日本人女性の乳がん発症の生涯リスクは14人に1人で、40歳代でリスクがピークになる。
腫瘍抑制遺伝子であるBRCA1またはBRCA2に病原性または病原性の可能性がある変異(以下、変異)を有する女性はリスクがさらに高くなる。
高リスク女性に対する現在の医学的マネジメント方法は、両側乳房切除術による一次予防か、早期発見を目的とした年1回のMRIとマンモグラフィによる強化検診に限られており、BRCA1またはBRCA2変異保有者における栄養療法の使用と乳癌リスクとの関連を評価した研究はほとんどない。
リンクの研究は、BRCA1またはBRCA2の病原性変異体を有する女性におけるビタミンDおよび/またはカルシウムサプリメントの使用と乳がんとの関連を評価したもの。
BRCA乳がんの高リスク集団において、ビタミンDおよびカルシウムサプリメントの使用と乳がんリスクについて評価した初めての研究。
症例群には浸潤性乳がんの診断歴のある女性が含まれ、対照群には乳がんの既往歴のない女性。
134人の乳がん患者と276人の対照者が対象。
結果
ビタミンDを含むサプリメントを使用している女性は、サプリメントを使用しない女性と比較して乳がんにかかる確率が46%低かった。
ビタミンDとカルシウムサプリメント摂取量の増加は、乳がん罹患オッズと逆相関していた。BRCA1遺伝子変異保有者でこの関連が特に強かった。
ビタミンDおよび/またはカルシウムのサプリメント摂取量の増加は高リスク集団における乳がんリスクの低下と関連している可能性がある。
・遺伝性のBRCA1またはBRCA2変異による乳がん発症リスクが高い女性がビタミンDサプリメントを使用すると、乳がんを発症する確率が46%低下することを明らかにした。また、ビタミンDサプリメントの摂取量増加は乳がん罹患オッズと逆相関していた。
・カルシウムサプリメントの使用と乳がんとの間には統計的に有意ではないものの、示唆的な逆相関が認められた。カルシウムサプリメント摂取量と乳がんとの間には線形用量反応関係が観察された。
BRCA1変異を有する女性でその効果はより強かった。
・サンプルサイズが小さいにもかかわらず、上記の結果はBRCA遺伝子変異を有する女性におけるビタミンDおよびカルシウムサプリメントの大用量使用と乳がんとの間の逆相関の予備的証拠を提供する。
・5つの研究のメタ解析では、ビタミンDサプリメントの使用と乳がんリスクとの間に逆相関があることが報告されている。
・乳がんの姉妹を持ち、自身は乳がんを発症していない高リスク女性50,884人(1611症例)のコホートでは、ビタミンDサプリメントの使用は5年間の追跡調査における乳がんリスクの低下と関連していた。
・ビタミンDサプリメントのみを使用した人とビタミンDとカルシウムを併用した人では、カルシウムサプリメントのみを使用した人よりも乳がん発症率で強い逆相関を示した。
・Women’s Health Initiative試験データの解析では、カルシウムとビタミンDを含むサプリメントが浸潤性乳がんのリスクを低下させることが示された。
ビタミンDとカルシウムは抗増殖作用と親アポトーシス作用を誘導することにより、乳がんを予防する可能性があることを示す新たな証拠も得られている。
・BRCA乳癌の発症に対するビタミンD/カルシウムの影響は不明でだが、BRCA1変異を介する癌ではビタミンDが腫瘍タンパク質p53結合タンパク質1(TP53BP1)の分解を防ぐため、細胞増殖が抑制されると指摘するデータもある。
・BRCA1変異乳がんでは、散発性乳がんと比較して全生存期間の延長と関連するビタミンD受容体(VDR)の発現量が高いことが報告されている。カルシトリオールなどのVDRを標的とするアゴニストは、トリプルネガティブおよびVDR陽性乳がん細胞の増殖を抑制するらしく、VDRの腫瘍抑制効果を裏付けている。
・保護効果があるものの、BRCA1またはBRCA2変異を有する女性は、ビタミンD/カルシウムサプリメントの1日の推奨摂取量を超えて摂取するべきではない。