ビタミンDは骨のカルシウムホメオスタシスを調節する重要な物質で、カルシウムとリンを最適なレベルに維持することで骨塩量を最適化し、くる病や骨軟化症を防いでいる。
また、関節軟骨の摩耗している患者はビタミンD不足である可能性が高く、低ビタミンD値は変形性関節症発症に関連することが示唆されている。
ビタミンD3の人体への健康効果は常に拡大しており、近年ではビタミンD3補給がスポーツ選手や喘息・循環器疾患マネジメントに有効であることが報告されている。
また、過去のデータでは、骨折リスクや回復にビタミンDが好影響を及ぼすことが示唆されているが、矛盾するデータも多く、知見は一致しない。骨折には多くの種類があり、特定の年齢や様々な状況下で発生するため、特定の骨折に対するビタミンDの影響は異なる可能性がある。
リンクのレビューは、ビタミンD補給と各種の骨折リスクへの影響に関する現状における知見を説明し、怪我後の回復への影響を強調することを目的としたもの。
椎体骨折、股関節骨折、ストレス骨折、小児骨折のリスクに対するビタミンDの予防効果の可能性について調査し、負傷後の回復や特定の骨折の重症度に対する影響といったビタミンDの付加的な側面についても議論されている興味深いデータ。
Vitamin D Supplementation and Its Impact on Different Types of Bone Fractures
骨折リスク評価とビタミンD3に関するガイドライン
・骨密度の自然な減少は原発性骨粗鬆症につながりますが、続発性骨粗鬆症は内分泌疾患、慢性炎症性疾患、慢性腎臓疾患、消化器疾患、がん治療、グルココルチコイド治療、アルコール依存など多くの要因で引き起こされる。
ビタミンD3欠乏や加齢によるカルシウム吸収率の低下は、二次性副甲状腺機能亢進症につながり、骨構造を弱めて骨折のリスクを高める。
The National Osteoporosis SocietyなどのVitamin D Guidelines Summariesによると、血清ビタミンD3の閾値は以下の通り。
(1) 30nmol/L(12ng/mL)未満は不足。
(2) 30~50nmol/L(12~20ng/mL)は、人によっては不足状態。
(3) 50nmol/L (20ng/mL) 以上であれば、ほぼすべての人にとって十分。
成人の筋骨格系の健康を適切に維持するためのビタミンD3の摂取推奨量は400~2000IU/日で、個人の健康状態、年齢、体重、居住地の緯度、食生活に依存する。
椎体骨折
椎体骨折(VF)は最も一般的な骨粗鬆症性骨折で、有病率は年齢とともに増加。
VFは健康関連のQOLを低下させ、比較的健康な高齢女性のグループであっても死亡率の上昇と関連する。
甲状腺機能亢進症、コントロールされていない甲状腺機能低下症、高カルシウム尿症、低テストステロンレベル、ビタミンD欠乏症はVFの潜在的に修正可能危険因子。
VFの早期予防では、ビタミンDとカルシウム補給が低コストで妥当な予防戦略と考えられる。
日本人高齢女性では、71nmol/L(28.5ng/mL)以上の血清ビタミンDレベルがVFリスク低減させる報告もある。
平均血清ビタミンD濃度が 29.67 ±6.18nmol/Lの場合、VFリスクがほぼ2倍になり、被験者はより重度の骨折を負受け以降を示した中国の研究もある。
また、63.6nmol/L以上のビタミンD3濃度が、副甲状腺ホルモン高値(58pg/mL以上)による骨回転を減少させ、副甲状腺ホルモン高値を有する閉経後女性におけるVF有病率を減少させたと報告されている
さらに、高血清ビタミンD濃度のVF保護効果は、血液透析を受けている患者や骨盤形成術後の患者でも観察された。
これらの研究から、ビタミンD3の基準値を60〜70nmol/L以上に維持すれば高齢者のVF予防効果を十分に発揮できることが推測される。
ビタミンD3の投与量300-800IUは、高齢者における骨折のリスクを低減するには低すぎると考えられる。1日1000IUのビタミンD3摂取は、ビタミンD3濃度を約12〜25nmol/L(増加させることがわかっている。
肥満者は血清ビタミンD3レベルが8nmol/L低いため、ビタミンD3投与量は患者の体重に見合った2倍から3倍の量を投与する必要がある。
股関節骨折(HF)
股関節骨折は骨粗鬆症の深刻な合併症の一つで、高い罹患率と死亡率を伴う。
死亡とは別に、身体状態の著しい悪化や自立心喪失につながる可能性もある。
閉経後女性はHF発症のリスク集団で、平均寿命が延びたことでHFの頻度は世界的に増加している。
ビタミンD3欠乏はカルシウムと骨格のホメオスタシスに関与するため、HFの別の危険因子と考えることは論理的といえる。
HFsで入院した平均年齢85.7のイタリア人患者974人を対象に行われたある研究では、84.2%がビタミンD3欠乏症でだった。同様の関係は、日当たりの良い地域に住む患者を対象に調査を行った別の研究でも発表されている。
800IUのビタミンDと1200mgのカルシウムを補給した被験者では、プラセボ群と比較してHFの発生率が減少することが報告されている。36ヶ月の観察後、プラセボ群に比べて摂取群ではHFの発症が25%減少していたという。
別の研究でもビタミンD3のHF予防効果が証明されている。
65歳以上の女性に年間400,000IUのビタミンDを投与した結果、対照群と比較してHFの頻度が10%減少したという。その研究者らは、ビタミンD3とカルシウムの組み合わせが、骨のターンオーバーを低下させる続発性副甲状腺機能亢進症を回復させる可能性を示唆している。
また、ビタミンDが筋肉組織に好影響を及ぼし、筋力の向上がHFの主因である転倒の発生率を低下させる可能性がある。ビタミンD3とカルシウムを3ヶ月間補給すると、転倒リスクが49%減少することが示されている。
股関節損傷後の回復にビタミンDが与える影響を調査した研究では、股関節損傷後の最初の1年間に800IUのビタミンD3を投与し、簡単な運動を併用した患者は下肢機能が改善されたと結論づけている。
また、ビタミンD3の単回投与が股関節骨折の手術後の回復期間に影響を与える可能性も示されている。10万IUのビタミンD3を単回投与すると、術後早期の合併症発生率が低下し、25万IUのビタミンD3を投与すると、痛みのレベルや転倒頻度が低下することが明らかになった。
一方で、ビタミンDがHF予防に有益であるという仮説に異議を唱える研究もあるが、コレカルシフェロールと比較して効率の悪いエルゴカルシフェロールが投与されるなど、研究デザインに欠陥があった。
上記の研究により、ビタミンD3補充は骨のターンオーバーの減少、筋肉の強化、転倒の発生率の低下により、HF頻度を減少させる可能性があることが示された。
また分析から、欠乏症問題が非常に日差しの強い国にも当てはまることを示唆されており、居住地に関係なくビタミンD3の予防的補給の重要性を示唆している。
ストレス骨折
ストレス骨折(Stress fracture: SF)は、軍隊の新兵やアスリートに多く観察され、微細損傷の蓄積によって部分的または完全骨折に至る。
SFは脛骨、足根骨、中足骨、腓骨に多く発生する。
SFの危険因子として、白人民族、女性、月経障害、鉄欠乏症、高身長、高齢、激しい運動などが挙げられ、ビタミンD3摂取不足は潜在的かつ修正可能な危険因子と考えられている。
また、血清中ビタミンD3低値はSFからの回復期間が長くなると言われている。
女性が女性アスリートトライアド(摂食障害を伴う/伴わない低カロリー摂取、月経障害、低骨密度)を示す場合、SFのリスクは30-50%増加する。
ビタミンD3のSFに対する予防効果を海軍の女性新兵を対象にした無作為二重盲検試験では、
800IU/dのビタミンD3と2000mgのカルシウムを補給したグループでは対照群に比べ、SF発生が20%少なかった。
他の研究でも、1日のビタミンD3摂取量が663IU/dの女子(9〜15歳)は、107IU/dの女子青年と比較してストレス骨折リスクが52%低いことが報告された。
興味深いことに、カルシウムの摂取量が多くてもSFに対する予防効果はないことが明らかになっている。
英国海兵隊の訓練は、世界で最も過酷な身体的訓練プログラムの1つと認識されている。研究では、基準血清ビタミンD3濃度が50nmol/L 未満の新兵は、この閾値以上の士官候補生よりもSF発生率が高いことが証明されている。
また、血清ビタミンD3濃度が75nmol/L未満の場合、週50,000IUのビタミンD3補給を8週間行った大学スポーツ選手において、SFが7.51%から1.65%へと統計的に有意に減少することが判明している。
他の研究ではビタミンDの状態を100nmol/L(40ng/mL)以上に改善した大学スポーツ選手は、低血清ビタミンD3状態を保持するスポーツ選手よりもSF発症割合が12%低かったと報告されている。
スポーツ選手や新兵において血中ビタミンD3を測定し、準備の一環として日常的にビタミンD3を補給することは有益であると考えられる。
小児骨折
小児骨折(PF)は18歳未満の患者に発生し、発生率のピークは国によって異なる。米国では10~14歳に発症のピークがあるのに対し、中国では6~12歳に発症のピークがある。
転倒によるものが最も多く、上肢が最も多い。
COVID-19の流行期間中にPF頻度が一時的に2.5倍減少したのは、遊び場の利用やスポーツへの参加が減少したことによると思われる。
PFの危険因子としては、遺伝、肥満、摂食障害、栄養不良、砂糖入り飲料の過剰摂取などがある。
また、危険因子としてビタミンD3濃度の低値も広く議論されている。
しかし、ビタミンD3状態と小児骨折のリスクについては文献上で矛盾したデータが示多く、結論は一致しない。
結論
ビタミンD補給は、骨のターンオーバーの減少、転倒の頻度の減少、筋肉機能の改善により、股関節骨折のリスク低減に寄与する可能性が示唆された。
また、ビタミンDはスポーツ選手や新兵におけるストレス骨折のリスクを低下させ、より良いパフォーマンスとコスト削減につながる可能性がある。
ビタミンD補充と椎体骨折のリスク低下との関連一貫性がなかった。
小児骨折に対するビタミンD予防効果は確認できないようだ。
骨粗鬆症性骨折リスクの高い高齢者集団において、ビタミンDの投与は、骨折予防に有効な戦略であると考えられる。