い影響を及ぼす可能性がある。小児期の過体重や肥満により思春期前の段階でBMIがさらに上昇すると健康状態が悪化するリスクが強まり、この上昇が思春期まで続くとさらにリスクが高まる。
・過去の介入研究では、思春期前の段階で体重を減らすと思春期や成人期における肥満リスクが減少することが実証されている。
まとめ
この研究は、各ライフステージにおける母親の肥満、特に妊娠前、妊娠中(妊娠時体重増加)、子どもの思春期前における肥満が小児肥満発症の重要なリスク因子であることを明確に示している。妊娠を計画いている女性は、自身の肥満発症が子孫の小児肥満リスクとその合併症に与える影響を明確に認識すべきと言えるだろう。