今回のブログは、統合失調症における脂質と攻撃的行動の関係性がテーマ。
今回テーマとなるコレステロールは、スフィンゴ糖脂質やガングリオシドとともに脂質ラフトと呼ばれる膜の疎水性ミクロドメインに結合している。
脂質ラフトは細胞内の様々なプロセス、例えば協調とシグナル伝達、エンドサイトーシス、細胞骨格とのコミュニケーションに関与している。
コレステロールは脂質ラフトの必須成分であるため、コレステロール含量が変化すると上記のプロセスに影響を与え、シナプス伝達や神経の可塑性に変化を与える可能性が生まれ、脳内のコレステロールの不足や過剰は非常に深刻な結果をもたらす可能性がある。
さらに、膜脂質ラフトの変化は、コレステロールの枯渇に伴うセロトニンおよびドーパミンの神経伝達の異常を説明することができる。
セロトニン代謝産物である5-ヒドロキシインドール酢酸(5-HIAA)の減少は、うつ病、自殺行動、攻撃性と関連している。
リンクの研究は、統合失調症の女性患者において血清脂質レベルと攻撃性の関連を評価したもの(N =120)。
参加者は2群(攻撃型と非攻撃型)に細分化され、各群60名ずつが参加し、血清脂質-コレステロール、トリグリセリド、高密度リポ蛋白(HDLコレステロール)、低密度リポ蛋白(LDLコレステロール)を測定。
有意差はHDLコレステロール値のみに認められた。
攻撃的な被験者はHDLコレステロール値が有意に低く、低コレステロール値の被験者の割合は非攻撃的なグループに比べ、攻撃的な被験者グループではほぼ3倍だった。
攻撃性のある被験者では、自殺性はHDLコレステロール値とは有意な関連を示さなかった。
統合失調症女性において、HDLコレステロールの低下が攻撃性と有意に関連することを示唆。
Aggression in Women with Schizophrenia Is Associated with Lower HDL Cholesterol Levels
・臨床データでは入院期間に有意差が認められ、攻撃的な患者では入院期間が有意に長く、抗精神病薬の投与量はクロルプロマジン換算で、攻撃的な患者で平均約3倍の抗精神病薬の投与量だった。1日に吸うタバコの本数も攻撃的な患者群では有意に多くなっていた。
PANSSスケール、陽性症状、陰性症状、一般症状の各スケールの合計得点は、攻撃的な患者群で有意に高くなった。これらの結果から、攻撃的な患者は臨床像がより重く、治療においてより多くの抗精神病薬を必要とし、治療期間もより長いと考えられた。
・攻撃的な患者で1日当たりの喫煙本数が多いことについては、ニコチンには鎮静作用があり、抗精神病薬の副作用を緩和することからセルフメディケーションとの関連が考えられる。
・このデータとは対照的に、脂質と自殺傾向の関連を評価した先行研究(65の疫学研究からなるメタアナリシス)では、年齢が有意な要因だった。その結果、血清脂質レベル低下と自殺傾向の関連は、高齢者に比べて40歳以下の個人でより強いことが示された。
また他の先行研究では、自殺傾向のある女性は対照群と比較してHDLコレステロールが低かったが、自殺傾向のある男性はそうではなかったことから、性別も重要な役割を担っているようだ。
・一方で、日本人女性では血清コレステロール値の上昇と自殺傾向との間に関連があることを報告し他研究がある。暴力的な行動は女性よりも男性に多くみられる。低コレステロールと攻撃性の関連は主に男性に見られることから、男性は女性よりも低コレステロールに敏感であると思われる。
・他の女性のみを対象とした研究では、暴力的かつ自殺を試みた女性は、非暴力的かつ自殺を試みた女性と比較して総コレステロール値が有意に低いことが明らかになった。
・今回の研究では、攻撃的な行動をとる女性患者群では、非攻撃的な統合失調症患者群と比較してHDLコレステロールの値が有意に低いことがわかった。
他の脂質分画-コレステロール、トリグリセリド、LDLコレステロール-には両群間に有意な差はなかった。さらに、攻撃性のある被験者群ではコレステロール値が低い被験者の割合が、攻撃性のない被験者群に比べ約3倍も高かった。
・自殺傾向のある女性患者と自殺傾向のない女性患者のHDLコレステロール値はほぼ同じで、コレステロール値の低い被験者も両群に等しく含まれていた。
・コレステロールと衝動性あるいは攻撃性との関連を検討した多くの研究は、一般に男性のみを対象としているか、あるいは関連そのものが男性にのみ見いだされている。
・今回の研究では、攻撃的な被験者のトリグリセリド濃度とOASおよびPANSS-AG攻撃性尺度で評価した攻撃性の重症度との間に有意な関連は見られなかった。この結果は、脂質のサブセットとしてのトリグリセリドはコレステロールほど攻撃性と重要な役割や関連性を示さないことを示唆している。
・今回の結果は、総コレステロール、LDLコレステロール、トリグリセリドの値が低下すると、様々なセロトニン受容体が調節されることで中枢のセロトニン活性が低下し、より顕著な攻撃性と関連する可能性があることを示唆している。脳内の脂質恒常性の変化は、コレステロールが細胞膜の脂質ラフトに作用することで、特にセロトニン系に影響を及ぼす可能性がある。
さらに今回の研究では、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン生合成を含む代謝経路が、統合失調症の暴力的患者と非暴力的患者で有意に異なることが示された。
脂質とアミノ酸の調節異常は暴力的な統合失調症の特異的な代謝表現型と関連しており、脂質(コレステロール)の減少が末梢セロトニン濃度の低下と関連して、攻撃的行動や自殺行動を引き起こすというこれまでの結果と一致している。