メタボリックシンドロームは、脂質異常症、高血糖、インスリン抵抗性、酸化ストレス、炎症、高血圧、神経変性などの症状が現れ、肥満、糖尿病、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)、変形性関節症、2型糖尿病などの代謝性疾患と関連している。
さらに、肥満は新型コロナ感染症の重症化の危険因子。
現在、代謝性疾患は公衆衛生上の深刻な脅威となっており、解決に向けて様々な研究が進められているが、腸内細菌叢との関係の研究もその一つである。
プロバイオティクス、プレバイオティクス、シンバイオティクス、ポストバイオティクス(PPSP)は腸内細菌叢の強力な制御因子で、代謝性疾患の予防につながる可能性がる。
PPSPは代謝性疾患、特に肥満と2型糖尿病の管理に有効。
腸内細菌に関連するメカニズムとしては、主に腸内細菌叢の組成の調節、腸内細菌の代謝物の調節、腸管バリア機能の改善が挙げられる。
臨床試験では代謝性疾患の患者に対するPPSPの効果が示されているが、妊娠性糖尿病の臨床戦略、シンバイオティクスの最適な配合、ポストバイオティクスの健康効果についてはさらなる研究が必要とされている。
ご紹介のレビューは、プロバイオティクス,プレバイオティクス,シンバイオティクス,ポストバイオティクス(PPSP)について最近の研究(最近5年以内のWeb of Science)結果をまとめ、PPSPの代謝性疾患に対する生理活性効果,潜在的なメカニズム、臨床作用を包括的に示したもの。
研究者たちは、最良の治療効果を得るために様々な互換性のあるソリューションを模索しており、複数の菌株の共同介入が有望な方法であることを突き止めた。また、有益な効果を高めるために酵素で修飾したプレバイオティクスやプロバイオティクスで発酵させた天然食品など、新しい食品加工戦略が開発されている。
PPSPは酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソベラート、乳酸、パルミトイルエタノールアミドなどの腸内細菌の代謝物を調整する一方で、LPSやTMAOの産生を抑制したり、胆汁酸を減少させることで、間接的に代謝性疾患を改善する。
さらに、腸管バリア機能の改善はクローディン1、GLP1、IL-10、オクルディン1、ZO-1の発現を上昇させ、代謝性疾患の抑制に重要な役割を果たしている。
これらのメカニズムは、Akt、AMPK、CPR1α、ERK、GPR43、NLCR3、NOD2、GLUT2/4、IRF4、p38 MAPK、PPARα、SIRT1、TLR2、TRAF6を介した経路をアップレギュレートする一方、ACE、NF-κB、NOD1、TLR4、TNF-α関連の経路をダウンレギュレートするなど、いくつかの極めて重要なシグナル伝達経路を標的とすることで、総合的に代謝系全体を改善する、とまとめている。
Effects and Mechanisms of Probiotics, Prebiotics, Synbiotics, and Postbiotics on Metabolic Diseases Targeting Gut Microbiota: A Narrative Review
・最近の研究で、腸内細菌叢の不均衡が代謝性疾患に影響を及ぼすことがわかってきた。そのため、腸内細菌叢の調節は代謝性疾患を改善する有望な手段となる可能性がある。
・腸内細菌のホメオスタシス自体が、代謝システム全体の重要な一部であることが認識されている。有益な細菌と病原性細菌を調節することは、代謝機能を改善するための最も直接的なメカニズムの1つである。腸内細菌叢は腸管内腔に生理活性分子を排出しており、それらは循環系に移行し、特異的なリガンドとしてさらに代謝プロセスに影響を及ぼす可能性がある。このプロセスでは、循環系に移行する有害な細菌の代謝物がブロックされることで、腸管の健全性が重要な役割を果たしている。
・近年、シンバイオティクス(プレバイオティクスとプロバイオティクスの組み合わせ)やポストバイオティクス(宿主に健康上の利益を与える無生物の微生物やその成分)が、代謝性疾患の予防に優れた生物学的活性を有するかどうかの試験が進んでいる。様々な研究からプロバイオティクス、プレバイオティクス、シンバイオティクス、ポストバイオティクス(PPSP)は、肥満、2型糖尿病、その他の代謝性疾患に対して緩和効果を示すが、患者が妊娠中である場合は状況が不確実である。
肥満
・肥満は腸内細菌叢と密接に関係する。
Lactobacillus pentosus GSSK2やLactobacillus plantarum GS26Aといった菌株は肥満の抑制に有益な効果を発揮する。
いくつかの研究では、プロバイオティクスの抗肥満効果は凍結乾燥した菌と生きた菌の間で、また、単一株と複数株の間で異なることが示されている。
いくつかの研究で、凍結乾燥したLactobacillus casei IMVB-7280は凍結乾燥したBifidobacterium animalis VKBおよびVKL株よりも強い抗肥満特性を有することが強調された。
・アセトバクター、ビフィドバクテリウム、ラクトバチルス、プロピオニバクテリウムを含む生きた複数株は、凍結乾燥した単一株や複数株と比較して、肥満、インスリン抵抗性、炎症性サイトカインの産生、アディポネクチンレベルをより効果的に改善する。
さらに、(ポリフェノールのような)プレバイオティクスは、腸内細菌叢の調節を介して肥満の進行に影響を及ぼす可能性があることがさまざまな証拠によって示されている。例えば、レジスタントスターチの抗肥満効果は、Deinococcus geothermalis由来のアミロスクラーゼで修飾することで高めることができる。
・ビフィズス菌,ラムノサス菌,オリゴ糖強化イヌリンを含むシンバイオティクスは、単独成分よりも効果的に腸内環境を調整する。
・51人の肥満患者を対象とした45日間の臨床試験では、ビフィドバクテリウム・ラクティスを含む発酵乳を毎日摂取することで、血中脂質やTNF-αやIL-6などの炎症性バイオマーカーを改善できることが示された。さらに、Bifidobacterium animalis SGB06、Bifidobacterium bifidum SGB02、Lactobacillus acidophilus SGL11など9種類のプロバイオティクス株を含むプロバイオティクス製品を3週間摂取したところ、血中脂質やTNF-α、IL-6などの炎症性バイオマーカーを改善した。
・60名の肥満および肥満予備軍の女性を対象にした試験では、Lactobacillus delbrueckii DSM 20081、Lactococcus lactis SGLc01、Lactobacillus plantarum SGL07、Lactobacillus reuteri SGL01、Streptococcus thermophiles、およびStreptococcus thermophilusが、体組成,腸内細菌組成,および精神状態を調節する可能性があることが明らかになった。また、バクテロイデスやプレボテラの腸内細菌型を持つ人では、肥満の有病率が低いことから、腸内細菌の腸内細菌型を特定することは、肥満管理のための重要な要素となる可能性ある。
・16,676人の成人を対象とした20件のメタアナリシスのシステマティックレビューでは、過体重/肥満における体重に対するプロバイオティクスの中等度の効果が示されたが、著者らはプロバイオティクス製品がすべての人において副作用がないわけではないとし、例えばビフィズス菌や乳酸菌は、対象者が免疫不全の場合、極めて稀に妊婦や新生児に感染症を引き起こす可能性があったり、ある肥満患者は12週間のプロバイオティクス介入中に軽度の消化不良と下痢を起こした。
・プレバイオティクス食品の摂取は、肥満の治療法として期待されている。臨床試験では、25gのヤーコン(フェノール化合物とフラクトオリゴ糖の天然供給源)を6週間毎日摂取することで、肥満患者の血漿抗酸化能を増加させ、酸化ストレスと糞便中のSCFAsレベルを低下させることができ、重篤な副作用はないことが示された。
さらに、42人の過体重および肥満の子供を対象とした臨床試験では、オリゴフルクトースで強化されたイヌリンを8g/日16週間摂取することで、食欲を調節してエネルギー摂取量を減少させることが示された。さらに、過体重または肥満の成人125名を対象とした12週間の臨床試験では、イヌリン型フルクタンと乳清タンパク質の両方が食欲管理に役立つことが示されましたが、フルクタンだけがビフィドバクテリウムの存在量を増加させた。
・グローイングアップミルクは、1歳から2歳の子供向けに特別に設計されたシンバイオティクスを追加した強化ミルクで、12ヶ月間の摂取後、160人の子供の体脂肪率を減少させることができた。
・7種類のフリーズドライ菌株(ビフィドバクテリウム・ブレーブ、ビフィドバクテリウム・ロンガム、ラクトバチルス・アシドフィルス、ラクトバチルス・ブルガリクス、ラクトバチルス・カゼイ、ラクトバチルス・ラムノサス、ストレプトコッカス・サーモフォルス)を含むシンバイオティクスを摂取することで、体脂肪率を低下させることができた。
・一方で矛盾する研究結果もある。59名の肥満患者を対象とした臨床試験では、Bifidobacterium bifidum、Lactobacillus acidophilus、Lactobacillus casei(それぞれ2×109 CFU/g)と0.8gのイヌリンを含むシンバイオティクス500mgを8週間毎日摂取しても肥満度(BMI)、血圧、グルコースホメオスタシス、ウエスト周囲径には恩恵がなく、脂質プロファイルと心理状態が改善されたのみと報告されている。さらに、ビフィズス菌IVS-1、ビフィドバクテリウム・ラクティスBB-12、ガラクトオリゴ糖は、肥満患者において相乗効果を示さなかった。さらに、メタアナリシスでは、シンバイオティクスの補給が体重および体脂肪に有意な影響を及ぼさないことが示された研究もある。
(研究デザインの違いによるものだろうか・・・?)
・32人の肥満女性にBifidobacterium lactis UBBLa-70とフラクトオリゴ糖を8週間摂取させたところ、循環中のピルビン酸やアラニンなどの細菌関連代謝物が増加し、一方でクエン酸や分岐鎖アミノ酸のレベルが低下した。さらに、酪酸は循環系や神経系を調整し、腸管バリアー、糖質代謝、免疫調節、食欲制御を改善する特性を持つことから、肥満予防のサポート剤となる可能性があることが示唆された。
・LactobacillusとBifidobacteriumが最も注目されているプロバイオティクスで、複数のプロバイオティクスを組み合わせることで、より高い応用性が期待されている。
2型糖尿病と妊娠性糖尿病
・ヨーグルトのような発酵食品は、2型糖尿病患者、特に従来の治療に難渋している患者にとって有益であった。8574人の成人を対象とした研究では、ヨーグルトの摂取が2型糖尿病のリスクと逆相関することが示唆された(砂糖入りヨーグルトの副作用が懸念されている)。
ヨーグルトの新しい甘味料としてモンクフルーツエキスを利用することで、ヨーグルトだけの場合よりも効果的に血清脂質レベルを改善することができ、同時に砂糖による健康リスクを回避することができる。
さらに、Lactobacillus plantarumで発酵させたMomordica charantiaジュースのようないくつかのプレバイオティクス食品は、ネイティブのものよりも優れた抗糖尿病効果を有していた。
しかし他の研究では、シンバイオティクス食品の摂取は、糖尿病、特に妊娠糖尿病において限定的な緩和しか示していないことが示唆された。例えば、ビフィドバクテリウム・ラクティスとラクトバチルス・ラムノサスHN001を含むプロバイオティクスサプリメントに魚油を追加しても、シンバイオティクスとして組み合わせても、単剤で使用しても、妊娠糖尿病のリスクを低減することはできなかった。
・2型糖尿病患者50名を対象とした臨床試験で、ビフィドバクテリウム・ラクティスBB-12株とラクトバチルス・アシドフィルスLa-5株(それぞれ109CFU)を含む発酵乳120gを6週間毎日摂取することで、フルクトサミン、ヘモグロビンA1c(HbA1c)、IL-10の血清レベルが改善されることが示された。
・2型糖尿病患者68名を対象に、Lactobacillus reuteri ADR-1株とADR-3株の両方が、BacteroidetesとBifidobacteriumの存在量を調整しながら、血清HbA1cとコレステロールのレベルを低下させることができ、ADR-3株はADR-1株よりも血圧とFirmicutesの存在量を低下させる効果があった。
・2型糖尿病患者70名を対象にLactobacillus casei Shirotaによって加工された発酵乳を16週間投与したところ、腸内細菌の血液循環への移行が制限され、糞便中のClostridium coccoides、Clostridium leptum、Lactobacillusの存在量が増加した。
・いくつかのメタアナリシスでは、プロバイオティクス治療がHbA1cおよび空腹時インスリンの改善に役立つことが示されている。
・妊娠糖尿病に対するプロバイオティクスの効果については、依然として議論の余地がある。
正常体重の妊婦を対象とした臨床試験では、Lactobacillus rhamnosus HN001(6×109 CFU)を毎日補充することで、糖尿病のリスクおよび再発有病率を低下させると報告されたが、Bifidobacterium lactisおよびLactobacillus rhamnosusを含むプロバイオティクスでは、過体重または肥満の妊婦の妊娠糖尿病を予防できなかった。
・230人の肥満の妊婦を対象とした試験では、ビフィドバクテリウム・ラクティスBB12とラクトバチルス・ラムノサスGG(それぞれ6.5×109CFU)を含むプロバイオティクスを36週間毎日摂取しても、妊娠中の抑うつ、不安、身体的な幸福状態は改善されなかった。そのため、妊娠糖尿病に対するプロバイオティクスの効果は、体重の状態が重要な要素となるかもしれない。
・プレバイオティクスも腸内細菌叢の異常を調節することで、2型糖尿病の予防に効果を発揮している。2型糖尿病患者46名を対象とした試験では、オリゴフルクトースで強化されたイヌリンを1日10g、2ヶ月間摂取することで、血糖値、脂質プロファイル、免疫バイオマーカーが改善されたことが示された。
・一般的に、プロバイオティクスは2型糖尿病を緩和しましたが、肥満を伴う妊娠性糖尿病へのプロバイオティクスの臨床応用にはさらなる調査が必要。さらに、細菌処理されたプレバイオティクスの応用は、臨床研究の新たなトレンドであり、シンバイオティクスの最適な配合やポストバイオティクスの糖尿病に対する特異的な有効性については、まださらなる検証が必要である。
その他の代謝性疾患
・プロバイオティクスの利用は,NAFLDのような他の代謝性疾患の治療法として期待されている。26,016人の被験者を対象とした研究では、食物繊維、植物化学物質、複合炭水化物などのプレバイオティクスの摂取が、代謝性疾患のリスクと逆相関することが報告されている。
・腸内細菌叢は、特に低悪性度の慢性炎症を伴う場合、代謝関連疾患に関与している。Cyclocarya paliurusの多糖類のようなプレバイオティクスは、バクテロイデテスの存在量を増加させ、Toll-like receptor 4-mitogen-activated protein kinase (TLR4-MAPK)シグナル経路を抑制することで、代謝機能と慢性炎症を改善する可能性がある。
・プロバイオティクスを添加したグルコース溶液を経口投与することで、大腸がん手術後の患者の腸管バリア機能と炎症を改善する。
・PPSPは代謝性疾患を緩和する可能性があり、複数の生菌株の共同介入は、プロバイオティクス応用の有望な方法であると考えられる。さらに、酵素修飾とプロバイオティクス発酵によって、プレバイオティクスの効果を効果的に高めることができる。
・代謝障害は、アルツハイマー病やうつ病などの神経系機能障害の合併症。
アルツハイマー病患者60名を対象とした臨床試験では、ビフィドバクテリウム・ビフィダム、ラクトバチルス・アシドフィルス、ラクトバチルス・カゼイ、ラクトバチルス・ファーメンタムを含むプロバイオティクスミルクを200mL/日(それぞれ2×109CFU/g)の量で12週間摂取することで、認知機能と代謝状態が改善することが示された。
プロバイオティクス(ビフィドバクテリウム・ビフィダム、ラクトバチルス・アシドフィルス、ラクトバチルス・カゼイ、それぞれ2×109 CFU/g)を8週間摂取することで、うつ病患者40名の代謝状態が改善された。
・プレバイオティクスは、肥満に関連した大うつ病性障害にも効果がある可能性があり、イヌリンを10g/日追加摂取した患者は、カロリー制限食のみを摂取した患者と比較して、脂肪量およびTCレベルの改善が見られた。
・75名のNAFLD患者を対象とした二重盲検プラセボ対照臨床試験では、プレバイオティクスであるイヌリンを10g/日の用量で3ヶ月間摂取することで、脂肪肝のグレードとアミノトランスフェラーゼ酵素の血清レベルを改善できることが示された。
・シンバイオティクスのサプリメントは、NAFLDと神経系の障害の有病率をコントロールするための有望な手段である。例えば、ビフィズス菌株はさまざまな処方のシンバイオティクスに広く使用されており、ビフィドバクテリウム・ラクティス、ラクトバチルス・アシドフィルス、ラクトバチルス・カゼイを含むシンバイオティクス(それぞれ7×109CFU)とチコリ・イヌリン(100mg)を4ヶ月間毎日摂取することで、肥満に関連したNAFLDを持つ28人の子供の脂肪肝のグレード、炎症および抗酸化状態を改善することがでた。
・アルツハイマー病患者79名を対象とした試験では、セレン(200 mg)とBifidobacterium bifidum, Bifidobacterium longum,、Lactobacillus acidophilus(それぞれ2×109 CFU)を12週間毎日摂取することで、セレンの単独投与よりも効果的に認知機能と代謝機能を改善できることが明らかになった。
・Bifidobacterium lactis(5×109 CFU/袋)とフラクトオリゴ糖(4.95 g/袋)の組み合わせは、IL-6、IL-8、IL-17α、およびインターフェロン-γ(IFN-γ)の血漿レベルを低下させ、胃腸の不快感を改善する。
・あるメタアナリシスでは、プロバイオティクス株(ビフィズス菌や乳酸菌など)とプレバイオティクス食品(チーズなど)を併用することで、メタボリックシンドロームに対する効果的な介入となる可能性があることが示された。
・炎症性腸疾患の患者は、代謝障害と酪酸産生菌の枯渇を伴うことが多く、酪酸の経口摂取は、Bacteroides fragilisとFaecalibacterium prausnitziiの比率を低下させることで、通常治療の効果を高めることができた。
・PPSPは、神経系の機能障害、高血圧、NAFLDなどの代謝関連疾患に有益な効果を示す。ほとんどのシンバイオティクス処方は、ビフィズス菌と乳酸菌をベースにしている。
腸内細菌叢の組成の調節
・Bifidobacterium lactis LMG P-28149とLactobacillus rhamnosus LMG S-28148を含むプロバイオティクスの混合物は、肥満に関連する腸内細菌叢の組成を調節し、Akkermansia muciniphilaとRikenellaceaeの存在量を回復させる一方で、Lactobacillaceaeの存在量を減少させる。
・炎症性腸疾患などの代謝関連疾患は消化器系の機能障害や腸内細菌叢の異常と関連しており、ビフィズス菌やラクトバチルス菌が少なく、大腸菌が多いことが明らかになっている。
・腸内細菌叢は肥満や2型糖尿病における代謝性炎症の引き金と考えられており、腸内炎症を有するTLR1欠損マウスにラクトバチルス・ロイテリを投与すると有害菌(Yersinia enterocoliticaなど)の増殖を抑制し、テトラチオン酸の代謝を改善することで代謝機能の改善が示された。
・乳酸菌カゼイを摂取すると、周産期ラットにおいてFirmicutes Bacteroidetesの比率やアンジオテンシン変換酵素(ACE)の発現を低下させ、一方でAkkermansiaとLactobacillusの存在量を増加させることでメタボリック関連の高血圧を予防することができた。
・雄のスイスアルビノマウスを用いたin vivo試験では,Lactobacillus reuteri LR6を含むプロバイオティクス発酵乳がビフィズス菌、ファーミキューテス菌、乳酸菌の存在量を増加させ、マウスのタンパク質-エネルギー栄養失調と免疫機能を改善することが報告された。
・腸内細菌叢の健康的な影響は人生の初期段階から始まっており、研究では、トウモロコシのデンプンとレンズ豆をベースにした食事から得られるプレバイオティクス・デキストリンが、ActinobacteriaとBacteroidetesの成長を促進する一方で、Firmicutesの存在量を減少させることが示されている。これは過体重や肥満の子供に有益である可能性がある。
・ニンニクを補給すると、脂質異常症マウスの血清脂質プロファイル、肝機能、インスリン抵抗性が改善され、Lachnospiraceaeが増加する一方、Prevotellaの存在量が減少した。
・イヌリンは一般的なプレバイオティクスであり、in vivoの研究では、イヌリンオリゴフルクトースの摂取によってビフィドバクテリウムが増加する一方で、ファーミキューテスとバクテロイデテスの比率を減少させ、肥満、血糖値の調節障害、血液脳関門の完全性を改善することが示された。
・オリゴフルクトースを摂取した妊娠ラットは、子孫の肥満リスクが低く、ビフィドバクテリウムとコリンセラの存在率が高かった。さらに、フコイダン多糖体は、腸内細菌の多様性を向上させ、バクテロイデテスとプロテオバクテリアの存在を増加させ、Lactobacillus casei DM8121の胆汁酸加水分解酵素の活性を向上させ、さらに肝コレステロール7-αヒドロキシラーゼの発現を増加させましたが、ActinobacteriaとFirmicutesの存在は減少した。
・シンバイオティクスは肥満予防の新しいフロンティアと考えられ、ビフィドバクテリウム、ラクトバチルス、ラクトコッカス、プロピオニバクテリウムを含む生きたプロバイオティクスの混合物を用いたオメガ3脂肪酸は、プロバイオティクス単独と比較して、肝性脂肪症と脂質蓄積のより顕著な減少を示した。
・Bacillus licheniformisとキシロオリゴ糖を組み合わせた経口サプリメントはDesulfovibrionaceaeとRuminococcaceaeを減少させることで肥満ラットの体重増加と脂質代謝をより効果的に改善することができた。さらに、Lactobacillus plantarum PMO 08とチアシードの混合物は、肥満マウスに対して相乗的な抗肥満効果を示した。
・酪酸は腸内細菌叢から産生されるポストバイオティクスで、Citrobacter rodentiumによる腸炎を緩和し、マウスにおいてLachnospiraceaeとProteobacteriaを増加させ、Clostridiaceaeを減少させる。さらに、酪酸を投与するとNAFLDが改善され、酪酸産生菌であるBlautia、Christensenellaceae、Lactobacillusの存在量が増加することが報告されている。つまり、酪酸のようなポストバイオティクスの補給と関連細菌の増殖の間には、双方向の調節と正のフィードバック作用がある可能性がある。
腸内細菌の代謝産物の制御
・in vitroの研究で、Bifidobacterium lactisとLactobacillus salivariusの混合菌が発酵系において酪酸とプロピオン酸の産生を促進することが示された。
・23種類の菌株を比較した結果、Bifidobacterium longum PI10とLigilactobacillus salivarius PI2が脂肪細胞における脂質の蓄積を制限できることが実験的に明らかになった。
・Lactobacillus plantarum NK3とBifidobacterium longum NK49は,腸内細菌叢からのリポポリサッカライド(LPS)の産生を抑制し、核内因子カッパB(NF-κB)と連動した腫瘍壊死因子α(TNF-α)の発現を低下させることでマウスの肥満と骨粗鬆症を緩和することができた。
・Bifidobacterium breve CECT7263とLactobacillus fermentum CECT5716を含むプロバイオティクスは酪酸関連細菌を増加させ、血漿中の酪酸レベルを上昇させる一方、LPSの産生を減少させることでラットの高血圧を改善した。
・プレバイオティクスの摂取はSCFAや胆汁酸などの腸内細菌代謝物の産生を調節し、代謝プロセスに影響を与える可能性がある。in vivoの研究では,オート麦とライ麦のふすまから抽出した食物繊維によってマウスの体重、糖代謝、肝炎症、SCFA産生が改善され、胆汁酸とトリプトファン・セロトニン代謝の調節を伴うことが明らかになった。
・リュウゼツラン由来のイヌリンとフルクタンは、酢酸、プロピオン酸、酪酸、乳酸のレベルを増加させる一方で、トリメチルアミン-n-オキシド(TMAO)のレベルを減少させるなど腸内細菌の代謝産物を調節することで、メタボリックシンドロームや関連する高血圧の予防に有益であると考えられる。
・ガラクトオリゴ糖は腸内グルカゴン様ペプチド1(GLP1)の発現を増加させる一方、糞便中の胆汁酸の排泄を減少させることでマウスの肥満とインスリン抵抗性の進行を抑制することができた。
・シンバイオティクスによる介入は腸内細菌の代謝物生成における調節機能も明らかにしており、ビフィドバクテリウム・ラクティス、ラクトバチルス・パラカゼイDSM 4633、およびオート麦βグルカンの組み合わせは、酢酸、プロピオン酸、酪酸の糞便レベルを回復させ、胆汁酸プールを減少させることで肥満マウスの体重増加および代謝性合併症を抑制する。
・Lactobacillus paracasei N1115とフラクトオリゴ糖を含むシンバイオティクスはマウスのNAFLDを緩和し、LPSの産生を抑制して脂質代謝を改善するとともにTLR4やNF-κBなどの関連分子標的をダウンレギュレートした。
・Lactobacillus brevis由来の長鎖ポリリン酸は細胞外制御プロテインキナーゼ(ERK)シグナル経路を活性化することで腸の炎症や腸のバリア機能を改善する可能性がある。
・PPSPは、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソベラート、乳酸、パルミトイルエタノールアミドなどの有益な細菌の代謝物の産生を促進することで、代謝性疾患を制御することができた。またPPSPは、LPSやTMAOの産生を制限し、胆汁酸のプールを減少させ、AMPK、ERK、GPR43、IRF4、NOD2、TLR2を介したシグナル伝達経路のアップレギュレーション、トリプトファン・セロトニン代謝経路の改善、TLR4、NF-κB、NOD1、TNF-α関連のシグナル伝達経路のダウンレギュレーションをもたらす。
腸管バリア機能の改善
・腸管バリア機能は、腸内細菌叢の影響を強く受けている。
Bifidobacterium longum NK49やLactobacillus plantarum NK3などのプロバイオティクスを経口投与すると腸管バリア機能が促進され、さらにTNF-αの発現を抑えて免疫細胞を調整することで、マウスの肥満や骨粗鬆症を改善することができた。
・Bifidobacterium longum PI10はGLP1とインターロイキン-10(IL-10)に対する非常に強力な誘導物質で、腸管バリアを強化する可能性がみられた。
・イソマルトデキストリンのようなプレバイオティクスは、循環中のエンドトキシンレベルを低下させて腸管バリアを回復させることにより慢性炎症に関連したインスリン抵抗性に有益な特性を有していた。
・不健康な食事はLPS産生菌の増殖を促進し、損なわれた腸管バリアを介してLPSの移行をもたらし、脂質異常症、インスリン抵抗性、全身性炎症、免疫反応を誘発する可能性がありる。
・in vivoの研究では、Lactobacillus paracasei HII01とキシロオリゴ糖を含むシンバイオティクスを投与することで代謝性エンドトキシン血症を回避し、FirmicutesとBacteroidetesの比率とEnterobacteriaceaeの豊富さを減少させ、肥満ラットの代謝障害と腸管バリアを改善できることが明らかになった。
・腸管バリア機能障害は2型糖尿病における腸内細菌叢の異常と慢性炎症に関連しており、ヌクレオチド結合オリゴマー化ドメイン様受容体(NLR)が炎症障害に役割を果たしていた。
・PPSPはGLUT4、GPR43、NLCR3、p38 MAPK、TRAF6を介したシグナル伝達経路や、claudin 1、GLP1、IL-10、occludin 1、ZO-1の発現を上昇させることで、腸管バリア機能を改善し、代謝疾患を軽減することができると考えられる。