当院にお越しになる産後の患者さんから高確率でお悩みを聞く乳腺炎。
症状解決にお役に立てることはないかと、せめて情報共有だけでも。
不顕性乳腺炎(SCM)は、無症状だが母乳(HM)組成を変化させ、乳房炎に進行し、子供の成長に悪影響を与える可能性がある。
乳腺炎になるとフリーラジカルが放出され、母乳中の抗酸化能が低下する。
ビタミンEとセレンは酸化物質を中和し、炎症性サイトカイン産生を抑制することから特に重要な抗酸化物質とされている。
一般に食事に含まれる栄養素は炎症制御に中心的な役割を担っている。
精白穀物、炭水化物、赤身肉の多量摂取は炎症バイオマーカーであるC反応性タンパク質(CRP)およびインターロイキン6(IL-6)の高濃度と相関があることが分かっている。
一方で典型的な地中海食(赤肉とバターを控え、全粒粉、魚、果物、緑黄色野菜を多く含み、アルコールとオリーブオイルを適度に摂取)や果物や野菜を多く含む食事をしている人は、炎症レベルが低いことが観察されている。
ビタミンD欠乏は、炎症の増加と関連している。
オメガ3多価不飽和脂肪酸(n-3PUFA)、ビタミンA、D、C、E、葉酸、セレンは、抗炎症作用を発揮することが示されている。
エイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)、α-リノレン酸などのn-3脂肪酸が豊富な食事は、さまざまな免疫細胞の炎症機能を調節することによって保護効果を与えることが示されている。
また、β-カロテン、ビタミンE、マグネシウム、ビタミンCは炎症のレベルを低下させる。
リンクの研究は
(1) 食事性炎症指数(DII®)とSCMの関連性を検証する。
(2) SCM女性と非SCM女性との栄養摂取の違いを評価する。
を目的としたもの。
170人の女性を解析対象とし、多変量ロジスティック回帰を用いてSCMに関連する栄養摂取量とDIIスコアの関連を検討。
非SCM女性は、中等度または高度のSCMの女性よりもDIIスコアの中央値が低かった。
DIIが1単位増加すると、国および分娩様式を調整した後で、SCMを有する確率が約41%増加した。
SCM女性はいくつかの抗炎症性栄養素の平均摂取量が少なかった。
SCMが炎症促進性の食事と関連している可能性があると結論。
The Dietary Inflammatory Index Is Associated with Subclinical Mastitis in Lactating European Women
・非SCM女性は中等度または重度のSCM女性よりもDIIの中央値が低かった。
SCM女性は、非SCM女性と比較していくつかの抗炎症性栄養素の平均摂取量が少なかった。
・今回の研究でSCM女性は、いくつかのミネラル(カリウム、マグネシウム、リン、カルシウム、マンガン、セレン)の摂取量が統計的に有意に低いことが示された。
・マグネシウムは免疫系で重要な役割を果たす。マウス実験では、短期間のマグネシウム不足は、炎症性サイトカインの増加や腸内ビフィズス菌量の減少をもたらす。
・セレンは脂質過酸化物を減少させて細胞を酸化ストレスから保護し、乳中では抗菌活性を持つ。
・SCM女性は、非SCM女性と比較していくつかのビタミン(ビタミンCとE、β-カロチン、ビタミンB群)の摂取量が有意に少なかった。これらのビタミンは、酸化ストレスや炎症反応を抑えるだけでなく免疫系の正常な働きに寄与している。しかし、これらのビタミンがSCMの予防や治療に有益であるかどうかは明らかではない。
・ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染女性では、ビタミンAとβ-カロテンの両方のサプリメントを摂取すると、重症SCMリスクが高くなることがわかった。
・ビタミンEの補充は産後3カ月で母乳中のNa:K、ならびに特異的サイトカインのトランスフォーミング成長因子β2(TGF-β)とインターロイキン8(IL-8)を低下させ、SCMに対するビタミンEの保護的役割を示唆した。
・抗酸化物質であるビタミンCは、イオン供与体であるビタミンEの再生をサポートする。
最近の研究では、ビタミンCがグラム陽性菌、特に乳腺炎の主な原因物質と考えられている黄色ブドウ球菌の増殖を直接阻害する役割も実証されている。
・ビタミンCと同様にビタミンB群もBおよびTリンパ球の成熟と機能など免疫反応の調節に重要な役割を担っている。
・今回、いくつかの抗炎症性栄養素の摂取量が少なく、食事の炎症性ポテンシャルがSCMと関連していることがわかった。抗炎症性食品と炎症性食品の摂取の不均衡が、酸化ストレスを誘発し、ひいてはSCMの病因に関与している可能性があるとの仮説が成り立つ。