世界的なライフスタイルの欧米化に加えて、パンデミック以降のライフスタイルの劇的な変化がもたらすリスク因子は、乳癌など癌有病率に悪影響を及ぼしている。
最近のメタ解析では赤身肉や加工肉、高脂肪乳製品、ジャガイモ、菓子類を含む欧米食パターンの摂取量が最も多い場合、最も少ない場合と比較して乳癌リスクが14%増加することが明らかになっている。
一方で、果物や野菜、魚、全粒穀物、低脂肪乳製品を含む 食事パターンの摂取量が最も多い場合、最も少ない場合と比較して乳がんリスクが18%減少することもわかっている。植物性食品には、欧米食パターンによく見られる動物性食品よりも必須ミネラルのリンが少ない傾向があることは重要なポイントと考えられる。
無機リン酸(Pi)代謝は、腎臓-骨-副甲状腺-腸軸から分泌される内分泌ホルモンの繊細なネットワークによって体内で調節されている。
リン酸代謝異常により体内の組織での過剰Pi蓄積ではリン酸毒性として知られる状態が生じ、リン酸毒性と腫瘍形成との関連が指摘されている。
動物実験では、過剰な食事性リン酸塩が癌細胞の成長を促進する細胞シグナルを増加させることが示されている。
食餌性リン酸塩の形をとるリンは、カナダや米国を含む現代の欧米食パターンに豊富に含まれている。
リン酸塩摂取量はリン酸塩添加物で加工された食品の消費が増加するにつれて増加しており、牛乳・乳製品(チーズ、アイスクリーム、ヨーグルト)、ベーカリー製品(パン、ロールパン、トルティーヤ)、野菜(でんぷん質)、鶏肉、「メキシコ料理」(ナチョス、ブリトー、タコス)、ピザに多く含まれている。
リンの生物学的利用能は食餌源によって異なる。
例えば、肉や乳製品に含まれるリンは全粒穀物に含まれるフィチン酸塩と結合したリン(20~50%)に比べて吸収率が高く(40~60%)、一方、食品業界で広く使用されているリン酸塩添加物を含む超加工食品では90~100%の生物学的利用率となる。
これに関連して、最近のシステマティック・レビューとメタ解析では、超加工食品の摂取量の増加に関連して乳がんや卵巣がん、その他のがんリスクが増加することが判明している。
リンの最適な摂取レベルを超えると、増加した濃度はやがて毒性を帯び、死に至ることさえある。米国におけるリンの食事性基準摂取量(DRI)は成人女性と男性で700mg/日だが、2016年の国民健康栄養調査(NHANES)では、女性は平均1189mg、男性は1596mg/日の食事性リンを摂取していると報告されている。
米国の腎臓病アウトカムズ・クオリティー・イニシアチブ(K/DOQI)のガイドラインでは、進行性腎臓病患者はタンパク質の必要量に応じて、リンの摂取量を800~1000mg/日に制限することが推奨されている。
実際、1日当たり約1400mgからなる食事性リン摂取量の増加は米国集団における全死因死亡率の増加と関連している。
米国農務省(USDA)が発表した「Dietary Guidelines for Americans, 2020-2025」によると、全粒穀物と無脂肪牛乳を含む1日2000カロリーのマイプレート(MyPlate)献立では、約1800mgのリンが摂取でき、死亡リスクの上昇と関連する食事性リンの1400mgをはるかに上回っている。USDAの献立表で推奨されている無脂肪牛乳3カップで700mg以上のリンが摂取でき、成人の必要量を満たすには十分。つまり、他の食品を含めると全体的なリン摂取量はさらに高くなる。
最近の研究では、牛乳摂取量が最も多い場合、最も少ない場合に比べて乳がん罹患リスクが50%増加することが判明。また牛乳を1日3杯飲むと、1杯に比べがん死亡リスクが44%増加した。
システマティックレビューとメタ解析によると、食事性酸塩基負荷はがんの相対リスクを58%増加させることと関連しており、肉類を多く含む食事と比較してプラントベース食の方が食事性酸負荷とリン摂取量が少いことがわかっている。
リンクの研究は、米国中年女性コホート(SWANコホートの女性3302人)における年10回の受診時の食事性リン酸塩摂取量に関連する自己報告と乳がんの相対リスクを測定したもの。
食物摂取頻度調査票のデータを分析したところ、1日の食事性リン摂取量の最高レベルである1800mgを超えるリンは、米国農務省が推進するメニューの食事性リンレベルとほぼ同等だった。参加者のエネルギー摂取量を調整した後、このレベルの食事性リンは米国国立腎臓財団の推奨に基づく基準食事性リンレベル800~1000mgと比較して乳癌罹患リスクが2.3倍増加した。導かれた知見は、低リン酸食を乳癌患者で試すべきであることを示唆している。
・この研究は、食事からのP摂取量の多さに関連した乳がん罹患リスク上昇を報告した最初の研究である。
・P摂取量が最も低いレベルと比較して、P摂取量が最も高い1800mg超への曝露は乳がん罹患の相対リスク2.3倍と関連していたが、コホートの規模が小さいため統計的に有意ではなかった。
・乳がんリスクが2.3倍増加する1800mgを超えるP摂取は、米国農務省が推進するメニュープランの量である。米国農務省や米国保健福祉省のような強力な米国政府機関が「アメリカ人のための食生活指針」を作成しており、「科学を実際の指針から切り離し、そのプロセスをより政治的なもの」にしていることは懸念される。
・この研究で得られた知見は、乳癌予防を優先してP濃度の低い食事を推奨するよう国民に注意喚起すべきことを示している。