当院では、閉経移行期〜更年期にかけての肉体的・精神的な変化に関するご相談が非常に多い。
今回のブログは、食事介入を含むライフスタイルの改善が閉経移行期〜更年期にかけての症状緩和に役立つことを強調するデータをまとめてみたい。
女性の体内におけるホルモン動態は複雑で、エストロゲンとプロゲステロンに定期的にさらされないと、生殖器系だけでなく性ホルモンの標的組織にも変化が起こってしまう。
”エストラジオール”はエストロゲンの一種で、周期性はなく、広範囲に代謝作用を及ぼす。
また、中枢神経系に作用して食物摂取量と基礎エネルギー消費量(基礎代謝)を増加させる。
エストラジオールは肝臓での糖新生を亢進させ、インスリンとは逆の作用を示す。骨格筋ではインスリン感受性とグルコース取り込みを増加させ、インスリン分泌を増加させることで膵β細胞の機能を改善する。
更年期に入りエストロゲンの作用が不足すると、女性の基礎代謝は著しく低下する。中枢神経系のエストロゲンα受容体に対するエストロゲンの空腹抑制作用も低下し、カロリー摂取量が増加する。基礎代謝の低下と並行して体重が増加するにつれて体組成が変化し、体重が増加するにつれて脂肪分布が内臓脂肪の増加へと変化する。過剰な脂肪蓄積は脂肪細胞の肥大化と内臓脂肪の組織リモデリングを引き起こす。
エストロゲンの作用低下による過剰な脂肪蓄積は局所的な成長因子を分泌させ、適応的血管新生、高代謝活性、酸素消費が誘導する。その結果、フリーラジカルが過剰に産生される。
それらに起因する構造的損傷に応答して免疫細胞が脂肪組織に集められ、蓄積される。炎症性シグナル分子の分泌が亢進すると低グレードの全身性炎症が誘発される。この低グレードの全身性炎症は、血管障害を促進する役割を果たす。
更年期のエストロゲンレベル低下に関連して、いくつかの慢性疾患のリスクが増加する。
心血管系疾患、腫瘍(特にホルモン感受性乳癌)、インスリン抵抗性、2型糖尿病(T2DM)、骨粗鬆症がそれであり、これらのリスクは生活習慣の改善によって軽減できる。
症状の強さ、頻度、忍容性はライフスタイルにも影響される。
閉経期のホルモン感受性乳がんでは月経開始が平均より早く、終了が遅い人で多く観察される。出産経験がないか、12ヵ月以上授乳していない場合も危険因子となる。
また、更年期や閉経移行期はほてりや寝汗、頭痛や関節痛が頻繁に起こる。
イライラしやすくなり、情緒不安定になり、集中力が低下する。75~80%の女性が更年期障害に悩まされており、そのうち20~30%の女性はより深刻である。
閉経移行期や更年期はライフスタイルを変えることで、症状をなくすことはできなくてもその発症や進行を遅延させ、同時に日常生活を楽にすることができる。
肥満や過体重の場合、体重を5kg減らすだけで、ほてりの耐容性が30%改善する。
定期的な運動はより良い代謝を確保し、ほてりの回数と強さを軽減する。
また、食生活における危険因子を除去・軽減することで更年期女性に特徴的な肥満、メタボリックシンドローム、心血管疾患、骨粗鬆症の疾患マーカー値を著しく改善できる確率が高くなる。上記すべての疾患の危険因子を減少させる、または、すでに発症している場合は食事介入の重要性が強調されている。
先進国の人々の栄養状態は、食事ガイドライン(FBDG)の推奨するクオリティからはまだ程遠い。肥満人口は年々増加し、1975年から2016年の間に肥満の有病率はほぼ3倍になっている。WHOのデータによると女性の40%が過体重で、15%が肥満である。
女性は閉経に関係なく、40歳から60歳の間に平均10kg体重が増加する。
ヨーロッパ更年期・男性更年期学会(EMAS)の勧告では、女性は健康リスクを管理し、体重の過剰増加を防ぐために定期的な運動や国の栄養ガイドラインに沿った食事作りが以下の総推奨されている。
リンクのレビューは、バランスのとれた食事と水分摂取、食事介入による心血管疾患予防、睡眠の役割、更年期における主な予防栄養素(ビタミンD、カルシウム、ビタミンC、ビタミンB群、タンパク質摂取など)の推奨事項をまとめている。
【レビューの結論】
・更年期はBMI=18.5~24.9kg/m2、正常範囲の体脂肪量、骨格筋量を達成・維持すること。
・過体重や肥満の場合は、バランスのとれた食事の推奨に従ってエネルギー摂取量を現在のエネルギー必要量より少なくし(500~700kcal/日減)、タンパク質摂取量を1~1.2g/日にする。
・BMR以下のエネルギー摂取は長期的には推奨されない。
・閉経移行期は栄養ケア・プロセス・モデル(NCPM)に基づいた女性の食事療法が必要である。
・バランスの取れた食事は症状を軽減し、健康を維持する。年齢、栄養状態、身体活動、疾患に応じたエネルギー、栄養素、水分の確保が必要。
・単糖類は避ける。
・タンパク質の摂取量は0.8~1.2g/kg/日とし、その半分は植物性タンパク質から摂取する。
・カルシウム、ビタミンD、ビタミンC、ビタミンB群の十分な摂取が重要。
・n-3 LCPUFAとオメガ3脂肪酸の十分な摂取が必要である。
・アルコールは控える。
・果物や野菜は、ビタミン、ミネラル、食物繊維、抗酸化物質などの植物性栄養素を含み、心臓の保護に役立つ。
・野菜と果物の1日あたりの推奨摂取量は500g/日。
・300~400gの野菜と200~100gの果物、すなわち、野菜を3~4回、果物を1~2回食べる。
・少なくとも週に1回は豆類(エンドウ豆、レンズ豆、ひよこ豆、大豆)を食べることが推奨される。低脂肪のタンパク質源(例:鶏肉、低脂肪乳製品)を定期的に摂取する。
・赤身肉(牛肉、豚肉など)の摂取は週350~500g(生肉500~700g)以下が望ましい。食肉加工品の摂取は少量にとどめるべき。
・少なくとも週に1回は肉を食べない日を設ける。肉の代わりに魚、卵、乳製品、豆類、穀類、ナッツ類を適切に組み合わせる。
・植物性油脂の摂取と高脂肪食品の摂取は避ける。
・食べ物や飲み物の味付けに砂糖や塩をできるだけ使わない。塩の一部はフレッシュハーブやドライハーブで代用する。
・脂身の多い魚(サケ、サバ、マグロ、ニシン、イワシなど)や淡水魚(マスなど)を週2食以上(100~120g/回)摂取する。
・無塩ナッツ、その他種子類を1日30g摂取する。
・食物繊維を多く含む食品や食材を毎日取り入れる。全粒粉パン、砂糖を加えていない食物繊維豊富な朝食用シリアル、玄米、オーツ麦、全粒穀物、レンズ豆、ひよこ豆、豆類などの豆類は食物繊維の優れた供給源である。食物繊維の1日の摂取量は30~45gで、全粒穀物を中心に摂るのが望ましい。
・飽和脂肪は総摂取エネルギーの10%を超えてはならない。
・加工食品の摂取量と頻度を減らす。
・塩分摂取量はできるだけ5g/日に近づけ、調味料には新鮮な野菜や乾燥野菜のスパイスを使用する。
・牛乳0.5リットルのカルシウム含有量に相当する乳製品の摂取が推奨される。
・骨粗鬆症に伴う骨折リスクを減らすために、健康的な栄養状態の維持・達成、ビタミンDとカルシウムの十分な摂取を中心としたバランスのとれた栄養摂取、定期的な運動、禁煙と禁酒が推奨される。
・禁煙が推奨され、定期的な運動が不可欠である。
The Importance of Nutrition in Menopause and Perimenopause—A Review
バランス栄養のすすめ
・食事の質は人生のあらゆる段階で個人の健康を左右する。非感染性慢性疾患の発症における食事の役割は十分に証明されている。健康的な食事は更年期障害や関連疾患(心血管疾患、糖尿病、悪性腫瘍など)を予防するのに役立つ。
・オランダで実施された45歳から65歳の6671人を対象とした研究では、果物、野菜の摂取により内臓脂肪量が減少した。この研究に参加した3576人の女性の半数以上が閉経期だった。ヨーロッパではバランスのとれた健康的な食事の推奨は、Food-Based Dietary Guidelines (FBDGs)に記載されている。地中海食や超低カロリー食(VLCD-1200kcal/日)は非感染性慢性疾患や体重管理に良い影響を与える食事の代表。
更年期の栄養状態
・更年期や閉経移行期はホルモンレベルの変化(性ステロイドの減少)により、女性の基礎代謝は著しく低下し、基礎代謝量(BMR)は1日あたり250~300kcal減少する。生活習慣が変わらない場合、年間約2kgの体重増加をもたらす可能性がある。基礎代謝の低下と並行して体組成も変化し、この時期最も憂慮すべきは過体重と肥満である。
・体重増加は一般に腹部(内臓)脂肪量の増加を意味する。ホルモン動態の変化により除脂肪量(FFM)と骨格筋量(SMM)は減少するのが特徴で、筋機能と筋量が減少してサルコペニアと体脂肪量異常が同時発生することでサルコペニア性肥満になる。女性の腹部肥満の発生率は年齢とともに増加し、体格、人種、民族に関係なく中年女性の60~70%に急激な増加(平均6.8kg/year)が観察される。
健康的な栄養状態の達成と維持
・閉経移行期や更年期障害の症状は健康的な栄養状態を達成し維持することで、かなり軽減され、耐えられるようになる。個人が長期的にライフスタイルを変え、新習慣の体系を形成できるよう選択肢を選ぶ必要がある。複合的に個別化されたライフスタイル療法は、個々の治療要素そのものよりも効果的であることが証明されている。
・体重を減らすには基礎代謝に必要なエネルギー(基礎代謝量;BMR)要求量が決め手となる。BMRを下回るエネルギー摂取は長期的な体重減少につながらず、日常的に維持することが難しくなり、エネルギー量が1200kcal/日未満の食事は微量栄養素欠乏症リスクが高い。超低カロリー食(VLCD、800kcal/日未満)では胆石がよく観察される。
・除脂肪体重と骨格筋量を維持または増加させるためには1日のタンパク質摂取量は1~1.2g/kg体重(エネルギーの20%)とし、フリーウェイトまたはレジスタンス運動を行う。高タンパク質食はエネルギー含量が低い場合にのみ体重減少をもたらす。体重減少は通常12週間を過ぎると鈍化するが、その場合は達成した体重を維持することが目標となる。
更年期における水分摂取
・更年期は適切な水分摂取が非常に重要である。水分摂取は熱バランス調整、解毒、胃腸機能の維持、粘膜の潤い、皮膚の張りに重要な役割を果たす。十分な水分摂取は栄養素と酸素の運搬に重要で骨格系の健康にも寄与する。
・エストロゲンとプロゲステロンは心臓血管系だけでなく、体液と電解質のバランスにも大きく影響する。更年期はホルモンの変化が喉の渇きに影響するため、水分摂取量が著しく減少する可能性がある。個別に適切な水分摂取量は33mL/kg/日であり、1日に均等に摂取することが推奨される。
更年期の慢性疾患に対する食事介入
・更年期はエストロゲンレベル低下に関連して慢性疾患リスクと発生が増加することから、食事療法による栄養介入は慢性疾患の予防に不可欠な要素として推奨される。
更年期における脂質代謝障害
・更年期および閉経期はエストロゲンレベルの低下とともに心血管系疾患(CVD)リスクが増加する。閉経が始まると脂質パラメータが急速に悪化する傾向があり、血管の弾力性が低下し、臓器への血液供給が悪化する。閉経後のコレステロール値の上昇は、すでに同年代の男性の値を上回る傾向がある。
・更年期女性の中心性肥満リスクは閉経前に比べて5倍高くなる。また、中心性肥満、脂質異常症、耐糖能異常、高血圧が更年期女性におけるCVDの一般的な危険因子であることが示されている。
・閉経後女性におけるメタボリックシンドロームの発症率は閉経前に比べて2〜3倍高い。
・エストラジオールは局所的な抗炎症作用やエピジェネティックな修飾作用により、血管系の調節に関与している。エストロゲン欠乏症により心血管疾患リスクは著しく増加する。リスクの増加はエストロゲン欠乏症の発症速度にも影響される。一般にエストラジオールレベルの低下が大きいほど、また変化の速度が速いほど心血管系疾患リスクは大きくなる。
・心血管系疾患の食事療法は、正常な栄養状態を維持し達成すること、高血圧(最も重要な危険因子の一つは食塩摂取量が多いこと)を治療すること、好ましくない脂質プロファイルの変化を管理することを目的とすべき。健康的な食生活を厳守することで、心血管関連死リスクを14~28%減少させることができる。
・食事における脂肪酸組成(質)はその総量よりも重要で、エイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)を含むオメガ3脂肪酸の食事からの摂取は非常に重要である。
食事の脂肪酸組成(飽和脂肪酸、SFA;トランス脂肪酸、TFA)は、食事からのコレステロール摂取量よりも血清コレステロール値に影響する。
・全粒穀物から1日30~45gの食物繊維を摂取することが推奨されている。また、野菜と果物を1日400g以上摂取することが推奨されている。WHOガイドラインでは、生鮮、冷凍、缶詰、乾燥の野菜と果物の摂取を奨励している。精製された穀物を全粒穀物に置き換えると、冠動脈性心疾患リスクが低下する。
・豆類やナッツ類の摂取量が多く、週に2~3皿の魚の摂取は心血管系疾患リスク低減と関連する。
・熱帯植物油脂(ココナッツ、パーム、パーム核)、動物性油脂(バター、ラード)、部分水素添加油脂の代わりに植物油が推奨される(個人的には非常に疑問)。飽和脂肪およびトランス脂肪(動物性脂肪、乳製品、部分水素添加脂肪)は、非熱帯性液体植物油に置き換えるべきである。不飽和脂肪、特に多価不飽和脂肪(主に植物油)の心血管系への有益性を支持するエビデンスがある(鵜呑みにしない方が良いのでは?)
・無塩のナッツ類、種子類、豆類を週に少なくとも4~5皿摂取し、お菓子、ケーキ、清涼飲料水などの精製糖分を避ける。
・高血圧患者や血圧は高いが正常値範囲内の患者さんには、体重のコントロール、アルコールと塩分の摂取量の削減、カルシウム、カリウム、マグネシウムの摂取量の増加が推奨される。欧州心臓病学会(ESC)および欧州高血圧学会(ESH)による生活習慣改善の重要な要素は、野菜、新鮮な果物、魚、種子、不飽和脂肪酸(オリーブ油)、低脂肪乳製品を食べ、赤身肉を避けながら食塩摂取量を1日5g未満に減らすことである。
・心血管系疾患の予防における食事介入では、塩分摂取量はできるだけ5g/日に近づけて調味料は緑黄色野菜や乾燥野菜の香辛料を使用する。また、野菜・果物の1日の摂取目安量は5回(500g/日、うち野菜300~400g、果物200~100g): 野菜3~4皿、果物1~2皿が推奨される。
更年期における糖代謝障害
・閉経移行期における代謝の変化には、脂肪組織の割合の増加、内臓脂肪増加、エネルギー消費量の減少がある。さらに、インスリン分泌とインスリン感受性の障害、T2DMリスクが増加する。更年期の糖質代謝に影響する変化は以下の通り。
・エストロゲン非存在下では膵β細胞からのインスリン分泌が減少する。
・筋肉におけるインスリン感受性の低下によりグルコース取り込みが減少する。
・肝臓のインスリン感受性が低下する結果、糖新生と脂肪新生、トリグリセリド蓄積、VLDL産生が全て増加し、インスリンクリアランスが低下する。
・脂肪組織に対するインスリン作用が低下して脂肪分解が亢進し、脂肪細胞のサイズが増大し、炎症性メディエーターが蓄積する。
・上記の結果、メタボリックシンドロームが発症する。
・糖質代謝異常発症リスクは、性ホルモン(閉経)の有無に関係し、閉経日にも相関が見られる。中国の大規模研究では、閉経日と糖尿病リスクとの間に明らかな相関関係があることが明らかになっている。糖質代謝異常発症リスクは、閉経が45歳から49歳の間で最も低く、
閉経年齢が若い場合も高い場合も糖尿病リスクの上昇と関連していた。40歳以前の閉経が最もリスクが高かった。また、糖尿病発症リスクは体重増加や体組成の好ましくない変化(脂肪率)によって増加した。
・食事と運動を含む生活習慣への介入は糖尿病予防と管理の要である。米国栄養・食事療法学会(American Academy of Nutrition and Dietetics)によると、成人の糖尿病予備軍または2型糖尿病患者に対しては食事療法が内科的治療の有効性と寿命を改善するとしている。食事療法は、糖尿病前症や肥満、2型糖尿病の進行予防においてより費用対効果が高く、成功率が高く、不可欠。
・過体重/肥満の治療は、糖尿病前症および糖尿病において特に重要。過体重の解消/軽減は、糖尿病前症から糖尿病への移行を減少させ、インスリン抵抗性を低下させて血糖コントロールを改善し、すでに発症している糖尿病で使用する血糖降下薬の数と量を減らし、並行して心血管系疾患リスクを軽減する。
・減量の場合、1日のエネルギー摂取量は必要量より500~700kcal少なくする。
・グリセミック指数が低く、食物繊維が豊富な炭水化物を摂ることは健康的である。炭水化物源として、野菜、全粒粉食品、果物、砂糖を加えていない乳製品を優先的に摂るべき。食物繊維の含有量を増やすことは炭水化物の吸収を遅らせるので有益である。食物繊維には満腹感を高める作用があるため満腹感と腸の働きを改善する。食物繊維の摂取量について、欧州のガイドラインでは1日25g以上、心血管系疾患予防には35~45gの摂取が推奨されている。
・食事から添加糖を除く努力をすべきである。
・食物繊維摂取量を増やすことで腸内細菌叢構成が変化する。この変化は代謝、インスリン感受性、インスリン分泌に良い影響を与える。食物繊維の摂取量の増加はプレバイオティクス、プロバイオティクス、ポストバイオティクスと同様に細菌叢に良い影響を与える。
・腸内細菌叢はエストロゲン代謝にも関与している。β-グルクロニダーゼ活性を持つ細菌は、体内の生物学的に活性なエストロゲンレベルを増加させてエストロゲン欠乏症の発症を遅らせ、更年期に伴う症状を軽減する。これまでの研究によると、食物繊維の豊富な食事に加えてβ-グルクロニダーゼ活性を持つ腸内細菌を摂取しても乳がんのリスクが増加することはない。
・脂質異常症を合併した糖尿病では、1日あたり1.6~3.0gの植物性スタノールおよびステロールを摂取することが有益。植物性ステロールは、その受容体に結合することで食事性コレステロールの吸収を抑える。
更年期における骨代謝の変化
・骨粗鬆症は慢性的で進行性であり、更年期に多くの女性が罹患する。骨粗鬆症は血清ビタミンD濃度が低い人に特によく観察される。閉経の1~3年前から5~10年続く閉経期の骨喪失率は年間平均約2%で、脊椎と股関節の骨密度(BMD)は平均10~12%低下する。
・骨の健康は栄養状態の異常(過体重、肥満、栄養不良、サルコペニア)、ビタミンD欠乏、高カルシウム尿症、吸収障害(セリアック病、炎症性腸疾患、胃切除、慢性肝疾患、消化管悪性腫瘍など)によって悪影響を受ける。
・骨粗鬆症(低BMD)の原因としては、閉経、加齢、遺伝的素因、栄養状態の異常、その他の疾患、骨吸収や代謝に影響を与える薬剤などがある。骨折の危険因子としては、低BMD、骨折の既往、遺伝的要因、高齢、虚弱、その他の疾患(めまいや全身脱力感を伴うものなど)が挙げられる。
更年期・閉経期のがん予防
・更年期はホルモン感受性乳癌の発症リスクが増加する。この時期は先に述べた疾患(CVD、IR、T2DM、骨粗鬆症)に加えて、腫瘍予防のための生活習慣の変化(運動、栄養、アルコール、タバコ、コーヒーの回避)が重要。更年期の内臓脂肪量を含む体重増加はCVDのリスクを高めるだけでなくIRのリスクも高め、これを通じて腫瘍の発生も招く。
・更年期の女性に最も多いがんは乳がんで、3大危険因子は過体重(または肥満)、常習的な飲酒、座りっぱなしの生活習慣である。成人期に体重が20kg増加すると乳がんのリスクは2倍になる。閉経前と閉経後の両方において、定期的な飲酒と座りがちな生活習慣は乳癌発症のリスクを高める。正常な栄養状態と体組成を維持し達成することががんリスクを減らす上で最も重要であり、無脂肪体重と骨格筋量を正常範囲に維持・達成するべきである。
・アブラナ科の野菜(キャベツ、ブロッコリー、カリフラワー、大根、キャノーラ)を食事に定期的に取り入れ、少なくとも500gの野菜と果物を摂取することが強調される。すでに発症している乳がんの場合は、正常な栄養状態と骨格筋量を維持することに重点を置く。
更年期における微量栄養素の役割
・ビタミンDの必要量の多くは夏季に内因性合成される。しかし、UV-B曝露が十分でない場合は、食事からのビタミンD摂取が重要。(例、屋外で十分な時間を費やさない、日焼け防止クリームを使用、または皮膚を完全に覆う衣服を着用する場合)。加齢に伴って体内でのビタミンD前駆体の水酸化速度が低下するため、外因性ビタミンD摂取の重要性は年齢とともに高まる。
・ビタミンDは脂溶性ビタミンで、その供給源は卵黄、乳製品、内臓、ビタミンD添加食品である。
・骨粗鬆症の治療では、十分なビタミンDの補給(1日1000IU以上)があって初めて効果が得られることが臨床研究で証明されている。ビタミンD補給がないと骨粗鬆症治療による骨折リスク低減効果は最大30%低下する。日光を浴びることができない人には、年間を通じての補給が推奨される。
・心血管リスクを考慮するとカルシウムの定期的な摂取は推奨されない。サプリメントは、カルシウム欠乏症と診断できる場合にのみ使用すべき。更年期女性(51歳以降)の1日当たりのカルシウム推奨摂取量(推奨食事許容量、RDA)は1000~1200mg。
・高タンパク食(1.5~2g/kg体重/日)は骨折リスクを高める。ビタミンCはコラーゲン形成に関与するため骨形成に必要で、その吸収率は1日の摂取量が100mg/日の場合、約80%。RDAは100mg/日。供給源は、新鮮な野菜や果物、特にピーマン、カシス、柑橘類、ザワークラウトである。
・骨粗鬆症の予防は小児期から思春期にかけて始まる。予防の2本柱は、十分なカルシウムとビタミンD状態を維持することと、定期的な運動である。アメリカのガイドラインによると、イソフラボノイドを含む植物性エストロゲンは、エストロゲン欠乏、つまり骨ミネラルの喪失に対して穏やかな効果しか示さない。したがって、骨粗鬆症の発症を予防することはできない。
・ビタミンB群も更年期に重要な役割を果たす。ビタミンB群は炭水化物の処理と神経系の機能において重要な役割を果たしている。ビタミンB群の摂取は血清ホモシステイン濃度を有意に低下させ、脳卒中のリスクも低下させる。ホモシステイン高値は骨粗鬆症や骨折リスクの増加とも関連している。また、更年期によくみられる症状である認知機能障害や認知機能低下の予防と治療には、ビタミンB群の十分な摂取が非常に重要である。
豆と植物性エストロゲンと更年期障害
・更年期における食事療法の中で最も一般的で最も議論の的となるのは、大豆やその他の植物性エストロゲンを食事やサプリメントとして摂取することだろう。この話題については、賛否両論多くの研究がある。大豆に含まれるイソフラボンは、更年期症状の強さや頻度に良い影響を与えるが、植物性エストロゲンはホルモン感受性乳房腫瘍の治療に悪い影響を与える可能性がある。
・大豆を定期的に摂取している国では、更年期のほてりが少ない。ある研究は、更年期障害の症状軽減のために更年期に大豆イソフラボンを20mg/日摂取することを推奨している。
これは、大豆飲料なら400mL/日、その他の大豆製品(豆腐、テンペ、発酵大豆製品)なら80g/日に相当する。別の研究では42mg/日以上の大豆イソフラボンの摂取は、腫瘍を減少させる効果があると報告している。
・大豆を定期的に摂取しても乳癌発症リスクは増加しないが、抗エストロゲン療法(例:タモキシフェン)の効果は、大豆(ゲニステイン)の定期的摂取によって低下する可能性がある。
更年期におけるマイクロバイオームの役割
・閉経移行期や更年期は腸内細菌叢異常や消化管不定愁訴と関連している。エストロゲンレベルは腸内細菌叢に影響を及ぼし、マイクロバイオームが血清エストロゲンレベルに影響を及ぼす可能性がある。腸内の特定の微生物(エストラボロームと呼ばれる)がβ-グルコロニダーゼを分泌する。エストラボロームは腸内細菌異常症によって減少し、その結果循環中活性エストラジオール代謝物がさらに失われる。このことは、微生物叢の構成が更年期関連の臨床症状の発症や進行を決定する可能性を示唆している。
・更年期女性におけるプロバイオティクス補充は腸関門の完全性を維持することで心血管系リスク因子に好ましい影響を与える。
睡眠と更年期障害
・更年期の睡眠障害は一般的、かつ有意である。分析結果によると睡眠障害の一般有病率は51.6%。成人に推奨されている7~8時間の睡眠時間からの逸脱は、死亡率および心血管イベントの高リスクと関連している。1日の睡眠時間が5時間未満の人は、心血管系疾患発症リスクが最も高い。
・概日リズムは代謝プロセスの調節に重要な役割を果たしている。睡眠不足そのものがエネルギー摂取、グルコース取り込み、レプチン抵抗性に影響する。睡眠と概日リズムの因子は食欲、栄養吸収、代謝に影響する。また、睡眠と概日リズムの乱れは消化器疾患も悪化させる。
睡眠不足は心血管系疾患、糖尿病、腫瘍などと関連し、肥満リスクも高める。
・メラトニンを含む食品は睡眠に直接影響する。メラトニンの合成に補酵素として関与するビタミンや微量元素は、葉酸、ビタミンB6とB12、マグネシウム、亜鉛である。