がん細胞が正常細胞に比べて増殖が速いことはよく知られている。
その理由は、癌細胞は自身の増殖を維持するために大量のグルコースやアミノ酸を常に必要としているため、がん組織における代謝調節は健康な組織とは異なることが挙げられる。
いくつかの先行研究が、食事組成が癌細胞増殖を進行を維持させる環境に身体を変化させる可能性を報告している。
メチオニンは、肉類、ナッツ類、卵、穀物から摂取され、人体では生産できない必須アミノ酸。
メチオニンはタンパク質の構成成分で、正常な成長と発達に不可欠であり、DNAメチル化反応における主要なメチル供与体であるS-アデノシルメチオニンの前駆体でもある。
乳がんの発生や進行などの悪性化に伴ってアミノ酸需要が増加すると細胞はメチオニン欠乏を経験し、エピジェネティックプロセスに影響を与える可能性がある。
実際に多くの動物研究で、食事や細胞培養液中のメチオニンを制限することで、乳がん細胞の増殖や転移が抑制されることが示されている。
一方で、ヒトにおけるメチオニン摂取量の変化と乳癌の生存率との関連について検討した先行研究はない。
リンクの研究は、乳がん診断前から診断後までのメチオニン、葉酸/葉酸、ビタミンB12の食事摂取量の変化と、乳がん生存者における死亡率との関連を検討することを目的としたもの。
対象は、浸潤性乳がんと診断され、乳がん診断前と診断後の両方で食事頻度アンケートに回答した閉経後女性1553名。
結果
診断前と比較して28%の女性がメチオニン摂取量を20%以上減らし、30%の女性がメチオニン摂取量を20%以上増やし、42%の女性は乳癌診断後のメチオニン摂取量が比較的安定していた。
平均16年の追跡期間中に、乳がんによる死亡195人を含む、合計772人が亡くなった。
メチオニン摂取量が比較的安定している女性と比較して、メチオニン摂取量が減少している女性は、完全調整モデルにおいて全死因死亡率および乳癌死亡率のリスクが低かった。
一方、メチオニン摂取量の増加、葉酸/葉酸またはビタミンB12摂取量の変化は、全死因死亡率および乳癌死亡率との関連は認められなかった。
閉経後の浸潤性乳がん生存者において、乳がん診断後の食事性メチオニン摂取量の減少は、全死因および乳がん死亡のリスク低下と関連していたと結論。
・浸潤性乳癌の診断後の食事性メチオニン摂取量の減少は、全死因および乳癌による死亡リスクの低下と関連することが示された。
一方、食事性メチオニン摂取量の増加は、乳がん生存者における生存率とは関連しなかった。
葉酸/葉酸またはビタミンB12の食事摂取も乳癌の生存と関連しなかった。
・乳がん細胞の培養では、培地中のメチオニンを制限することで細胞増殖が制限される。
動物モデルでは、メチオニン不足の食事は乳腺腫瘍の転移を抑制する。
メカニズムとして、メチオニン合成の欠陥による癌の外因性メチオニンへの広範な依存性が考えられている。
・7件の前向き研究および6件の症例対照研究のメタアナリシスでは、閉経後の女性において病前のメチオニン摂取量が多い場合と少ない場合とが乳がんリスクと有意に関連していたが、閉経前の女性では有意差は認められなかった。
当院のブログを読んできた方はメチオニンの文字を見て「あの食材」とピンときた方も多いと思う。
栄養学の論文に頻出するメチオニンを多く含んだ癌のリスク要因食材といえば、
YES、赤身肉。
メチオニンを含む食材を全てカットしていたら食生活がなりたたなくなるので、まずは多くのデータが関連性を指摘する赤身肉からのメチオニン摂取を減らしてみてはどうだろう。