女性にとって乳がんは一般的な悪性腫瘍であり、世界中の女性に深刻な健康リスクと重い社会的負担を与えている。
女性の乳がんは肺がんを抜いて世界で最も多く診断されているがんとなり、予測ツールによると乳がん発症率は2040年までに46%以上増加すると予測されている。
近年、食事パターンが多くの病気と関連していることが検証されており、食事要因が乳がんリスクに影響を与える可能性も多くの研究で報告されている。
例えば乳製品や砂糖の総摂取量が多いと、女性の乳がんや他の悪性腫瘍のリスクを促進する可能性があることがわかっている。さらに野菜、果物、大豆製品の摂取量が多いなど、健康的な食事パターンは乳がんリスクの低減に役立つ可能性があることも示されている。
長期間の観察研究では、乳がんと野菜、果物、魚、オリーブオイルが豊富な食事パターンを特徴とする地中海食との間に逆相関があることが判明している。
リンクの研究は、メンデルランダム化(MR)分析を用いて乳がんリスクと4大栄養素との因果関係を調査したもの。
MR分析をを用いて大栄養素摂取量(タンパク質、炭水化物、糖質、脂質)が乳がんおよびそのサブタイプ(ルミナルA、ルミナルB、ルミナルB HER2陰性、HER2陽性、トリプルネガティブ、エストロゲン受容体(ER)陽性、ER陰性乳がん)リスクに及ぼす因果関係を探っている。
結果
近年の知見とは矛盾して、相対的タンパク質摂取量が多いことは遺伝的にルミナルAおよび乳がん全体の予防因子であることが判明した。
相対的糖質摂取量が多いと、遺伝的にルミナルBおよびHER2陽性乳がんのリスクを促進する可能性が見出された。
・最近のメタアナリシスでは、大豆食品の摂取量が多いほど乳がんリスクが低下することが示唆されている。
また、大豆摂取量が多いと閉経後女性の乳がんリスクが低下する可能性があることが判明している。
乳がんリスクや乳がん生存率に対するそのポジティブな効果は、植物性エストロゲンであるイソフラボンや選択的エストロゲン受容体モジュレーターに起因すると考えられる。
・相対的砂糖摂取量が多いほど、乳癌リスクが高くなることがMR解析で強く示唆された。
・近年、標準的ながん治療の効果を高めるために空腹時模倣食(FMD)が検証されている。FMDはカロリー、糖質、タンパク質が少なく、脂肪分が比較的多い食事構造で、EGR1とPTENをアップレギュレートしてAKT-mTORシグナル経路を阻害することにより、循環するIGF1、インスリン、レプチンを低下させて内分泌治療薬のタモキシフェンやフルベストラントを強化できる。
ある研究では、FMDが血糖値と成長因子濃度の低下をもたらし、末梢および腫瘍内細胞成分の変化を介して抗がん免疫のリモデリングをもたらすことを明らかにしている。
・食事に含まれる糖質の割合が高くなるとグルコース濃度が高くなり、並行してインスリン濃度が高くなることで、がんの増殖が促進されることは注目に値する。炭水化物のサブタイプとして、砂糖はデンプンや食物繊維などの他の炭水化物源よりも急速に吸収され血漿グルコースレベルに影響を与える可能性がある。その結果、より高い血漿グルコースレベルを介して乳がんにつながる経路を潜在的に活性化する可能性がある。
・乳癌のリスクと脂肪の相対的摂取量との因果関係を見出すことはできなかった。
・大規模症例対照研究により、脂肪の摂取を同カロリーの炭水化物に置き換えることで乳がんリスクを低下させることが明らかになった。
さらに、脂肪とタンパク質についても同様の関連性が示された。
・総脂肪と飽和脂肪摂取量が多いと、ホルモン受容体陽性乳がんのリスクが高くなることを明らかにした研究もある。
また、飽和脂肪摂取量が多いとHER2陰性乳がんリスクが高いことと有意に関連していた。
・脂肪の相対的摂取量が多いと乳がんのリスクファクターである肥満につながりやすい。