最近スポーツ障害のご相談で当院にお越しになる方の傾向として、ゴルフやテニスなど屋外スポーツの種目の方が一気に増えたことにある。コロナ禍前は、圧倒的にジムで筋肥大やパワーリフティングなど高重量を扱う種目の方が多かった。
ゴルフやテニスのスポーツ障害というとゴルフ肘やテニス肘といった肘関節の障害や、膝関節痛といった四肢の障害を連想する方が多いかもしれないが当院でご相談が多いのはダントツで背中の痛みと股関節痛。
特に↓の画像のようなフォロースルーの際に背部(特に肩甲骨付近)に激痛が走るというご相談が非常に多い。
先日も診た女性ゴルファーの背部痛のケースでは治療前のペインレベル10→治療後ほぼ0。
回旋負荷に対して脆弱な関節のケアは、セルフでは非常に難しい。
高パフォーマンスを維持したい方は是非一度当院にご相談ください。
さて本日のブログは、母乳育児中の母親の栄養状態が母乳組成や新生児に及ぼす影響について、最新のレビューをまとめてみたい。少々長文になってしまい読みづらいかもしれないが、きっと参考になる文脈が発見できると思う。
ご自身の体質や生活習慣とすり合わせながら読んでいただけたら幸いだ。
母乳育児中の十分な栄養摂取が母親と赤ちゃんの健康を確保する上で極めて重要であることは言うまでもないだろう。母乳育児は独特の栄養素を子孫に提供し、健康面において長期的な利益をもたらす一方で、高エネルギーと重要な栄養素を必要とする時期である。したがって、母親にとっては栄養面で特に脆弱な時期でもある。
母乳組成に影響を与える要因は数多くあるが、主に母親の食事摂取量、体組成、母親の脂肪蓄積量、地理的、文化的、社会経済的要因が影響を与えることが強調されている。
授乳中の女性が社会経済的に不利(日本のように現役世代・妊娠適齢期世代への重税国家も含む)な途上国に住んでいるケースでは栄養不足が頻繁に観察され、健康に悪影響を及ぼす可能性が高い。
しかし先進国でも、十分な量と種類の食品を入手できるにもかかわらず理想的ではない偏った食事や不十分な栄養密度が観察されており、貧血、肥満、心血管系疾患との関連が指摘されている。
加えて、授乳期間中は新生児に注意が向けられ、授乳中の母親の食事についてはあまり考慮されない傾向がある。
したがって、母親の栄養状態が母乳と新生児に及ぼす影響を再度認識することは星の中長期的な健康にとって非常に重要といえるだろう。
リンクのレビューは、母乳育児中の母親の栄養状態(脂肪酸と微量栄養素)、および食事とサプリメントが母乳組成に及ぼす影響に関する最新情報を提供するために、欧州食品安全機関(EFSA)および世界保健機関/食糧農業機関(WHO/FAO)が提唱する食事摂取基準値(DRV)と栄養摂取量を比較したもの。
【レビューの結論】
・授乳期の女性は妊娠中と比較して、栄養必要量が多いにもかかわらず質の低い食事パターンをとる傾向があることは注目に値する。
・授乳期にはサプリメントの消費量も著しく減少する。
・授乳期の母親の栄養補給と母乳中の栄養素濃度との間には非常に良好な相関が観察されている。
・脂溶性ビタミン(A、D、E、K)、ビタミンB群(B1、B2、B6、B12)、ビタミンC、およびミネラル(セレン、亜鉛、ヨウ素、マグネシウム)を含むサプリメントは母乳組成に最も大きな影響を与える。
・多価不飽和オメガ3脂肪酸の補給でも非常に良好な結果が得られている。
授乳中の母親の栄養状態
授乳期における脂肪酸摂取量
・アラキドン酸(AA、n-6)とドコサヘキサエン酸(DHA、n-3)は必須長鎖PUFAであり、胎生期や胎児期、また生後間もない時期における代謝や生理学的プロセスにおいて重要な役割を果たす。AAとDHA濃度が最も高いのは神経系、特に脳と網膜で、特に細胞膜のリン脂質に多く含まれ、脳の発達、神経細胞の分化、全体的なエネルギーと代謝状態に積極的に関与している。AAの重要な機能にもかかわらず、規制当局はこのn-6系脂肪酸の必要性を示唆していない。
・n-6系脂肪酸が炎症を引き起こすエイコサノイドの前駆体として機能するのに対し、n-3系脂肪酸は抗炎症作用を持つエイコサノイドの前駆体である。推奨レベルを超える過剰なn-6系脂肪酸の摂取は、n-3系脂肪酸の利用能に影響を及ぼす可能性がある。高n-6/n-3比(15/1)は炎症を促進し、慢性疾患(心血管疾患、炎症性疾患、自己免疫疾患)になりやすいようだ。
・欧米諸国では魚からのDHA摂取量は、LAやAA(植物油や卵、肉から)に比べて少ない。食事からのn-6系脂肪酸摂取量が多いことに加え、食事から摂取したALAのDHAへの代謝変換は非常に非効率的で限られており、魚介類を好まない人口のかなりの部分で最適な健康を促進するのに十分でない可能性があることを強調することは重要。
・母乳の脂肪酸組成と妊娠中および授乳期における母親の食事からの脂肪酸摂取量との関係については、いくつかの研究で立証されている。妊娠中および授乳中の組織脂肪酸濃度は、女性の食事、貯蔵能力および脂肪酸の代謝的利用(合成、酸化、または輸送)に直接関係している。したがって、食事と脂肪酸代謝の両方が母乳中の長鎖脂肪酸濃度を決定すると考えられる。乳児が長鎖脂肪酸を利用できるかどうかは、まず胎盤を通して、次に母乳を通して母親から子孫に移行するかどうかにかかっている。母親の食事から摂取された脂肪酸は(6時間以内に)母乳に移行し、最初の摂取から数日間は母乳中に留まる。
・長鎖n-3系脂肪酸、エイコサペンタエン酸(EPA)とDHAは、妊娠中の赤ちゃんと授乳期の子供の視覚と認知の発達に寄与する。乳児のn-3系脂肪酸の摂取量は、母乳を介した移行に直接依存する。さらに、食事性DHAは母乳中DHA濃度に用量依存的に強い影響を及ぼす。
・魚の消費量とヒト母乳中DHA濃度との関係を調査した2018年の研究では、魚、バター、アボカドの消費量とヒト母乳中のDHA濃度との間に正の相関があることが観察された。さらに、魚を食べる母親(少なくとも週に2皿以上)は、そうでない母親に比べてヒト乳汁中のDHA濃度が有意に高いことがわかった。この関係は他の研究でも観察されている。
・DHA摂取不足に対処するため、オメガ3脂肪酸(特にDHA)を含むサプリメント、またはDHAを強化食品を推奨するデータもある。2015の研究では、低用量または高用量のDHAを6週間補給したところ、母乳中のDHA絶対量がプラセボよりも有意に多くなったことが示されている。
授乳中の微量栄養素摂取
授乳期の母親の摂取量
授乳期は十分な微量栄養素の摂取が特に重要。微量栄養素は新生児の神経発達、代謝過程、組織や筋肉の合成、酸素輸送、DNA合成などにおいて非常に重要な役割を果たす。
さらに、微量栄養素の抗酸化作用は新生児の免疫系が適切に機能するために不可欠。
ビタミン
・妊娠中および授乳期(産後4ヵ月)の女性310人を対象に実施した2013年の研究では、ビタミンA、ビタミンB1、ビタミンB2、ナイアシン、ビタミンB6、ビタミンC、葉酸の摂取量が不足していることが観察された。2019に母乳のみで子どもを育てている113人のインドネシア人女性(平均年齢25.8歳)を対象に行った研究でも、授乳中の母親グループではビタミンA、ナイアシン、ビタミンB6、ビタミンB12の摂取不足が観察されている。母親のビタミンA、ナイアシン、リボフラビンの習慣的な1日の摂取量は、母乳中のこれらの微量栄養素の濃度と正の相関があることもわかっている。
同様に、Coppら(2018)は16人の授乳中のアメリカ人女性の食事を分析し、平均摂取量がビタミンB1(1.9mg)、B2(2.2mg)、B6(1.9mg)、B12(5.0μg)の米国推奨食事許容量(RDA)を満たしていることを発見した。
しかし、ビタミンA(753.1µg RAE)、ビタミンD(6.6µg)、コリン(317.1mg)の平均摂取量は推奨量を満たしておらず、ビタミンAは推奨摂取量の58%、ビタミンDは44%、コリンは58%しかカバーしていなかった。
・2021年にスペインの授乳育児中女性30人を対象に行った研究では、ビタミンD、ビタミンA、葉酸の摂取不足が観察された一方で、ビタミンB1、B2、B3、B6、B12の摂取量は適切(推奨値を上回る)だった。これは、授乳中の母親の大半が十分な野菜と果物を摂取し、地中海式食品ピラミッドを高い割合で遵守していたこと、ビタミン・ミネラルのサプリメント摂取していた割合が高かったことと関連していた。ビタミンEの摂取量は産後28日目に有意に高く、
この集団に対する推奨値を十分に満たしていることが確認された(ビタミンEは、子宮外環境における酸素誘発毒性に対する抗酸化防御として作用することから生後間もない時期に特に重要であることは注目に値する)。
・それぞれの研究で対象となった授乳中女性のビタミンD摂取量が全般的に低く、推奨値を大きく下回っていることは注目に値する。ビタミンDはカルシウム恒常性と骨の健康を維持するために不可欠であり、自然免疫機能と自己免疫機能において重要な役割を果たしていることを示唆する証拠もある。ビタミンD欠乏は母子ともに有害であり、成人では骨軟化症、乳児ではくる病や発育遅延リスクが高まる。さらに、ビタミンDの不足は成人および小児における自己免疫疾患、小児における呼吸器感染症リスク上昇に関連する。ビタミンD欠乏症は日照時間の長い国であっても公衆衛生上の懸念事項である。
・ビタミンD欠乏症の予防およびビタミンD欠乏症の同定と迅速な治療のための授乳中女性のスクリーニングは極めて重要である。授乳中女性の血清ビタミンD濃度が低いのは、ビタミンD含有食品の摂取量が少ないこと、日光浴が限られていることが関係している。ビタミンDは母親の血清から母乳に移行することから、食事によるビタミンD摂取が不十分な母親の乳児もビタミン不足を示す可能性が示唆される。
ミネラル
カルシウム、リン、カリウム、鉄、亜鉛、ヨウ素、マグネシウムに関する考察
・カルシウム摂取量について母乳育児中の母親(産後1ヵ月)を対象に実施した2021のMEDIDIET研究で、産後7日目と28日目の食事を分析したところ、授乳期7日目に986mg/日、28日目に1094mg/日のカルシウム摂取量が観察され、いずれも基準摂取量(1000mg/日)に一致していた。同様の摂取量はスペイン、クロアチア、メキシコで母乳育児中の母親を対象に実施されたがNZの研究では基準勧告を下回るカルシウム摂取値が観察された。
・数々の研究で、推奨適切摂取量(AI)である550mg/日を大幅に上回る摂取量が示されている。EFSAは推奨する適正摂取量は4000mg/日である。
・カリウムは授乳中の母親の血圧など特定の生理学的パラメータに影響を与える可能性がある。
実際に、カリウムの豊富な食事には血圧を下げる効果があることが実証されている。
様々な研究で観察された母親のカリウム摂取量は、EFSAが提唱する基準摂取量(16mg/日)を大きく下回っていた。
・亜鉛の推奨摂取量は(12mg/日)である。多くの研究で、これに近い摂取値が観察されている。スペインで授乳中の母親を対象に行われた研究では、母乳中の亜鉛含有量と母親の食事からのミネラル摂取量との間に正の相関関係が観察されている。母乳は新生児にとって亜鉛の主要供給源である。亜鉛は様々な細胞プロセス、酵素機能、免疫反応に関与し、小児では、成長、免疫系、認知能力に関連している。亜鉛欠乏の危険因子には、下痢、吸収不良症候群、寄生虫がある。
・ヨウ素摂取の推奨摂取量は200μg/日。多くの研究で、授乳中の母親のヨウ素摂取量が推奨値を満たしていなかった。ノルウェーの授乳中の母親を対象に行われた研究では、母親のヨウ素摂取量と授乳中乳児の尿中ヨウ素濃度との間に関係があることが示され、母親のヨウ素摂取量と母乳栄養児のヨウ素状態との関連性が確認された。授乳中女性は、自分と子供の甲状腺機能を最適にするために十分な量の要素を摂取すべきである。母乳中のヨウ素濃度は母親のヨウ素摂取量に直接依存するため、母乳のみで育てられた乳児は母親のヨウ素摂取量に完全に依存することになる。
・マグネシウム摂取量の推奨値は(300mg/日)。ポーランド、米国、メキシコでは、推奨値を超える値が観察されている。
サプリメントの効果
授乳中の摂取
・前述のように母乳成分は母親の食生活に左右される。チアミン、リボフラビン、ビタミンB6、ビタミンB12、ビタミンA、ビタミンD、ビタミンE、ヨウ素、セレン(風土病で欠乏している集団の場合)のような一部の微量栄養素は、母乳が乳児の主な栄養源であることが観察されており、母乳中のこれらの微量栄養素量は母親の摂取量によって大きく異なる可能性がある。
カルシウム、鉄、銅、亜鉛は母親の状態や食事からの摂取量は母乳中濃度にほとんど影響を及ぼさない。
・微量栄養素不足時は母親の体は赤ちゃんのニーズを優先する。そのため上記の微量栄養素は、母体の貯蔵量を犠牲にして十分な量が母乳中に移転され続ける。その結果、乳児は母親の欠乏から比較的よく保護されるが、母親の摂取量が推奨量を満たさない場合は授乳期間中に栄養不足に陥るリスクが高くなる。多くの場合、このような栄養不足は適切な食事計画とサプリメントの使用により改善することができる。
・泌乳期間中の女性の栄養ニーズはその強度と期間に直接関係している。泌乳初期(最初の数ヵ月)の母親の栄養状態の評価は、泌乳期間が延長した後(6ヵ月超)の母親の栄養状態とは一致しない可能性がある。
ビタミン補給が母乳成分に及ぼす影響
・ビタミンAあるいはレチノール、パルミチン酸レチニル、レッドパームオイル(プロビタミンAを豊富に含む)、β-カロテンなどの様々なサプリメントが母乳成分に及ぼす影響について調査した研究では、ビタミンA補給はヒト母乳中のレチノールまたはβ-カロテン濃度を有意に上昇させた。9424人の授乳中の母親(インド、ペルー、ガーナ)にビタミンA(60mg)を単回投与したところ母乳中のビタミンA濃度が有意に上昇した。
・授乳中の母親のグループに90mgのβ-カロテンカプセルを、別のグループに同量のレッドパームオイルを補給したところ母乳中ビタミンA濃度に好影響が認められた。母乳中のβ-カロテン濃度の増加はどちらのグループでも見られたが、プロビタミン豊富なレッドパームオイルを投与された女性の方が有意に高かった。また2004年の研究では、母乳中β-カロテン濃度は、β-カロテン(4.5mg/日)を補給したすべての女性で高かったが、母乳中レチノール濃度はβ-カロテン+亜鉛(4.5mgのβ-カロテンと1日30mgの亜鉛)を補給した女性でのみ高かった。
・産後の母体へのビタミンA補充効果を解析したランダム化比較試験の結果では、一般にビタミンA補充剤を単回投与すると、母体血清レチノール、ヒト母乳中レチノール、肝ビタミンA貯蔵量が有意に増加することが示されている。
・母親が日光を浴びると母乳中ビタミンD濃度が向上するという研究がある。母親がビタミンD欠乏症の場合、乳児はビタミンD欠乏症になる可能性があることを理解しておくことが重要である。いくつかの研究では、母親がビタミンDを補充することで母親と乳児の両方の欠乏に対処できることが示されている。母乳のみで育てられた乳児は、生後1年間にInstitute of Medicineが乳児に推奨する1日量(400 IU/d)の20%未満しか摂取していないことが示されている。したがって、母親によるビタミンD補給は乳児への補給に代わる有効な選択肢となり、母親と乳児の双方にとっての懸念に対処することができる。
・高容量のビタミンD毒性は、高カルシウム尿症、高カルシウム血症、腎結石リスクと関連している。毒性を誘発するのに必要なビタミンDの正確な量、特定の期間に摂取する量はヒトでは不明だが、ある研究は20,000IU/日(500μg/日)であろうと示唆している(常識的にそんなに飲まないだろうと。。)ビタミンD過剰症は重篤ではあるが非常にまれな病態であり、このビタミンを生理的な量摂取してもこのような病態は発生しない。
・授乳中の母親へのビタミンD補給効果を乳児への補給と比較した研究では、母親への6400IU/日のビタミンD補給は安全であり、血中ビタミンD濃度を有意に上昇させることが観察された。
サプリメント(400IU/日)を摂取した乳児と摂取しなかった乳児のビタミンDの状態を比較しても有意差は認められなかった。このことは、母乳を通して乳児のビタミンD必要量を満たすには、母親のサプリメント摂取が適切であることを意味している。以前の研究でも、妊婦に高用量のビタミンD(4000-6400IU/日)を摂取しても毒性は報告されていない。
・ビタミンKに関しては、授乳中の母親に1日2.5~5mgのフィロキノンを補給すると、ヒトの母乳中のビタミンK(フィロキノン)濃度が上昇することが文献に示されている。ビタミンEも同様に、400IUのα-トコフェロールを単回補給すると母乳中のα-トコフェロール濃度が上昇することが研究で示されている。
・ビタミンB1、B2、B6、B12補給は母乳中のこれらのビタミン濃度が高いことと関連していた。いくつかの研究で、母親がチアミンを補給することで母乳中ビタミンの含量が増加することが観察された。2002の研究では、授乳中の母親47人のグループに異なる用量のビタミンB6(2.5、4、7.5、19mg/日)を補充したところ、補充量が多いほど母乳中ビタミン濃度が高くなることが観察された。
・菜食主義を実践している授乳中女性にとって、ベジタリアン食事は多くの栄養素が欠乏するリスクが高く、中でもビタミンB12の補給は不可欠である。授乳中のビーガン、ベジタリアン、非ベジタリアンのアメリカ人母親におけるB12サプリメントの使用とヒト母乳への影響を評価した2018年の研究では、サンプル全体の78.4%がビタミンB12を含むサプリメントを摂取していることが観察された。ベジタリアン食を実践しビタミンB12サプリメントを摂取している母親は動物性食品を含む食生活を実践している母親と同程度の母乳中濃度を示したが、サンプルの20%では、食事の種類にかかわらず、母乳中のビタミンB12濃度が乳児の適切な摂取量の基準値より低いことが観察された。
・葉酸に関しては、授乳期に摂取した葉酸サプリメントも赤血球葉酸レベルと直接関連していた。
・ビタミンCについては、2005年の研究で授乳中の母親に1000mgのビタミンCを10日間補給すると、母乳中のビタミンC濃度が有意に上昇することが観察された。
・鉄に関しては、多くの研究が鉄補給は母乳濃度に有意な影響を与えないという点で一致している。
・セレンの補給は、多くの研究で母乳中の濃度を増加させることが観察された。また、興味深いことに、セレン補給は母乳中のPUFA濃度、特にリノール酸濃度を上昇させSFA濃度を低下させている。
・世界保健機関(WHO)は現在、ヨウ素添加塩の摂取を国民全体で十分なヨウ素摂取量を確保するための方法として推奨している。ヨウ素添加塩を摂取していない家庭が大半を占める国では、女性は推奨されるヨウ素摂取量を保証するためにサプリメントを摂取すべきである。米国甲状腺学会は、授乳中女性は毎日150μgのヨウ素サプリメントを摂取すべきであると勧告している。
・産後の最初の3ヶ月間だけヨウ素サプリメントを摂取した女性は、ヨウ素を多く含むサプリメントを摂取用しなかった女性に比べて母乳中ヨウ素濃度が高いことがわかっている。ヨウ素の過剰摂取は甲状腺中毒症や甲状腺機能低下症につながる可能性がある。授乳中の女性がヨウ素添加塩やヨウ素含有油を摂取した場合の母子への悪影響を示す研究はない。実際に、ヨウ素欠乏症の有病率が高い発展途上国では、ヨウ素添加油の補給により3年間子どもの甲状腺機能低下症が予防され、死亡リスクも減少している。
・授乳中のカルシウム補給に関する研究によると、カルシウム補給は母乳中のカルシウム含有量を増加させる有意な効果はない(炭酸カルシウム1~1.5g/日)ことがわかっている。しかし、他の研究では、カルシウム補給は母親にとって有益であることが示されており(この時期は、母乳を通してカルシウムが失われるため、母親のカルシウムに対する要求が大幅に増加する)、授乳期の初期にカルシウム摂取量を増やすことで、1日のカルシウム摂取量が推奨量を下回る母親の骨喪失を減少させることができる可能性が示唆されている。
オメガ3多価不飽和脂肪酸の補給が母乳組成と母体の健康に及ぼす影響
・周産期における髄鞘形成、中枢神経系の発達、視覚発達におけるPUFAの役割は十分に確立されている。脳へのDHAの蓄積は妊娠後期から出生後1年間にかけて急速に起こることから、この時期は食事あるいは前駆脂肪酸(ALA)からの合成によって十分に供給される重要な時期である。
・出生前のオメガ-3脂肪酸サプリメントが子供の神経認知発達に及ぼす影響は、おそらく母親のオメガ-3脂肪酸の食事摂取量と、子孫が自身の前駆脂肪酸から十分な量のこれらの長鎖PUFAを産生する能力に依存する。
・オメガ3(n-3)脂肪酸の補給が母乳中DHAレベルを増加させ、新生児の健康状態改善に関連することが示されている。n-3サプリを妊娠中に投与した研究(DHAを200~2200mg/日、EPAを100~1100mg/日、約20週間)では、乳児の認知発達を示すいくつかのパラメータが改善することが観察された。
・授乳中の母親のDHA摂取量の増加が赤ちゃんの神経発達と視覚機能にどのような影響を及ぼすかを観察するため、産後4ヵ月間、母乳育児中の母親のグループに藻類油由来のDHA(200mg DHA/日)を、別のグループにはプラセボ(植物油)を補充するランダム化比較試験を実施した結果、DHAを補給した母親の血漿、母乳、子供の血漿中のDHA含有量が増加し、DHAを補給した母親の子どもは対照群の子どもと比較して、精神運動発達を評価するテスト(Bayley Psychomotor Development Index)で高得点を示した。さらにその子供たちを5年後に再評価した結果、母親が授乳開始後4ヵ月間にDHAサプリメントを摂取した5歳児は、プラセボを摂取した5歳児に比べ、持続的注意力テスト(Leiter International Performance Scale)の成績が良好であった。このことは、幼児期にDHAを摂取することで神経発達のさまざまな面で長期的な効果が得られることを示唆している。
・2022のメタ解析では、妊娠中および授乳中女性におけるオメガ3PUFAサプリメント摂取が、子癇前症、低出生体重児、早産、産後うつ病に対して好ましい効果をもたらし、乳児の成長(身体測定)、免疫系の発達、視覚活動を改善する可能性があることを示唆している。