加齢と共に進行する動脈硬化は避けられない生理的現象で、どういった因子が動脈硬化の進行に寄与しているかを特定するのは現状では難しいとされている。
女性においては、エストロゲンの減少といった動脈硬化に関連する特定の因子が存在する。
成人女性ではエストロゲン濃度は20代後半にピークに達し、30歳頃から減少し始め、閉経まで減少が続く。若年女性ではエストロゲン上昇期、中高年女性ではエストロゲン下降期、高齢女性はエストロゲン低値期ということになる。
エストロゲンは一酸化窒素(NO)の増加を通じて動脈硬化を抑制する可能性がある。
また、血管平滑細胞(VSMC)の収縮を促進するノルエピネフリンは、女性において年齢と正の相関がある。血管平滑筋は血管壁に最も多く存在し、動脈硬化が起こる主要構造。
さらに、終末糖化産物(AGE)の蓄積は、加齢に伴う多臓器機能の低下を早める。
AGEsは炎症とコラーゲン架橋のアップレギュレーションを通じて動脈硬化を促進し、内皮機能障害を引き起こして血管硬化を増加させる。
「運動」は上記の病因を調節し、動脈硬化を改善することができるが、年齢が異なる女性では病因の特徴が異なるため、同じ運動処方でも動脈硬化に異なる効果をもたらす可能性がある。
例えば、疲労困憊するまでの段階的な運動プログラムは中年女性では動脈硬化を増加させ、80%1RMでのレジスタンストレーニングは若い女性において動脈硬化にプラスの効果を示すことがわかっている。
一方で、健康な若年、中年、および高齢の女性における動脈硬化に対する運動の影響(種類、強度、頻度)に関するレビューは行われていない。
リンクのレビューは、健康な若年、中年、高齢女性における動脈硬化に対する運動の効果に関する文献を調査し、女性の心血管疾患予防のための運動に関する指針を示すことを目的としたもの。
動脈硬化改善は、次の条件で観察された。
若い女性:8週間の高強度有酸素運動(3日/週)または低酸素高強度インターバルトレーニング後
中年女性:中強度の有酸素運動または「中〜高程度」のストレッチ(1部位20-30秒、休憩10秒)
高齢女性:軽強度レジスタンストレーニング、任意の強度の有酸素運動、またはこの2つの運動の組み合わせ
このレビューから、健康な女性では年齢とともに動脈硬化が進行し、運動強度と逆相関があることがわかった。
・検索された研究(n =51)からのエビデンスは、運動が若年(18~24歳)、中年(25~49歳)、高齢(50歳以上)女性における動脈硬化マーカーを改善する効果的な方法であることを示唆している。
・若年・中年女性では、中〜高強度のレジスタンストレーニングと有酸素運動およびストレッチが推奨され、高齢女性では任意の強度の有酸素運動、低強度レジスタンストレーニング、有酸素運動とレジスタンストレーニングの組み合わせ、およびストレッチと振動トレーニングのいずれも動脈硬化を改善できることが確認された。
・女性の動脈硬化は年齢依存的であることも確認された。動脈硬化の指標である安静時脈波伝播速度(PWV)は、中年女性ではわずかに増加し、高齢者では若年者に比べて急激な増加を示した。PWVの改善は若い女性と中年女性でそれぞれ7%と8.7%であるのに対して、高齢女性では12.5%だった。
運動の効果は動脈硬化の重症度と年齢に依存し、運動の種類、強度、継続時間、頻度などの要因はPWV改善効果に対する主要な決定要因である。
・若年女性の動脈硬化に及ぼす運動効果
若年女性では、有酸素運動、HIIT、レジスタンストレーニング(RT)、無酸素運動、ストレッチの5種類が15件の研究で報告されていた。
しかし、有酸素運動(ランニング、サイクリング、またはエリプティカル)と低酸素HIIT-ランニング運動の動脈硬化に対するプラスの効果を示した研究は2件だけだった。
RTは最も広く研究されている運動の種類だが、動脈硬化の変化は報告されていない。それらの研究では中等度から高度の強度が採用されていたが、逆に急性効果のある中等度-高強度RTはPWVの一過性の増加を示していた。
RTによる動脈硬化の増加は、カテコールアミンのレベルの上昇と交感神経系の活性化が原因である可能性がある。
若年女性の動脈硬化には、少なくとも3日/週の8週間の高強度有酸素運動(ランニングまたはサイクリング)または低酸素HIITトレーニングが推奨される。
・中高年女性の動脈硬化に及ぼす運動の効果
中高年女性において、有酸素運動、RT、ストレッチ運動、筋膜リリース運動の4種類の運動が14件の研究で報告されていた。
有酸素運動については、4研究のうち3研究で動脈硬化にプラスの効果(約23.27%の改善)が認められた。
急性高強度ランニング運動と長時間の中等度サイクリング運動を2日/週、12週間行うことが中年女性には有益であるようだ。中年女性の動脈硬化に有酸素運動がプラスの効果を示した3研究はいずれも中高強度のもの。
中高年女性において有酸素運動が動脈硬化に及ぼす悪影響は報告されていない。
中年女性の動脈硬化マーカーに対して最も望ましい運動は中高強度ランニングやサイクリングなどの有酸素運動で、急性または長期(2日/週、12週間)、RTは主要筋群を含む低〜中強度の急性または長期(2日/週、10週間)、ストレッチ運動は中=高強度で急性30分または長期。
・高齢女性の動脈硬化に対する運動効果
有酸素運動について16研究がリストアップされ、そのすべてが高齢女性の動脈硬化にポジティブな変化を報告していた(約18.46%の改善)。
そのうち14研究では長時間の運動が、2研究では急性運動が規定されていた。
提示されたエビデンスに基づくと、長期的な有酸素運動効果を得るためには任意の強度、8~18週間、1~3日/週である一方、有酸素運動の急性効果を得るためには20~90分の中等度から高強度の有酸素運動が、高齢女性に処方すべき理想型(歩行、ランニング、自転車)であることが示唆された。
RTについても、低強度の運動後に高齢女性の血管硬化の改善が認められた。
中年女性に見られるような、低強度レジスタンストレーニングが高齢女性の血管に有害な影響を与えるという研究もなかった。
したがって、高齢女性は自分の能力に応じて低負荷のトレーニングを行うのも選択肢となる。
さらに、低レジスタンストレーニングと有酸素運動を組み合わせることで、高齢女性の血管硬化に有益な効果を示すことも研究によって明らかになった。
結論として、最も望ましい運動は有酸素運動で、例えば長時間の水泳、椅子を使った運動、ウォーキング、サイクリング(1-3日/週、8-18週)、または中-高強度での急性ウォーキング/サイクリング(20-90分)。低強度RTと有酸素運動の組み合わせ、全身静的ストレッチプログラム2日/週、16週間が高齢女性の動脈硬化の改善に有益であるようだ。
・女性における動脈硬化に対する運動の効果の背後にある可能な機序
急性および長期の運動は女性の動脈硬化に有益な効果を示す。
急性運動の血流とシアストレスの増加、内皮NO放出の増加、さらに血流増加と交感神経興奮性による持続的ストレスに反応して血管平滑筋を弛緩させることが動脈硬化を減少の要因になっている可能性がある。
長期間の運動は動脈に適応反応を引き起こす結果、内皮機能が改善される。
これは、内皮NO合成酵素タンパク質の発現とリン酸化のアップレギュレーション、マトリックスメタロプロテアーゼの減少、インスリン抵抗性の改善、炎症性サイトカインの減少、耐糖能とインスリン感受性の改善などの適応によるものと思われる。
もう一つの重要なバイオマーカーは加齢とともに増加する糖化指数で、糖化産物であるAGEsは血管の中膜や外膜層に悪影響を及ぼし、血管を硬くする原因となる。
AGE高値は、高齢者における運動量減少が一因となっている可能性がある。
よって、定期的な運動は女性の糖化産生を減少させることで動脈硬化を改善する可能性がある。
高齢女性の動脈硬化は、運動によって大幅に改善されたとしても若年女性レベルまで回復する可能性は低い。したがって、将来的な心血管疾患リスクを排除する最大の可能性は、若い時から始める予防にあるを強調する必要がある。
また、動脈硬化は体格、ライフスタイル、および食事などのいくつかの交絡因子に影響される。重度の動脈硬化は身体的に不活発な人や肥満の人に多く見られる。
ナトリウムの大量摂取も動脈硬化の一因となる。