妊娠糖尿病(GDM)は、後に2型糖尿病(T2DM)を発症リスクを高める。
GDM既往歴のある女性は耐糖能正常(NGT)の女性と比較して、産後5年以内にT2DMを発症するリスクが10倍近く高い。
出産後のT2DM発症は心血管疾患(CVD)のリスク増大に関連するため大きな問題である。
GDM発症率の増加には糖代謝異常(AGR)と同様に、肥満、母親の高齢化、喫煙、GDM既往歴などの要因が関係している。
同様に、GDMはメタボリックシンドローム(MetS)の素因を増加させ、MetS発症はT2DMリスクを増加させる。
脂質異常症や高血圧などのMetSの構成要素は、GDM既往歴のある女性でより頻繁に認められる。GDM既往歴女性における脂質異常症の存在は、将来のT2DM発症リスクの増加と関連している。
食習慣はGDM発症率を低下させる要因である。
中でも地中海食(MedDiet)は最も広く研究されている食事パターンの一つ。
NGTまたはGDMを有する参加者を対象に妊娠初期および産褥期直後のMedDiet介入評価を行った先行研究では、MedDietによってMetS発症リスクが26%減少したことがわかっている。
MedDiet介入により産褥直後の母親の代謝異常率が低下することは分かったが、一方でこのような効果が持続的かどうかはまだ解明されていない。
リンクの研究は、妊娠初期のMedDiet介入と産後3年の糖代謝異常との関連を長期追跡して評価した初めての研究。
妊娠初期にMedDiet介入を行い、産褥期に栄養介入を強化することが産褥期から3年後のAGRとMetSの発生率に及ぼす影響を評価することを目的としている。
正常血糖値女性2626人を妊娠第12週(GW)前に無作為に割り付けた。
介入群(IG)女性はエクストラバージンオリーブオイル(EVOO)(40mL/日以上)と一握りのナッツを毎日摂取するMedDietに従い、コントロール群(CG)女性はあらゆる種類の食事脂肪を制限した。
結果
出産後3ヵ月および3年では、IG女性はMedDietの遵守度が高く、BMIおよび脂質・血糖プロファイルの低値と関連していた。
体重変化とウエスト周囲径はIG女性で低かった。
妊娠初期のMedDiet介入は、産後3年の時点でAGRおよびMetS発症率に持続的な有益な効果を示した。
・IG群では妊娠初期(12週目以前)にEVOOとナッツ類を豊富に含むMedDietに基づく栄養介入を実施。産褥期を通じて維持したところ、出産後に介入を開始したCG群と比較してMEDASスコアが高くなり、出産後3年間のAGRおよびMetS発症率が低下した。
・IG群女性は、高齢、妊娠有害転帰(流産および/またはGDMの診断)の既往歴が多いことなど、AGRおよびMetS発症の危険因子をより多く有していたにもかかわらず、AGRおよび/またはMetSの発症率は低かった。この事実は、出生後の代謝に好ましくない影響を及ぼす可能性を減らすために妊娠中のできるだけ早期に栄養介入を開始することの重要性を裏付けている。
・MedDietのアドヒアランスが高いことに加え、妊娠初期から栄養介入を受けた女性は、出産後に栄養介入を受けた女性と比較してBMIとウエスト周囲径が低く、妊娠前体重に対する体重増加が少なく、HOMA-IRの値が低かった。
・MedDietがMetSやAGR予防に果たす役割は、抗酸化作用や抗炎症作用による可能性がある。EVOOは一価不飽和脂肪酸の豊富な供給源で、食後グルコース値を下げるだけでなく、炎症プロファイルを改善することがわかっている。
・ナッツの摂取は、エネルギー制限食の中でも体重減少を促進する可能性がある。これは満腹感の増強、熱発生の増加、不完全咀嚼、脂肪の吸収不良によるものと思われる。
ナッツ類には不飽和脂肪酸、食物繊維、マグネシウムが豊富に含まれており、インスリン感受性、空腹時血糖値、炎症に有益な影響を及ぼす可能性がある。
したがって、MedDietによるナッツ類の摂取によってMetSとAGRの割合が減少することが期待できる。
・糖尿病の家族歴は、GDMと診断された女性における分娩後の糖尿病前症のリスクを増加させることが判明している。
まとめ
EVOOとナッツ類を補充した栄養介入を妊娠初期に開始すると、GDM発症率が低下するだけでなく、出産後に開始した栄養介入と比較して産後3年まで代謝上の利点があることを示している。従って、EVOOやピスタチオの消費量の増加といった簡単に日々の食生活で採用できる食事パターンを長期にわたって維持することは臨床的パラメーターを改善し、GDMリスクを減少させることで後のT2DMへの進行を抑制するのに役立つ。