患者さんと大腸がん(CRC)検診の話をしたタイミングでちょうどよくCRCに関する最新のデータが見つかったので簡単にまとめてみたい。
CRCの危険因子としては、遺伝的素因、エピジェネティック因子、喫煙、肥満、運動不足が挙げられる。
アルコール摂取、果物・野菜不足、食物繊維不足、高脂肪食、加工肉を多く含む食事など食事要因も挙げられる。
また近年の研究で、食事要因に大きく影響される消化管内での腸内細菌叢の組成変化がCRCリスクと大きく関係していることを示唆する報告が増えている。
腸内細菌叢は何兆もの細菌からなる複合体で、身体機能の多くの側面に影響を与えることは過去のいくつかのブログでご紹介したとおり。
ヨーグルトは世界的に代表的で人気のある発酵食品の一つで、腸内を善玉菌で豊かにするプロバイオティクスとして利用できる代表的な食物。
ヨーグルトがヒトの健康に寄与するメカニズムは複雑だが、短鎖脂肪酸などの免疫調整代謝物の産生、病原体の腸管上皮への侵入防御、抗菌化合物の生成、タンパク質分解酵素の生成、大腸における発癌物質生成を促進するアゾレダクターゼ、ニトロレダクターゼ、β-グルコロニダーゼの活性を低下させるなどが現在確認されている。
ヨーグルト消費とCRCリスクとの関連を評価した研究は増えているが、結論に一貫性がなく矛盾したものも多い。
リンクの研究は、ヨーグルトの摂取量が多いほどCRCのリスクが低いという仮説のもと、ヨーグルト摂取とCRCのリスクとの関連をさらに明らかにすることを目的として観察研究のメタ解析を実施したもの。
PubMed、Web of Science、Embaseで2021年7月からヨーグルト摂取とCRCリスクとの関連について、関連するすべての研究を検索。
最終的に16件の研究を分析。
ヨーグルトの摂取は、全体比較、コホート研究およびケースコントロール研究でCRCリスクの低さと有意であった。
研究地域、がんの種類、発表年、性別によるサブグループ解析に関して、ヨーグルトの摂取は、全体のCRC、結腸がん、遠位結腸がんのリスクを有意に減少させた。
ヨーロッパとアフリカ、2010年以降に発表された研究、および全人口でCRCリスクが有意に減少することが確認された。
感度分析の結果、結果は安定しておりメタ分析にバイアスはないことが示された。
全体として、ヨーグルトの摂取がCRCのリスク低下と関連していると結論。
Higher Yogurt Consumption Is Associated With Lower Risk of Colorectal Cancer: A Systematic Review and Meta-Analysis of Observational Studies
・このメタ解析では、計1,129,035人の参加者を含む16件の研究を分析。
ヨーグルト摂取量が最も少ないカテゴリーと比較すると、最も多いカテゴリーはCRCのリスク低下と関連が確認された。
ケースコントロール研究およびコホート研究のいずれにおいても、ヨーグルト摂取はCRCリスク低下と関連していた。
・近年、ヨーグルトの摂取がCRCのリスクを下げるという有益な効果が多くのヒトを対象とした研究によって支持されてきたが、今回の結論はヨーグルト摂取と他の疾患のリスクとの逆相関を示唆した以前のメタアナリシスによる証拠と概ね一致する。
・いくつかの臨床研究および疫学研究で、体重管理におけるヨーグルト摂取の重要な役割が示されている。肥満はCRCのよく知られた危険因子であるため、CRCのリスクを減少させるヨーグルトの摂取の有益な役割を間接的に支持する。
・ヨーグルトはニトロ還元酵素などの腸内酵素活性を低下させ、大腸癌に関係する可溶性糞便中胆汁酸のレベルを低下させることにより抗腫瘍効果を発揮する。
ラクトバチルス・ブルガリクス(L. bulgaricus)は、マウスモデルにおいて1,2-ジメチルヒドラジンによる腫瘍誘発を防ぎ、ストレプトコッカス・サーモフィルスとラクトバチルス・デルブルエッキーは、ともに抗原毒性代謝物を生成して発癌阻害剤として作用する。
・過去の系統的メタ解析と比較すると、この解析はさらに層別解析を行った最初のメタ解析で、対象となったすべての研究は中程度から高クオリティと評価されており、今回のメタ分析から得られたエビデンスは信頼できる。
成人のCRCのリスクを減少させる健康的なライフスタイルの一つとして定期的なヨーグルトの摂取を推奨したい。