メトホルミン
近年、2型糖尿病およびその他のインスリン抵抗性疾患治療の第一選択薬であるメトホルミンが甲状腺刺激ホルモン(TSH)、プロラクチン、ゴナドトロピンの循環レベルを低下させることが判明している
また、メトホルミンは閉経後女性および性腺機能低下症の男性の卵胞刺激ホルモン(FSH)レベルを低下させ、多嚢胞性卵巣症候群の女性および原発性精巣不全の男性の黄体形成ホルモン(LH)レベルも低下させる。
メトホルミンの下垂体前葉ホルモン分泌抑制作用は、下垂体に血液脳関門がないことに起因すると考えられている。
メトホルミンを短期および長期に経口投与すると、下垂体におけるメトホルミンの組織レベルが他の評価対象脳領域(視床下部、前頭皮質、小脳、海馬、線条体および嗅球)よりも高くなることが判明している。
メトホルミンが下垂体ホルモンの分泌に及ぼす影響は、脂質およびグルコース代謝の主要な細胞制御因子である5’-アデノシン一リン酸活性化タンパク質キナーゼ(AMPK)が介在すると仮定されている。
また、メトホルミンは抗腫瘍および抗炎症特性を示す。
ビタミンD
更年期は、肥満、2型糖尿病、心血管疾患、非アルコール性肝疾患、メタボリックシンドロームなどの心代謝系疾患リスクが著しく高くなる時期で、肥満、2型糖尿病、メタボリックシンドローム、多嚢胞性卵巣症候群ではビタミンD欠乏率の上昇と25-ヒドロキシビタミンDレベルの低下が特徴。
ビタミンD欠乏は閉経後女性で頻繁に見られ、2型糖尿病、メタボリックシンドローム、その他のインスリン抵抗性の状態にある多くの閉経後女性がメトホルミン/ビタミンD併用療法の候補者となる。
無作為化比較試験では、2型糖尿病でビタミンD値が低い被験者にメトホルミンを投与し、外因性カルシフェロールを併用すると、糖化ヘモグロビン(HbA1c)レベルを下げるのにメトホルミン単独投与より優れていることが判明している。
メトホルミン/ビタミンD併用療法の有益な効果は、AMPK経路の刺激と関連している可能性がある。メトホルミンはこのキナーゼの活性化を介して多くの代謝効果を発揮することが示されており、ビタミンDを補充した動物でもその活性に対する同様の効果が観察されている。
また、ヒト前立腺癌細胞の増殖とアポトーシスに対するメトホルミンとカルシトリオール(活性型ビタミンD)の相乗効果はAMPK経路を介することが確認されている。
最近、メトホルミンとビタミンDが下垂体細胞レベルで相互作用する可能性があることが報告された。メトホルミンは25-ヒドロキシビタミンD濃度が基準範囲内にある被験者においてのみ、循環プロラクチン濃度を低下させ、ビタミンD不足の女性ではメトホルミンのTSH低下作用は外因性カルシフェロールと一緒に投与された場合にのみ観察され、単独で投与された場合には観察されていない。
過去にゴナドトロピン分泌におけるメトホルミンとビタミンDの相互作用について評価した先行研究はない。
リンクの研究は、ビタミンDの状態が閉経後女性における視床下部-下垂体-卵巣軸の活動に対するメトホルミンの影響を決定するかどうかを調べることを目的としたもの。
結果
メトホルミンはビタミンD値が正常な閉経後女性においてFSHレベルとLHレベルを低下させる傾向があったが、ビタミンD不足の女性では低下しなかった。
ゴナドトロピン濃度に対するメトホルミンの影響は、ベースラインの分泌量、25-ヒドロキシビタミンDレベル、インスリン感受性の改善度合いに依存した。
それらの結果は、閉経後女性の性腺刺激ホルモン分泌機能に対するメトホルミンの影響は、患者のビタミンD状態によって決定されることを示唆している。
Vitamin D Status Determines the Impact of Metformin on Gonadotropin Levels in Postmenopausal Women
・ビタミンD値が正常な閉経後女性にメトホルミンを投与すると、両ゴナドトロピンの循環濃度が低下したが、FSHへの影響はLHより顕著であった。減少したとはいえ治療後のレベルは妊娠適齢期女性よりも高かった。両ゴナドトロピンに対する作用の違いは、閉経後女性の特徴としてLHよりもFSHのベースライン値が高いことで説明できると考えられる。
・治療によるFSHおよびLHレベルの変化はベースライン値と相関があった。さらに、他の下垂体前葉ホルモン(TSH、プロラクチン、ACTH)およびエフェクターホルモン(遊離サイロキシン、遊離トリヨードサイロニン、IGF-1)循環レベルに対して中立的な影響を与え、これらの濃度は正常範囲内だった。
・新発見は、ゴナドトロピン低下作用がビタミンD値が低い女性にはなかったことである。
閉経後女性におけるゴナドトロピン濃度上昇の臨床的意義は議論の余地があるが、多くの研究が女性の健康に対するその悪影響を示唆している。FSHは骨吸収を促進し、体重増加を促進し、熱発生を阻害し、肝コレステロール産生を増加させることがわかっているが、FSHに対する抗体を投与した動物ではこれらの作用はすべてなかった。
したがって、FSHレベル上昇は閉経後の女性頻繁に見られる骨量減少、エネルギー恒常性障害、脂質異常症の病因に重要な役割を果たすと考えられる。
・LH高濃度は認知障害やアルツハイマー病発症と相関することが判明しており、循環LH濃度を低下させる薬物療法は卵巣摘出ネズミやアルツハイマー病モデル動物において学習や記憶を改善することがわかっている。
・上記の観察に基づく実用的結論。
メトホルミン治療による恩恵は代謝効果に限定されるものではない。
FSHの有意な低下とLHのわずかな低下が共存することで、老化に伴う好ましくない変化を防止または遅延させることができる。
性腺刺激ホルモン機能に対する同様の作用にもかかわらず、メトホルミンはホルモン補充療法と比較してより安全な薬剤であるようだ。ホルモン補充療法は心血管疾患や乳がんリスクを高める可能性があるが、メトホルミンは糖尿病患者の心血管疾患発生率を低下させ、乳がんの成長を抑制することが示された。
ゴナドトロピン濃度を下げるために、糖尿病前の女性に推奨されるよりも高用量のメトホルミンを投与しなければならないが、1日2.55~3gのメトホルミンによる慢性的な治療は今回の研究参加者で忍容性が高く、これまでの研究でもメトホルミンの大量投与に伴う重篤な副作用の症例はなかった。
メタアナリシスでは、糖尿病のない過体重および肥満被験者に対して1日3gのメトホルミンを6ヶ月間投与した場合、耐容性が高く、体重減少およびグルコースホメオスタシス改善において低用量による治療よりも優れていることが示された。
・ビタミンD不足女性では、メトホルミンの老化防止作用はおそらくない。この研究では、25-ヒドロキシビタミンD濃度が20〜30ng/mLの女性でゴナドトロピン濃度に対する中立的な効果が観察された。この所見は、ビタミンDホメオスタシスの軽度の障害でさえ過剰な性腺刺激ホルモンに対するメトホルミンの影響を損なう可能性があることを示唆している。
25-ヒドロキシビタミンDレベルとゴナドトロピンおよびプロラクチン治療による変化との相関を考慮すると、メトホルミンの下垂体作用に対する低ビタミンDによる悪化作用はその重症度が高いほど増大すると考えられ、これはゴナドトロピン値が極めて高い患者の場合に重要である可能性がある。
重要なことは、メトホルミンがFSHおよびLHレベルに与える影響は実際のビタミンDの状態によって決定される可能性があること。
・ビタミンD値が低い女性におけるメトホルミンの下垂体作用は、効果的なカルシフェロールの補充によって回復する可能性があることを示唆している。
・メトホルミンは閉経後女性の全グループでグルコースホメオスタシスを改善したが、グルコース、インスリン、HOMA1-IR、HbA1cに対する効果はビタミンD不全の被験者よりもビタミンD状態が正常な人の方が顕著だった。
低ビタミンD値は、さまざまな年齢層でメトホルミンの代謝効果を損なう可能性がある。