近年、葉酸(FA)が妊娠中の神経管欠損症(NTDs)をリスクを軽減する機能について研究が進んでいる。
98年以降、WHOはNTDリスクを軽減するために、受胎から妊娠12週目までのFA摂取量を1日400μg/日とし、1000μg/日を超えないようにすることを推奨している。
その理由として、妊娠中のFAサプリメント摂取量が多いと未代謝のFAが子どもの健康状態に悪影響を及ぼす可能性が懸念されるためである。
最近の研究では、母親のFAサプリメントの高用量は、子供のテロメア長(TL)に影響を与える可能性が示唆されている。
テロメアとは直鎖状染色体の末端にある核タンパク質構造(TTAGGG)で、不正なDNAの修復、分解、末端同士の融合から身体を守り、直鎖染色体の物理的完全性を維持すると同時に減数分裂の分離と核の組織化を促進するという重要な役割を担っている。
テロメアは時間の経過とともに自然に短くなるが、外因性のストレスが加わるとより早く短くなりやすい。
テロメアの短縮が多くの加齢性疾患や死亡率の上昇に関係していることは、過去のエビデンスによって明らかになっている。
小児期はダイナミックな生物学的プロセスと遺伝的・環境的要因に大きく依存する段階であり、テロメア形成を理解する上で極めて重要な時期である。これまでの研究では、成人期のテロメア形成に関連する環境条件は、小児期に関連する条件よりもテロメア形成に与える影響が少ない可能性があることが報告されている。例えば4歳時のTLは、成人期のTLよりも胎盤期のTLと強い相関があることが明らかになっている。
一方で、小児期のテロメアに関する研究は限られている。
リンクの研究は、666名の小児を対象に妊娠中の各期間における葉酸サプリメント(FAs)摂取と4歳時の子どものテロメア長(TL)との関連を検討したもの。
FA摂取は、妊娠初期3ヵ月、妊娠4ヵ月以降、妊娠全期間に質問票を用いて自己申告とし、各期間においてFAsの1日平均摂取量は、(i)400μg/日未満、(ii)400μg/日以上999μg/日未満、(iii)1000μg/日以上4999μg/日未満、(iv)5000μg/日以上に分類。
第1期に母親が基準群(400μg/d未満)に分類された小児と比較すると、母親が高用量(5000μg/d以上)FAを摂取していた小児は4歳時のTLが短かった。
第1期と第2期を相互に調整すると、母親が妊娠第1期に5000μg/日以上の摂取を自己申告した小児は、他の小児に比べてTLが統計的に有意に短かった。
同様の傾向は妊娠全期間においても観察された。
性別を層別化すると男児でその関連性が顕著であったが、女児では関連性は認められなかった。
・INMAコホート研究のデータを用いて、母親が妊娠第1期にFAsを高用量(5000μg/日以上)摂取した子ども、および全期間摂取した子どもは、母親がこれらの期間にFAsを最低量(400μg/日未満)摂取した子どもに比べて、4歳時のTLが短い可能性が明らかになった。
・FA摂取量5000μg/日以上の統計的相関は第1期においてのみ観察されたが、第2期では有意ではなかった。しかし、母親が妊娠中ずっと000μg/日以上の高用量を摂取していた子供(n = 21)ではこの相関はより顕著になり、統計的に有意だった。
・第2期に影響が観察されなかった説明として、FA曝露のタイミングが関係している可能性がある。TLの動態は、胎児の発育段階や妊娠中の特定の時期に起こる細胞分裂の速度によって異なる可能性がある。妊娠1期はDNA合成と細胞増殖にとって重要な時期であり、FAが重要な役割を果たしているが、妊娠2期は異なる生物学的プロセスが関与している可能性があり、細胞分裂率やDNA合成はFA摂取の影響をあまり受けない可能性がある。
・母親が同じFAsカテゴリー(≧5000μg/d)に属する男児(女児は含まない)が、4歳時のTLが最も短かった。性差の理由はまだ不明だが、性ホルモンの影響に基づく可能性が高い。
・女性の幹細胞、内皮細胞、リンパ球ではテロメアが長いため、男性に比べてテロメアが極端に短い細胞がアポトーシスや複製老化を起こす前に細胞分裂を追加することでより高い生物学的保護が可能になる可能性がある。
・FAは生物学的利用能が高く、腸内で速やかに吸収される。FAは人体に有害でないと認識されているため、その購入に医師の処方は必要ない。しかし残念なことに多くの人の血液中には未代謝のFAが存在し、代謝されない大量のFAが細胞分裂の際に一部の遺伝子発現を経時的に変化させる可能性があることが多くの研究で報告されている。
・神経管成異常、腫瘍性疾患、発癌性疾患、関節リウマチ、乾癬、心血管系疾患、脳卒中、精神疾患、そしてこのデータによれば短小TLが、葉酸代謝異常の結果の可能性として報告されている。
・FAの過剰摂取による潜在的な悪影響の背後にあるメカニズムは、葉酸経路内の重要な酵素の阻害に関連している可能性があることを、既存の証拠が示唆している。