加齢に伴うテストステロンレベルの低下は男性更年期障害(MCS)の発症に関与し、加齢男性症状(AMS)や前立腺肥大症(PH)誘発することで間欠性尿失禁、排尿困難、切迫感、夜間頻尿などの下部尿路症状(LUTS)などの排尿障害を引き起こし、QOLに悪影響を及ぼす。
現在、テストステロン補充療法がMCSの一般的な治療法だが、前立腺がん、前立腺肥大症、心血管疾患などの副作用と関連していることから、テストステロン値を自然に増加させ、PHや排尿障害症状を緩和するより安全な代替戦略の確率が中年男性にとって重要なテーマになっている。
テストステロン増加を謳うサプリメントが市販されているが、しばしば有効性と安全性にに疑問性が指摘され、テストステロン補充製品の大半は科学的に検証されていない。
ブラックラズベリーは抗酸化作用、抗菌作用、抗炎症作用、抗老化作用、抗糖尿病作用、コレステロール抑制作用を持つポリフェノール化合物のエラグ酸が含むユニークな植物化学組成を有している。
過去の報告によると、未成熟ブラックラズベリーには熟したブラックラズベリーよりも多くのフェノール化合物とビタミンCが含まれており、機能性成分としての利用可能性が示唆されている。
いくつかの研究で、未熟なブラックラズベリーが前立腺肥大とアンドロポーズに対して有益な薬理学的効果を持つことが示唆されている。
最近の動物研究では、未熟ブラックラズベリー抽出物(BRE)を投与すると黄体形成ホルモン(LH)分泌の増加を介してテストステロンの分泌が促進されることが実証され、MCSパラメータを改善する可能性が示されている。
しかい、ヒトにおけるMCSと排泄機能に対するBREの健康効果に関する報告は限られている。
リンクの研究は、MCSと排泄機能障害に対するBREの効果を検討した初めてのプラセボ対照無作為化二重盲検臨床試験。
男性のMCSと排尿機能障害に対する未熟ブラックラズベリーエキス(BRE)の有効性と安全性を評価することを目的とした小規模研究。
合計30名を対象に、BRE群(n=15)とプラセボ群(n=15)に無作為に分け、 1 日2 回、4800 mg のBREまたはプラセボを12週間摂取。
BREの影響は、加齢男性症状(AMSスケール)、国際前立腺症状スコア(IPSS)、IPSS QOL指標(IPSS-QoL)を用いて評価。治療6週後と12週後に、男性ホルモン、脂質プロファイル、身体測定指標を評価。
結果
AMSスコアは2群間で有意差はなかった。
BRE群では、IPSS総スコアおよび IPSS-QoLスコアが ベースラインと比較して12週後に有意に低下したが、プラセボ群と比較して有意差は認められなかった。
しかし、IPSSの排泄症状サブスコアはプラセボ群と比較して有意差が認められた。
さらに、LDL-C値とTC値もBRE群でプラセボ群より有意に低かった。
BREの補給は脂質代謝を高め、MCSと排尿障害の症状を緩和し、BPHの発症を抑制する可能性があると結論。
・前臨床試験に基づき、ヒトの1日あたりのBRE推奨摂取量は4.8gと推定された。
安全性について、臨床的に重要な有害事象や体内変化は認められなかった。
BRE はヒトが摂取しても安全であると考えられる。
・更年期症候群の男性に1日4.8gのBREを12週間摂取させたところ、脂質プロファイルと排尿症状の改善がみられた。
・BPHは高齢男性に多く見られ、その発症は加齢とともに増加する。前立腺肥大による急性尿閉、腎機能低下、尿路感染症、尿失禁などのリスクがあり、LUTS(lower urinary tract symptoms)はしばしばBPHに合併して蓄尿や排尿機能を悪化させ、正常な排尿を困難にする。
・前立腺肥大症は精巣アンドロゲンおよびメタボリックシンドロームと強く関連している。
・LUTSの予防には、禁煙、適度な飲酒、動物性食品の摂取を控える、十分な睡眠、定期的な運動など、健康的なライフスタイルを心がけることが重要。
・MCSはテストステロンレベルが著しく低下し始める中高年男性が罹患する可能性がある。症状には、疲労、性欲減退、気分の落ち込み、睡眠障害など。MCSは生活習慣の改善とテストステロン補充で管理することができる。テストステロンレベルの低下は前立腺癌およびBPH発症と関連している。
・ベリー類にはフラボノイド系抗酸化物質が豊富に含まれており、テストステロンを産生する細胞を損傷から守るため、テストステロン産生を高めるのに役立つと考えられている。特にブルーベリーはテストステロンレベルを向上させる抗酸化物質として知られるエラグ酸の優れた供給源である。
・IPSSスコアの観察から、BRE補給は介入期間を通じて排泄機能と脂質代謝指標を改善することが示唆された。BRE群では12 週の時点で IPSS排泄サブスコアが有意に低下し、6週の時点で顕著な改善が見られた。特に、BRE群のIPSS総スコアは中等度から軽度に改善した。
・エラグ酸の作用機序は、テストステロンからDHTを生成する5AR酵素の活性を阻害することで血中ジヒドロテストステロン(DHT)濃度を低下させることによると考えられる。
・心血管疾患の主要な危険因子である高コレステロールはBPHの危険因子である。BRE補給は血清TCとLDL-C値を有意に低下させ、前立腺症状の改善を示した。
これを裏付けるように、BREを用いた6週間の動物実験では血中コレステロール値と前立腺肥大症が改善された。
BREは、HMG-CoA 還元酵素を活性化することによってコレステロール値を低下させると思われる。
・ホルモン依存性前立腺がん細胞株(LNCaP)を用いた過去の研究では、BRE補充はアンドロゲン受容体(AR)、前立腺特異抗原(PSA)、5α還元酵素2などのアンドロゲン関連遺伝子発現を有意に減少させることが示され、この遺伝子発現の減少は前立腺の重量、上皮細胞の厚さ、前立腺濾胞の面積の減少につながる。
・エラグ酸は前立腺肥大の一因となるホルモンのDHTレベルを低下させる可能性がある。
具体的には、DHTはAR転写活性を強く誘導して前立腺細胞の遺伝子制御に大きな影響を与える。また、Akt経路とmTOR経路を制御することで前立腺がん細胞の細胞増殖を抑制し、アポトーシスを誘導する。
排尿時に一抹の不安を覚えた経験がある男性はブラックベリーとブルーベリー抽出物を積極的に摂取してみてほしい。