メンタルヘルスマネジメントにおける侵襲性の低い介入方法として、プロバイオティクスやサイコバイオティクスを含む栄養学的アプローチが近年関心を集めている。
消化管と脳は双方向の関係を持ち、腸内細菌は中枢神経系を経由して脳とシグナル伝達を行なっている。腸内細菌叢が中枢神経系とコミュニケーションすることで慢性疾患や人間の行動の発症や抑制に寄与するメカニズムとして、免疫学的メカニズム(腸管免疫系)、生化学的メカニズム、神経内分泌系(HPA軸)、腸内細菌叢代謝系、腸管粘膜関門、血液脳関門などが提案されており、迷走神経がコミュニケーションの主要ルートとして特定されている。
リンクのレビューは、サイコバイオティクスとメンタルヘルスの関連性、うつ病や不安症との関係に関するエビデンスをまとめることを目的としたもの。
神経伝達物質であるセロトニンやGABAの産生、視床下部-下垂体-副腎(HPA)軸を介したコルチゾール減少への影響という観点から、それらの症状におけるサイコバイオティクスの治療的役割の可能性について議論している。
・プロバイオティクスの特定の菌株はうつ病の症状や不安を軽減することができる。
・セロトニンやGABAなどの神経伝達物質合成への影響、炎症性サイトカインの調節、ストレスホルモンやHPA軸への影響によるストレス反応の増強といった作用機序によって症状が軽減されている可能性がある。
・サイコバイオティクスはうつ病や不安症治療に役立つ可能性があるが、その作用機序をより明確にし、栄養学的介入との関連で最適な投与量を理解するためにさらなる研究が必要。
・ヒトを対象とした研究
・うつ病に対する乳酸菌の使用成功例が1910年初頭に初めて確認された。それ以来、ヒトにおける研究で特定の乳酸菌とビフィズス菌株の投与後に不安、抑うつ、ストレスの減少を示されており、動物モデルでも確認されている。
うつ病や不安症の患者ではマイクロバイオータの多様性が変化している。
Bacteroidetes、Alistipes、Proteobacteriaの増加、Firmicutes、Lactobacillus、Bifidobacterium、Lachnospiraceae、Faecalibacteriumの減少が観察される。
Alistipes株は、うつ病や不安神経症の人の糞便微生物叢に豊富に含まれていることが確認されてpり、この菌株の存在はトリプトファンの利用率を変化させるが食事療法で減少させることが可能。
酪酸産生に重要なFaecalibacteriumの減少は双極性障害に寄与している可能性がある。
・うつ病治療薬に含まれる抗生物質はFirmicutesを増やし、Proteobacteriaとアクチノバクテリア門を減らす。抗生物質は大腸の炎症を誘発し、乳酸菌やバクテロイデスを減少させ、ファーミキューテス類を増加させるなど微生物の多様性を変化させる。
・1歳以前の抗生物質の使用は成人後のうつ病と関連している。
・ヒトに使用されるサイコバイオティクスとしては、L. helveticus、B. longum、L. casei Shirotaが挙げられる。全体として、サイコバイオティクスの単一株または複合株をサプリメントまたは食品として摂取すると、ヒトのうつ病と不安をわずか30日で軽減できることを示すエビデンスがある。
その作用機序として、神経伝達物質、特にGABAとセロトニンの産生への影響、HPA軸機能への好影響、炎症性サイトカインの減少などがある。
・Lactobacillus helveticus R0052とBifidobacterium longum R0175の組み合わせは、いくつかのランダム化比較試験で不安とうつ病を減少させることが確認されている。B. longumはGABA産生に影響を与え、腸管ニューロンへの影響もあって不安を減少させる。L. helveticusはセロトニンに影響を与え抑うつ行動や不安を減少させる。
・Lactobacillus helveticus R0052とBifidobacterium longum R0175は、ヒトの心理行動におけえる怒り/敵意、抑うつ、不安、強迫観念、妄想の減少といった効果があり、ラットでは抗不安作用があることが明らかにされた。
炎症性サイトカインや有害な腸内細菌を減少させることで、神経伝達物質の産生や機能が改善された可能性がある。
・大うつ病性障害(MDD)と診断され、3カ月以上抗うつ薬を服用していた人を対象にLactobacillus helveticus R0052とBifidobacterium longum R0175とプレバイオティクスサプリメントの効果を比較する無作為化対照試験(RCT)を実施したところ、8週間でBeck’s Depression Inventory(BDI)スコアの有意な減少が認められた。
プレバイオティクス群では有意な所見は見られなかった。
プロバイオティクス摂取群ではキヌレニン/トリプトファン比が減少しており、抑うつ症状の軽減メカニズムである可能性がある。
・プロバイオティクス(L. helveticus R0052, B. longum R0175, L. rhamnosus R0011)、プレバイオティクス(ガラクトオリゴ糖、ガラクトマンナン、加水分解グアーガムを含む繊維)、ファイトバイオティクス(L. Theanine、ショウガ根エキス、各種ポリフェノール含有)からなる複合サプリメントの使用についての無作為、プラセボ対照、二重盲検試験では、30日間で、プラセボと比較してうつ状態が55%、緊張状態が45%、疲労状態が64%、混乱状態が43%、怒りが54%減少し、活力が44%、気分が25%改善されたと報告された。
・大うつ病性障害(MDD)と診断された45人を対象とした二重盲検ランダム化比較試験では、
28日間のB. breve CCFM2015投与はうつ状態の有意な減少、5-HTのターンオーバーの減少、5-HIAAの減少を認めた。5-HTのターンオーバーの重要性から、研究者らは腸内細菌叢におけるトリプトファンの代謝を調べたところ、14種類のトリプトファン代謝物のうち、血液脳関門を通過できるトリプトファンと5-HTPを含む8種類の代謝物の発現増加が観察された。
・L. casei Shirotaは不安やうつ病を持つ人の気分を高めることが示されている。
L. casei シロタは学業ストレスを感じている人のコルチゾールレベルを下げ、学業ストレスに関連する身体症状の軽減、セロトニン生合成の改善、同時に腸内細菌の全体的な多様性も増加させることが示されている。
L. casei シロタは、無作為化二重盲検プラセボ対照試験において9週間でうつ病を有意に減少させている。炎症性サイトカイン、特にIL-6の減少がこの改善理由であると考えられている。
・無作為化二重盲検プラセボ対照試験では、L. acidophilus、L. casei、B. bifidumの組み合わせ(特定の菌株は特定されていない)が、大うつ病と診断された個人のBDIが8週間で著しく低下したと報告されている。
・B. bifidum W23, B. lactis W52, L. acidophilus W37, L. brevis W63, L. casei W56, L. salivarius W24, L. lactis W19 and W58のミックス製剤によってうつ状態が改善することが3つの臨床試験で実証されている。
三重盲検プラセボ対照無作為化介入前・介入後評価デザインでLeiden Index of Depression Sensitivity-revised (LEIDS-r) questionnaire、Beck Depression Inventory (BDI) およびBeck Anxiety Inventory (BAI) を用いて評価。悲しい気分の際の攻撃性と反芻が少ないことが有意な所見だった。著者は、反芻思考のある人はしばしばうつ病エピソードから回復するのが難しいことを指摘している。
また、同じ組み合わせのプロバイオティクスを用いた単施設非対照試験(N=83)で、過敏性腸症候群(IBS)と診断された人について、病院不安・抑うつ尺度(HADS)が有意に減少したことが明らかになった。
・L.reuteri NK33と B. adolescentis NK98の組み合わせが、うつ病、不安、不眠症の症状を呈する156名を対象とした8週間の無作為二重盲検プラセボ対照試験で評価された。
4週間後および8週間後に、うつ病と不安の有意な改善が観察された。
睡眠は8週目に有意に改善した。
炎症性サイトカインであるIL-6は有意に減少した。
・サイコバイオティクスに対する反応に遺伝子変異が影響する可能性がある。
IL1B遺伝子の変異体(rs16994)、A対立遺伝子の保有者(n=34)を調べた。
この変異体は、特定の集団におけるうつ病と不安のリスク上昇と関連している。
9菌株を組み合わせたプロバイオティクスサプリメント(ストレプトコッカス、ビフィドバクテリウム、ラクトバチルス、ラクトコッカスの菌株を含む)を12週間使用したところ、A対立遺伝子を持つ人は、変異体非保有者やプラセボ群に比べて不安が著しく軽減された。
・プロバイオティクス投与とHPA軸およびストレス反応との関連性を検討した研究では、B. longum1714は、唾液コルチゾールレベルとCohen Perceived Stress Scaleで評価したストレスを減少させた。
また、L. plantarum299vは、試験ストレス(急性ストレスに分類される)下において、コルチゾールレベルを低下させた。
・高ストレスの情報技術(IT)専門家に分類される成人にL. plantarum PS128を8週間投与した結果、自己認識ストレス、状態不安と特性不安、全体的な仕事上のストレス、仕事の負担、不眠症の重症度、うつ病、否定的感情が統計的に有意に減少し、全体的な肯定的感情、生活の質に対する満足度が増加した。
・L. gasseri CP2305を、医療従事者の国家試験を控えた健康な成人29名に投与した結果、24週間の使用後、唾液中コルチゾールレベルが低下し、不安と抑うつスコアが有意に減少した。
ビフィズス菌とラクトバチルス属の有効性を示す結果が多い。
うつ病でお悩みの方は積極的に摂取することを検討してみてはどうだろう。