線維筋痛症候群(FMS)は、疲労、睡眠、記憶、気分障害を伴うびまん性の慢性筋骨格系疼痛(CMP)を特徴とする疾患で、患部のQOLを著しく低下させ、通常の日常生活に支障をきたす。
CMPでは器質的損傷がほとんど認められないが筋膜性疼痛症候群(MFPS)ではしばしば報告される。
痛みは全身に現れ、ペインレベルは様々。
最初は頸椎や肩などのピンポイントに現れ、時間の経過とともに他の部位に広がる。
症状は安静時や運動時に手足や背骨の灼熱感、知覚異常、硬直、緊張、拘縮、重苦しさなど様々な表現で報告される。
痛みは、時間帯、活動レベル、天候、睡眠パターンによって変化するため、肉体的・精神的疲労 の程度はさまざま。
FMS患者の約90%が、インフルエンザ様の疲労、疲労に対する抵抗力の低下、筋緊張に由来する 頭痛、特定不能の片頭痛とともに無力症を訴えている。
患者は、睡眠覚醒リズム障害、睡眠障害、レム睡眠行動障害を経験することが多い。
近年、睡眠障害やCMPはFMSの結果というよりも、FMSの原因因子のひとつに含まれる可能性が示唆されている。
また、筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)は、認知障害、筋肉痛、関節痛、起立性不症、炎症、免疫障害を引き起こす疾患で、ME/CFSの原因として慢性ウイルス感染症が指摘されている。
コロナパンデミックでは、急性期治癒後に長期または急性後遺症(PASC)例が報告され、ME/CFSに類似した症状を呈していることが確認されている。
FMS患者では、うつ病、不安障害、気分障害 などの精神的合併症の有病率が60%に達して
おり、脳内の疼痛処理機能障害と関連している可能性もある。
FMSやME/CFS患者は痛みに対して過敏になって「過敏症」を呈するが、これは自己免疫マーカーや炎症マーカー、神経伝達物質の変化とも関連している可能性がある。
ビタミンD(25OHD)の欠乏は、FMSやCMPのリスク増に関係することを示す多くの証拠がある。臨床研究では、FMS患者は対照群と比べて25OHDの循環レベルが低いことが示されている。
ビタミンD受容体は筋肉に広く発現しており、 組織で直接的な調節の役割を担っている。
25OHDは、筋形成、細胞増殖、分化、タンパク質合成、ミトコンドリア代謝調節、内皮機能などに関与する。
25OHD欠乏は、組織構造と機能の両面から筋肉の障害を引き起こすため、おそらく慢性疼痛の病因にも関与していると考えられる。
CMP患者に対するビタミンD補給の有効性については、現在も議論が続いている状況。
リンクのレビューは、CMPとFMSにおけるビタミンD補給の有効性を調査した文献を要約することを目的としたもの。
ビタミンD(25OHD)欠乏がCMP患者でより一般的であるかどうかを確認し、患者の疼痛管理におけるビタミンD補給の効果を評価するために、PubMed,Physiotherapy Evidence Database(PEDro),Cochrane Central Register of Controlled Trials(CENTRAL)で1990年1月1日から2022年7月10日までに英語で発表されたRCTを検索。
合計434件の研究にアクセスし、そのうち14件が適格基準を満たした。
今回のレビューでは、3つの研究(うち2つは最高品質のエビデンス)がびまん性筋肉痛と25OHD欠乏症の相関が確認された。
6件の研究(うち4件は最高品質のエビデンス)では、血中25OHD欠乏の患者において、適切な補充が有益な効果をもたらす可能性があることが実証された。
8件の研究(そのうち6件は最高品質のエビデンス)では、25OHDの補充が痛みの軽減につながることが示された。
このレビューは、ビタミンD欠乏がFMSおよびCMP患者に頻繁に観察され、ビタミンDの補充は、FMSおよびCMPのビタミンD欠乏被験者の筋骨格痛の軽減とQOLの改善に提案できることを示唆するものであった。
・欧州リウマチ学会(EULAR)は、FMSの治療 においてビタミンDの補給を含む栄養学的介入な ど、非薬理学的アプローチの重要性を強調している。
・25OHDレベルが低い被験者における慢性疼痛の発生率の増加は、2000年代初頭に行われた研究で証明されている。
特に女性の25OHD欠乏症の患者において、様々なタイプのCMPを報告している研究もある。
・多民族集団において、低ビタミンDと慢性筋骨格系疼痛を相関が観察されている。
・FMS患者は健常者よりも血清25OHD濃度が有意に低いことが明らかになっているが、この相関は身体活動、喫煙、飲酒を調整した後も有効で、他の要因に関係なく25OHDの低レベルと疼痛との関係が確認された。
・25OHD欠乏は頭痛や腹痛などの慢性疼痛の病因に関与している可能性があり、実際に25OHDレベルの低さとオピオイド消費の増加に有意な相関関係が明らかにされた。
・低ビタミンDとCMPの関係は、軽い痛み刺激に対しても非生理的反応を示す、痛み処理の中枢感作という現象によって説明されてきた。ビタミンDが痛みのシグナル伝達経路を調節する役割は、皮膚、後根神経節、脊髄などの痛みの感知と処理に関与する組織でビタミンD受容体および/またはビタミンD活性を調節する酵素が発現していることで説明できる。
・25OHDは抗炎症作用を持ち、痛みの軽減に寄与するという仮説もある。In vitroではビタミンDはプロスタグランジンE2(PGE2)の合成を抑え、炎症性経路の制御を低下させることが示されている。さらに、1,25-(OH)2D3はマクロファージに対して抗炎症作用を発揮し、インターロイキン(IL)-10を増加させ、炎症性サイトカイン産生を減少させることが明らかにされている。
これらのデータは、低ビタミンD状態が炎症性サイトカインを活性化し、中枢および末梢の疼痛知覚を調節することを示唆している。
・別のプロセスとして、CMP患者はライフスタイル、痛みによる運動能力の低下、患者が屋外に出る時間の減少、脂肪量が蓄積する傾向があり、それに伴ううつ病のために25OHDが欠乏している可能性も考えられる。
太り過ぎの患者では、高レベルの脂肪がビタミンDを利用できなくなるため、25OHDはしばしば減少する。以前の研究で、肥満患者ではサプリメントを摂取しなくても、体重減少により循環血中25OHDが増加することが証明されている。
・今回同定した6つの研究のうち4つは最も質の高いエビデンスを持ち、血中25OHD欠乏患者のCMPに対して適切な補充が有益な効果をもたらす可能性を示している。
25OHDの閾値と理想的な投与量についてはまだ研究中であり、さらなる調査が必要。
ほぼすべての研究で、50,000 IU/週の投与量が提案されているが、CMPの場合正しい投与方法、適切な量、治療の頻度と期間はまだ明確になっていない。
検討されたすべての研究において、毎日の経口補給、あるいは毎月の経口および筋肉内メガドーズによる補給のいずれによっても25OHDレベルの顕著な改善が認められた。
・FMSやCMPの文脈とは別に、健常者の身体能力に対するビタミンDの潜在的影響についても多くの研究があり、ビタミンDレベルが筋肉のパフォーマンス指標と関連していることが明らかになっている。サルコペニアや筋力低下もビタミンD欠乏と関連している。