不妊治療を行っている患者さんがお越しになる機会が増えた。
お話を伺う限り、卵子の成長(増殖?)が適切に進行するのは稀で、なかなか思い通りに治療が進めるのは難しいようだ。
卵子の質には母親の年齢が関与していることは明らかだが、母体の栄養状態など外的要因も卵子の質を調節する可能性が近年指摘されており、加齢による内的要因だけでなく外的要因の解明が不可欠となっている。
古来より小麦はヒトにとって主要な食料で、現在に至るまで消費量は確実に増加している。
近年、生殖機能の障害などグルテン関連の病気に罹患する人が増加傾向にある。
過去の線虫モデル研究では、小麦の主成分であるグリアジンの摂取が線虫の酸化ストレスを誘導し、卵母細胞の品質を維持する上で重要なプロセスである生殖細胞アポトーシスを増加させることが明らかになっている。これは、グリアジン摂取が線虫の生殖能力にとって有害な外因性因子であることを示唆しており、母体の栄養状態が卵子の品質に及ぼす影響を検討するための良いモデルと考えられている。
リンクの研究は、過去の研究と比較可能な線虫モデルを示すために、グリアジン摂取が卵母細胞、ひいては子孫に与える悪影響を検討したもの。
結果
母親のグリアジンペプチド(GP)摂取は染色体異常とミトコンドリア酸化ストレスを介して卵子の品質を低下させるが、抗酸化物質処理によりその低下が抑制されることを見出した。
GP摂取による卵子の質の低下は、結果として胚の致死率を上昇させた。
酸化ストレス応答遺伝子である prdx-3 と gst-4 の発現はGP摂取により有意に増加した。
GP摂取は酸化ストレスと腸内環境の乱れ線虫の生殖能力を低下させることが明らかとなった。
これらの結果は、母親の栄養状態が生殖能力や子孫の健康と強く関連していることを裏付けている。
また、腸と生殖細胞の間に関連性があり明確な組織間相互作用を及ぼしていることも明らかになった。
Maternal Gliadin Intake Reduces Oocyte Quality with Chromosomal Aberrations and Increases Embryonic Lethality through Oxidative Stress in a Caenorhabditis elegans Model
・生殖機能の老化が始まると卵子の質は急速に低下する。
廊下が開始する時期、生殖細胞は母親の栄養状態を含む環境要因に対して非常に脆弱。
・Day-1成虫とDay-3成虫を解析し、GP摂取に対する反応を比較した。
Day-1 成体、Day-3 成体ともに体細胞は健全であるが生殖能力は Day-3 から低下し始める。
Day-3 成体ではGP摂取による生殖機能への毒性が増強されるという仮説から、Day-3は母親のGP摂取による生殖能力への影響を解析するのに適切な時期であると考えた。
実際、Day-3成虫の卵母細胞および腸では、GP摂取により酸化ストレスが有意に上昇した。
この段階で腸は元気だが生殖器が衰えていることを考えると、GP摂取が腸と生殖器の老化を加速していることが示唆された。
・注目すべきは、Day-3成虫の生殖細胞ではGP摂取による激しい変化が観察されたのに対し、Day-1成虫のものではわずかな変化しか観察されず、生殖機能が老化した卵子では母親のGP摂取による影響がより深刻であることが示唆されたこと。
この結果は、GPの影響が年齢に依存的であることを示している。
・線虫では、環境因子によって引き起こされる酸化ストレスが生殖能力を劣化させるが、この効果は抗酸化剤処理によって回復させることが可能。
GP処理したDay-3成虫は、腸と卵母細胞の両方で腸管漏出とmtROS産生を増加させたが、これらの影響はNAC処理によって抑制された。
これらの知見は、GP摂取による毒性作用による酸化ストレスと腸の完全性の乱れが染色体異常を含む卵母細胞の変化と関連していることを示す。
染色体異常のある卵母細胞は最終的に胚の致死率を高め、これらの卵母細胞から発生した生存子孫の一部は酸化ストレス耐性が低下していた。
上記の結果は、GP摂取が酸化ストレスを引き起こす結果、卵子の質が低下し、不健康な子孫を残すことを示唆している。
・GP摂取により多くの抗酸化遺伝子の発現が増加したが、GP摂取による酸化ストレスは残存していた。抗酸化遺伝子は酸化ストレスに対して活性化されるが、GPの存在下では酸化還元恒常性を維持できないことを示唆している。