大のビール党だが、そういえばビールが身体的、精神的に及ぼす影響について調べたことがほとんどない。
そもそもビールと健康に関するエビデンスがほとんどない。
ビールは、他のアルコールに比べて比較的アルコール度数が低い(5%)。
適度なアルコール摂取は、血中脂質プロファイルの変化、免疫系機能に対する抗炎症、抗酸化、抗癌作用、インスリン抵抗性の改善、コルチゾールやACTHなど生理的ストレスレベルの低減に関与することから、ビール摂取は循環器系、免疫系、骨格組織、酸化還元状態、神経系、精神疾患など幅広く影響を及ぼすと考えられている。
また、ビールにはミネラル(リン、マグネシウム、カリウム)、ビタミン(B群)、ホップ由来のキサントフモールなどのポリフェノールなど特有の非アルコール成分が含まれる。
ビールの影響を解明するためには、社会情緒的な健康、精神的な健康、幸福感なども考慮する必要がある。
社会・情緒的健康や精神的健康は互いに密接な関係があるだけでなく、非伝染性疾患の発症やあらゆる原因による早期死亡など、身体的健康とも密接な関係がある。
社会的孤立は特に高所得国や高齢化国の高齢者において、公衆衛生上の大きな懸念となっている。
しかし、ビール消費と身体的、精神的、特に社会・情緒的な健康との関連ついての大規模な定量的証拠はほとんどない。
リンクの研究は、18歳以上の33,185人を対象に2012年と2017年の国民健康調査のデータ分析を行い、自己認識健康、機能制限、精神的健康、社会的サポートとの関連でビール消費量を評価したもの。
結果
禁酒者と比較して、時々ビールを飲む人、中程度の量ビールを飲む人は、精神的、自己認識的健康度、社会的サポートが良好で、軽度または重度の身体的制限を訴える傾向が少なかった。
一方で、元飲酒者は禁酒者に比べて自己認識健康度、身体的健康度、精神的健康度、社会的サポートの指標が悪かった。
ビールの消費は自己認識、身体的、精神的、社会的情緒的な健康とJ字型の関係を示し、中程度の量の摂取者でより良い値を示した。
主な調査結果
適度なビール消費は自己認識、身体的、精神的、社会感情的な健康との関連性が示唆された。
健康とビール消費のJ字型関係が再現され、中程度の量のビール飲用者は健康に関連するライフスタイル行動(喫煙、食事、身体活動)、BMI、社会経済状態、人口統計学的要因をコントロールした後でも、最も健康な状態を示した。
禁酒者に比べ、たまにしか飲まない、あるいは適度にビールを飲むと答えた飲酒者はより高い自己認識健康、精神的健康、社会的支援を報告する傾向があり、軽度〜重度の身体的および/または精神的制限を報告する傾向が少なかった。
逆に、元飲酒者は自己認識健康度、日常的な制限の種類と強さ、精神的健康度、社会的支援の指標を悪く報告する傾向が強かった。
女性では男性よりも低用量で健康状態との関連性が見られた。
適量のビールによる健康状態の改善は40歳以上の飲酒者に多く見られ、40歳未満ではほとんど関連は見られなかった。
アルコール摂取が死亡率や罹患率といった身体的健康に及ぼす影響について調査・再解析が数多く行われているものの、エビデンスは依然として不確実である。
Global Burden of Disease reviewでは、40歳以上で1日に0.114~1.870標準単位の飲酒、すなわち適度な飲酒習慣がある人には性差なく健康上の利益がある可能性があると記されている。
UKバイオバンクの研究により、週17標準飲酒単位(すなわち、1日2.43標準飲酒単位)までのアルコール摂取はテロメア短縮による早期老化や死亡につながらないことが判明している。
個人の精神的、社会・情緒的な健康に関する研究では、スペインの先行研究でアルコール摂取量が多いほど自己認識健康度が低く、社会感情的健康度には差がないことが報告されている。
一方、55歳以上の集団を対象にした小規模研究では、ビールと同じ発酵飲料であるワインの適度な消費は自己認識健康度、精神的健康度、活力と関連しており、40歳以上のビール摂取者に対する今回の結果と同様であることが示されている。
孤独や社会的孤立(実際の社会的関係と理想とする社会的関係の不一致によるストレス)は、早期死亡や心血管、代謝、神経、精神の予後不良と関連する健康リスク要因として特徴づけられている。
この研究では、ビール大量飲酒者は自己認識と精神的健康が高く、軽度および重度の日常生活の制限が少ないことを報告する傾向があることを発見した。一方で、ビール大量飲酒者はタバコ喫煙率が高く、食生活が貧弱で、座りがちな生活様式であることも報告されたことから健康を害する行動との関係も考慮する必要がある。
結論
中程度のビール飲酒者は、禁酒者や元飲酒者に比べて主観的、精神的、社会感情的健康、日常生活の制限を少なく報告する傾向が強かった。
ビール多飲者も、主観的健康、精神的健康、軽度および重度の日常生活の制限の少なさを報告する傾向が強かったが、中程度のビール摂取者よりその相関は弱かった。