閉経は、卵巣から分泌されるエストロゲンが徐々にかつ恒常的に減少することで体内の代謝および生理的変化をもたらす。
閉経後女性は肥満度の上昇と相まって全身性炎症と代謝異常が起こり、がん、心臓血管疾患、2型糖尿病などの慢性疾患の発症リスクが高くなる。
そのことから、近年全身性炎症と代謝障害を制御するための代替的な自然治療法に関心が高まっている。特に機能性食品は、慢性非伝染性疾患に関わる生理学的プロセスをターゲットとすることが可能なため注目されている。
機能性食品として有望な天然由来抗炎症性化合物の例として、クルクミンが挙げられる。
クルクミンは抗炎症および抗糖尿病作用が研究されている。
以前の研究で、クルクミンとクロロゲン酸(CGA)の同時投与がマクロファージにおける炎症を相乗的に抑制することが示されている。
CGAはコーヒーから得られる成分で、強力な抗酸化作用を有している。
研究では、リポ多糖(LPS)で刺激して炎症を誘発させたマクロファージ細胞細胞をクルクミンとCGAを併用して4時間処理したところ、TNFαやIL6など複数の炎症マーカーの遺伝子発現が、クルクミンまたはCGAを単独で処理した場合と比較して有意に減少した。
上記の結果を基に、炎症および代謝プロセスを標的とすることを目的として、クルクミンとクロロゲン酸を含む生物活性ココナッツヨーグルトが開発された。
リンクの研究はこの生物活性ココナッツヨーグルトの摂取が、過体重または肥満の閉経後女性における食後の炎症マーカー(TNFαおよびIL6)および代謝(トリグリセリド、インスリンおよびグルコース)に及ぼす急性効果を調査したもの。
BMIが25~40の健康な閉経後女性を対象に、生物活性ココナッツ(クルクミンとクロロゲン酸を強化)またはプラセボヨーグルトを125g補給。ベースライン、30分後、食後1、2、3、4時間後に血液サンプルを採取。
血漿中の炎症マーカー(TNFαとIL6)および代謝マーカー(トリグリセリド、インスリン、グルコース)を測定。
プラセボと比較して、生物活性ココナッツヨーグルト摂取後の血漿TNFαのCmaxが有意に低下した。
さらに、血漿TNFαは生物活性ココナッツヨーグルト摂取後、ベースラインと比較して食後に有意に低下したが、プラセボは低下しなかった。
代謝マーカーに差は認められなかった。
クルクミンとクロロゲン酸を強化した生物活性ココナッツヨーグルトは、炎症メディエーターを減少させる可能性があると結論。
・炎症および代謝異常リスクが高い閉経後女性において、クルクミンとCGAを含む生物活性ココナッツヨーグルトの炎症および代謝マーカーに対する急性効果を評価した。
女性は125gの生物活性ココナッツヨーグルトを摂取し、食後にマーカーを測定。
参加者が摂取したヨーグルトの量が少なく、急性期であるにもかかわらず、生物活性ココナッツヨーグルトが炎症マーカーTNFαに影響を与えることが観察された。
・高脂肪食(≧30g)摂取後の血漿トリグリセリドとグルコース上昇は、閉経後、過体重、肥満などの代謝機能不全で悪化する全身性炎症を増幅させる。
本研究で被験者に与えられた食事には40gの脂肪が含まれており、摂取後の被験者の血漿トリグリセライドを有意に上昇させた。
脂肪摂取(30g以上)による血漿トリグリセリド上昇に過体重状態およびエストロゲン欠乏が組み合わされたことから、この研究で起こった血漿TNFαの変化は食後の炎症に関連していると思われた。
・摂取される脂肪の種類は食後反応に影響を与える。
参加者は40gの主に飽和脂肪酸(脂肪の75%はヨーグルトから)を摂取したが、TNFαの変化はわずかであり、ココナッツクリームは閉経後女性にとって許容できる官能特性を持つ機能性食品を作るのにふさわしい素材であることが示唆された。
・TNFαは様々な生体内プロセスに関与する多面的な炎症性サイトカインで、酸化ストレスを含む急性炎症反応を促進する。
TNFαは慢性炎症の主要な指標の一つであるため、TNFαを阻害する物質の開発が進められている。
TNFαを標的とし、日常の食生活の一部として摂取できる天然由来の食品は慢性炎症リスクを低減する手段として魅力的である。
・TNFαは複数の病気や閉経後女性の機能障害と関連している。TNFαの阻害は、特に加齢や閉経後女性における血管機能障害に対して有効であることが示された。
TNFαはエストロゲン欠乏に関連する閉経後女性の骨粗鬆症、インスリン抵抗性、動脈硬化の低次刺激として関与している可能性があることが研究により示されている。
TNFαはインスリン受容体のチロシンキナーゼ活性を阻害することでインスリンシグナルを直接的に阻害する。
脂肪が末梢のインスリン抵抗性を誘導する重要なメカニズムである可能性が指摘されている。
・生物活性ココナッツヨーグルトの摂取後30分から食後血漿TNFαの一過性の減少が認められた。この一過性の減少は過去の研究でも高脂肪食摂取後に見られ、食後インスリンとその潜在的な抗炎症作用に関連していると考えられる。
この一過性の減少は、主にインスリン抵抗性を持たない健康な参加者において有意であることが示されている。
・今回の研究では生物活性ココナッツヨーグルトの摂取後に食後TNFαの有意な減少が観察されたが、プラセボヨーグルト摂取後には観察されなかった。
この知見は、ヨーグルト中の生物活性化合物が閉経後の女性において、食後TNFα減少を通じてインスリン感受性調節に寄与する可能性を示唆する。
・以前の研究で、クルクミンとCGAを併用するとマクロファージ細胞株におけるTNFαおよびIL6遺伝子の発現が低下することを報告した。
他の研究でもクルクミンがTNFαやIL6を含む炎症性マーカーに影響を与えることが報告されている。クルクミンによるTNFα阻害は、主に炎症のマスターレギュレーターである核因子κB(NFκB)のダウンレギュレーションを含む複数の炎症経路を介して多くの細胞タイプで起こる。
クルクミンがこれらの細胞に到達できることを前提とすれば、ヒトにおいて抗炎症作用が観察される可能性が高い。
無作為化対照試験の系統的レビューとメタ分析では、クルクミンが血漿TNFα濃度を有意に低下させることが示された。それらの試験では、クルクミンを栄養補助食品として少なくとも1カ月間使用した。
レビューで分析された試験のいくつかでは、クルクミンの低生物学的利用能を克服するために、クルクミンとピペリンを組み合わせていた。
この研究では、クルクミンを抗酸化物質(CGA)と組み合わせることで、摂取後数時間以内に血漿TNFαが減少することが明らかになった。
・この研究のプラセボと生物活性食品はどちらもココナッツヨーグルトを使用。
ヨーグルトのベースとなるココナッツミルクは、成熟したココナッツの細断片から抽出された液体で、中鎖脂肪酸(MCFA)を主成分としている。
MCFAは代謝機能を向上させるなどの健康効果があることが知られている。
さらに、この研究で使用されたヨーグルトには生きたプロバイオティクス培養物が含まれており、これも免疫や消化器の健康に関連して健康上の利点がある。