現行の癌サバイバーに対する食事ガイドラインは、乳がんサバイバーではなく他の集団から作成された可能性があり、ガイドラインの内容が乳がんサバイバーに適しているかどうかは判明していない。
今回のブログでは、題名にあるように全粒穀物と精製穀物の乳がんサバイバーへの影響についてのデータをまとめてみたい。
現行のガイドラインで推奨されている「1日3~6皿の全粒粉摂取」は、全粒粉および精製穀物と予後の関連を調査した過去の研究は主に非がんサバイバーを対象としたデータを元に作成されており、乳がんサバイバーには適さないかもしれないと、このデータの著者は指摘している。
また、全粒粉と精白米が死亡率に独立した関連性を示すかどうか、これまで研究されていないという。
リンクの研究は、食事やライフスタイルに関する詳細な情報と死亡率データを縦断的に収集したWHEL(Women’s Healthy Eating and Living)研究を活用し、米国女性の乳がん生存者において全粒粉と精製穀物の死亡リスクへの独立した、あるいは共同的な関連性を調査したもの。
ベースライン、1年目、4年目に人口統計学的データ、食事、生活様式のデータを提供した女性乳がん生存者3081人のコホートについて研究。
全粒粉の摂取量増加は、総死亡リスク増加とわずかに関連していたが、乳癌特異的死亡率との有意な関連は認められなかった。
精製穀物の摂取量の増加は、総死亡および乳がん特異的死亡の両方のリスク増加と関連した。
全粒穀物と精製穀物の総死亡率への共同関連性を検討した結果、精製穀物の消費量が多い人のうち、全粒粉の消費量が多い人は少ない人に比べて総死亡のリスクが高かった。
全粒穀物消費量の増加は、乳がんサバイバーにおける精製穀物と死亡率との有害な関連性を悪化させる可能性がある。
乳がんサバイバーのための全粒穀物摂取に関する現行の食事ガイドラインを見直す必要性を示唆と結論。
・精製穀物は、総死亡率および乳がん特異的死亡率と線形かつ正の相関を示した。
全粒粉の摂取は総死亡率とはわずかに関連していたが、乳がん特異的死亡率とは関連していなかった。
・全粒穀物と精製穀物の総死亡率への共同関連性解析では、全粒穀物の高摂取が総死亡率に悪影響を及ぼす可能性があることが強調された。
全粒粉の摂取量の増加は総死亡率のリスク上昇と関連し、精製穀物が総死亡率に及ぼす悪影響をさらに悪化させることがわかった。
・全粒粉食品は、食物繊維、ビタミンB、鉄、葉酸、その他ファイトケミカルと呼ばれる健康に良い生理活性成分を豊富に含んでおり、抗酸化作用やラジカル消去作用が期待される。
これらの生理活性物質は、2型糖尿病、心血管疾患、がんなどの慢性疾患のリスクを低減させる可能性がある。大規模コホート研究、Nurses’ Health Study (n = 74,341) とHealth Professionals Follow-Up Study (n = 43,744) では、がん、脳卒中、冠動脈心疾患 (CHD) のない人において全粒粉摂取量が増えると、総死亡および心血管特異的死亡の低リスクにつながることが明らかになっている。
・全粒粉の摂取は健康な人の死亡率や炎症を抑えるなどの健康効果をもたらすが、消化器系に障害のある人には悪影響を及ぼす可能性がある。一般に、がん治療によってがん患者の腸内環境は悪化し、消化管機能が損なわれることが分かっている。
がん治療による胃腸の損傷は、乳がん患者を全粒粉などの特定の食品群の副作用の影響を受けやすくする可能性がある。
・乳がんサバイバーを対象としたバイオマーカーに基づく研究では、腸内環境の悪化が全粒穀物の摂取、重篤な消化器疾患、乳がん転移と関連することが示されている。
クローディン-2は腸の健常性を測るバイオマーカーで、グルテンや小麦製品に過敏な患者ではクローディン-2の増加が観察される。
また、クローン病、潰瘍性大腸炎、HIV腸症などの消化器系疾患患者では、クローディン-2がしばしばアップレギュレートされている。
さらにクローディン-2は乳がん患者全体の52%で検出され、乳がん転移の促進因子であることが知られている。
したがって、乳がんサバイバーのように腸の完全性が損なわれている患者における全粒粉の摂取が消化器系に及ぼす悪影響を考慮することは重要。
・精製穀物と総死亡率/乳がん特異的死亡率との間に正の有意な関連を観察した。
観察研究のメタ分析によると、精製穀物の大量消費は健康な人のII型糖尿病、心血管疾患、肥満のリスク上昇と関連していることが明らかになっている。
The Prospective Urban and Rural Epidemiology Study(n=148,858)では、健常人が精製穀物(個別の食品群として)を7食/日以上摂取することで総死亡リスクが27%増加することが記録されている。
しかし、米国では精製穀物は超加工食品、砂糖を多く含む飲料、大量の赤身肉からなる不健康な食事とともに消費されることが多く、精製穀物はこれらの不健康な食品と同一視的に乳がんサバイバーにおける不健康な食事パターンとして評価されてきたことから、精製穀物の悪影響を過大評価しているのでは?という疑問もある。
日本人の食卓で穀物がそれほど高頻度に登場する確率は低いかもしれないが(・・・今のライフスタイルだとそうとも言えないのか)、精製穀物摂取が総死亡率および乳がん特異的死亡率と有意かつ線形的に関連していること、また、全粒粉の摂取量が多いほど悪影響が加速することは頭の片隅入れておいても良いだろう。