現在、ビタミンD欠乏は、世界中の小児、青年、妊婦および高齢者に生じる公衆衛生問題として認識されている。
ビタミンD欠乏が高血圧、糖尿病、メタボリックシンドローム、大腸がん、肺結核などの慢性疾患、感染症、自己免疫疾患の発症に関与することは既に知られており、ビタミンDの生物学的機能の重要性を強調するデータが増えている。
ビタミンD受容体(VDR)は、女性では卵巣、胎盤、子宮内膜、男性では生殖器や精巣組織などの生殖器にも発現している。この事実は、生殖器の健康維持にビタミンDが関与している可能性を示唆している。
妊娠中のビタミンD状態が妊娠転帰に及ぼす影響ついて調査した研究は数多くあるが、その結果は一貫していない。
多くの研究で、妊娠中の血清25-ヒドロキシビタミンD(25(OH)D)の低下は、子癇前症、妊娠糖尿病(GDM)、妊娠性貧血、早産(PTB)、低出生体重児(LBW)のリスク上昇に関連すると報告されている。
いくつかの研究では、妊娠中のビタミンD欠乏は帝王切開と関連することが示唆されている。
しかし、「妊娠前」の25(OH)D濃度が妊娠転帰に与える影響を観察した研究は非常に少ない。
リンクの研究は、妊娠前のカップルを対象に、25(OH)Dが出産に及ぼす影響、および妊娠前および妊娠中の25(OH)D濃度と妊娠転帰との関連について評価することを目的としたもの。
結果、カップルの男性パートナーが25(OH)Dが十分である場合、不十分な場合と比較して6ヶ月以内の妊娠率が高く妊娠までの時間(TTP)が短縮された。
妊娠第3期の25(OH)Dが不十分な妊婦と比較して、十分な25(OH)Dは貧血のオッズの減少、妊娠期間の延長、新生児の高いポンデラル指数と関連していた。
男性側の妊娠前の十分な25(OH)D濃度が、カップルの生殖力にプラスの影響を与える可能性を示唆したが、女性の25(OH)D濃度は繁殖力と関連がなかった。
今後サンプルサイズが大きい、より多くの研究が必要。
・妊娠前から血清25(OH)D濃度が妊孕性と妊娠転帰に及ぼす影響を前向きに検討した中国における数少ない研究の一つ。
今回の結果は、ビタミンD欠乏が妊娠前のカップルでよく観察されたたことを示唆。
男性パートナーの25(OH)Dの充足(≥30 ng/mL)は6ヶ月以内の高い妊娠率および短いTTPと関連していた。
・「妊娠前」の女性の血清25(OH)Dレベルと、追跡調査6ヶ月以内の妊娠率およびTTP期間のいずれにも関連は認められなかった。これはデンマークで行われた研究とも一致している。
しかし、妊娠第3期の25(OH)D値が高い(≧30ng/mL)妊婦は出産時の妊娠年齢が高く、新生児PIが高く、妊娠性貧血のリスクが減少していた。
・しかし一方で、米国北東部の健康な女性132人を対象とした研究では、25(OH)Dが20ng/mLに相当する50nmol/L以上の女性は、6ヶ月以内の妊娠確率が3倍であることが分かった。
また、米国で妊娠喪失歴のある女性1191人を対象とした研究では、25(OH)D濃度が高いほど妊娠率が上昇すると報告されているが、この研究では妊娠前のビタミンDとTTPとの関連は認められず今回の結果と一致している。
・ノースカロライナ州の妊娠可能な女性522人を対象とした最近の研究では、25(OH)Dが30〜40ng/mLの女性と比較して、50ng/mL以上の女性は推定35%出産能が向上し、20ng/mL以下の女性は推定45%出産能が低下することが分かった。
・正常な形態の精子の割合が高い男性ほど25(OH)D 値が高いことが示唆された。
ある横断研究では、ビタミンD欠乏症(25nmol/L未満)の男性の精子は、75nmol/L以上の高ビタミンD濃度の男性と比較して、運動性、進行性運動性、正常形態の精子の割合が低いことが示されている。
・妊娠前男性を対象にした、ビタミンD濃度と出産率の研究は非常に少ない。
今回の研究では、妊娠前の男性の十分な25(OH)D濃度と妊娠までの期間に正の相関があることがわかった。102組の不妊カップルを対象にした観察研究では、男性パートナーのビタミンD血清レベルが正常(≧30ng/mL)の場合、ビタミンD血清レベルが低い(<30ng/mL)場合に比べて、妊娠率が有意に高いことが明らかになった。
いくつかの研究で、活性型ビタミンDが細胞内のカルシウム濃度を高めることで精子と卵子の結合を改善し、受精を促進するアクロシン活性を高めるというメカニズムが提案されている。
・妊娠第3期におけるビタミンDの充足が妊娠貧血の発生率の低下と関連するという発見は、妊娠中の母親のビタミンD欠乏が妊娠貧血に関与している可能性を示唆するいくつかの先行研究と一致する。ビタミンD欠乏と貧血の関係を説明するメカニズムとして、ビタミンDの欠乏が肝臓で作られる鉄調節ペプチドホルモンであるヘプシジンをアップレギュレートし、ヘモグロビン濃度を低下させ、貧血の一因となる可能性が提案されている。
・今回の研究では、妊娠第3期のビタミンD濃度と分娩時の妊娠年齢が関連していた。
先行研究でも、ビタミンDレベルが低い母親は高い母親に比べ、妊娠期間が0.7週短かったと報告している。多民族コホート研究では、ビタミンD濃度が高い妊婦(≧20ng/mL)は、低い妊婦(<20ng/mL)よりも妊娠期間が長いことが報告されている。
・本研究では、妊娠第3期における 25(OH)D の充足(≧30ng/mL)は、新生児PIの増加と関連することが示された。
胎盤のVDRは妊娠に重要な役割を果たし、母親のVDR遺伝子多型は出生時体重に影響を及ぼす可能性がある。最近の研究では、妊娠中の母親のビタミンDの状態が、新生児の体重と正の相関がある子供のテロメアの長さの重要な決定要因である可能性が提案されている。
妊活中のカップルはそれぞれのタイミングに応じてビタミンDの摂取を検討してみてはどうだろう?
男性陣はたまには太陽光を浴びることも忘れずに・・・