最近のメタアナリシスでは、ビタミンDの補給によってがん死亡率が約13%減少することが一貫して示唆され、ビタミンDの補給ががんによる死亡の負担を軽減する上で非常に費用対効果の高いアプローチとなり得ることが示されている。
しかし、がん死亡率の減少に関するビタミンD食品強化の有効性と費用対効果が無作為化試験デザインによって評価されたことはほとんどない。
リンクの研究では、
(i)ビタミンD強化食品は、がん死亡率の減少に効果があるとされる量のビタミンDを補給した場合と同様のビタミンDレベルの増加を達成できるか?
(ii)そのような食品強化のためのコストはどのくらいになるのか?また、がん死亡の予防による節約コストと比べてどうなのか。
をテーマに、ビタミンD食品強化によるビタミンD濃度の上昇に関する文献、およびビタミンD食品強化のコストに関する文献を検討したもの。
また、ビタミンDの過剰摂取による強化の悪影響の可能性についても議論している。
さらに、それらの結果を用いてドイツのがん死亡率データを例に、コストとがん死亡率低下による潜在的な節約効果を比較した。
1日平均820~2000IUのビタミンDを補給したランダム化比較試験では、25-ヒドロキシビタミンDの血清濃度がそれぞれ15~30nmol/L増加した。
食品添加物を用いた研究では10〜42nmol/Lの増加が見られ、これまでのサプリメントによる増加の範囲とほぼ一致している。
食品強化はサプリメントに比べてかなり安価であると考えられ、癌死亡率の減少に関しては、栄養補給と同様の効果が得られる可能性があり、さらに、より大きな純節約でそのような減少を達成できるかもしれないと結論。
Potential of Vitamin D Food Fortification in Prevention of Cancer Deaths—A Modeling Study
・ビタミンDレベルが高いほど、がん死亡率が低いことが一貫して示されており、最近のRCTのメタアナリシスではがん死亡率の減少におけるサプリメントの有効性が証明されている。
・この研究では,ビタミンD強化食品ががん死亡率の予防にどのような効果をもたらすかを評価した。まず、25(OH)D強化とビタミンDの血清レベルの効果に関する文献をまとめた結果、十分な強化を行えば、達成可能な血清レベルの上昇はサプリメントによるものと同等であることを明らかにした。
・ほとんどの研究で、食品強化によって血清中のビタミンDが約20nmol/L増加し、ある研究では最大48nmol/Lまで増加した。これは約400(最大で約800)IUのビタミンDを毎日サプリメントで摂取した場合の効果に匹敵する。
・カナダとフィンランドの観察研究では牛乳および乳製品の大量強化は1日あたり約200IUの追加摂取に相当することが示された。これは上述の小規模な介入研究で推定された値よりも少ないが、一般成人の血清レベルは、フィンランドでは欠乏症の有病率が50%以上から10%以下に減少するほど上昇し、大多数の成人は食事だけで400IU以上の摂取量に達したという。しかし、ビタミンDの補給に関する研究では、がん死亡率に対する最大の効果は毎日2000IUの補給であることがわかっている。
・ビタミンDを含む食品の強化は、がん死亡率の減少に高い効果があると考えられる。無作為化臨床試験の最近のメタアナリシスでは,ビタミンD(400~2000IU/日)を1日に摂取した場合のがん死亡率の低下率は11~17%(平均13%)であった。また、1日あたり400IU、800IU、2000IUの効果を調べた研究がそれぞれ1件あり、それぞれ11%、15%、17%のがん死亡率の低下が確認された。したがって1日400IUの摂取を目標とした強化プログラムは、がん死亡率を約11%減少させる可能性があるが、摂取量が多ければさらに高い減少効果が得られる可能性がある。
・コストと、がん死亡率の減少という点だけで想定される利益とを比較すると、ビタミンD強化は非常にコスト削減効果が高いことが予想され、人口全体またはターゲットを絞った毎日のサプリメント摂取よりもはるかにコスト削減効果が高い。今回の分析では、50歳以上の人口を対象としたサプリメントのコストを推定した場合と比較して、食品強化のコストは約95%低くなるとしている。
・食品強化は非常に高い費用対効果が期待される。節約された寿命1年あたりの費用はわずか約50ユーロであが、がんで死亡した患者の末期治療費は、他の原因で死亡した患者の4倍以上であり、がんの発生率が低下しなくても大きな節約になることを示唆している。達成可能ながん死亡率の減少に関しては、食品強化はビタミンDの日常的な補給よりもさらにかなり経済的であると予想される。
・一方でビタミンDを過剰に摂取し、過剰摂取による高カルシウム血症や-尿症を引き起こす可能性があることを認識する必要がある。2016年に行われたメタアナリシスでは、高カルシウム血症のリスクがサプリメントの摂取によって上昇することがわかった。しかし、腎結石についてはリスク上昇が認められなかったため、この知見の臨床的関連性は不明である。また、高カルシウム血症のリスクは、ビタミンDのみ(カルシウムを含まない)を補給した方が低いと考えられる。
・ビタミンD強化食品の健康への影響を評価する際には、ビタミンDの他の潜在的な健康効果も考慮する必要がある。骨の健常性維持に加え、高濃度のビタミンDはアルツハイマー病の高齢者における認知機能の改善、免疫調節、主に高齢者における急性呼吸器感染症、認知症、認知機能低下、うつ病のリスク低下、収縮期血圧の低下、筋力の増加、トランスフェリン飽和度と鉄分の状態に対するプラスの効果と関連している。最近では、COVID-19関連の健康アウトカムに関して、ビタミンDのポジティブな効果も示唆されている。