更年期および閉経後早期の女性には、泌尿生殖器系、中枢神経系、筋骨格系、心血管系に関わる多くの心身の変化が起こる。
中でも更年期の女性の約50%が泌尿器系に関連した症状を経験していると考えられ、最もよく報告される症状は、性交疼痛、膣乾燥、排尿困難、尿失禁(UI)、頻尿、再燃性感染症である。
なかでも尿失禁(UI)は、更年期による骨盤底(PF)と骨盤内臓器への影響に関連していると考えられている。
PF機能低下の原因の一つは、自然分娩の結果として筋肉や結合組織構造、神経が損傷することが挙げられる。靭帯と筋膜は骨盤腔内にある構造物の安定化に大きく関わっているため、結合組織はPF内で重要な機能を持っている。
分娩後にI型コラーゲンがより弱いIII型コラーゲンに置き換えられることが多く、これらの構造の弾力性の喪失につながる。
骨盤とPFの特定の構成要素が弱くなると、その機能の低下に伴う病的な症状の発生につながる可能性がある。
したがって、適切な診断と治療管理は更年期における機能障害を予防し、緩和するために重要な役割を果たしている。
剪断波エラストグラフィ(SWE)は組織の硬さをリアルタイムで可視化および定量化することができ、これまでの研究ではPFM評価にエラストグラフィが使用されている。
研究では主に肛門挙筋と女性の尿道括約筋が評価されている。これらの構造は、適切な尿道の連続的機能を担っている。
リンクの研究は、閉経後女性の骨盤底筋(PFM)の静止時と収縮時におけるPFをエラストグラフィ評価したもの。この研究者は、PF構造の弾性は収縮時に高くなるとの仮説を想定している。二次的な目的は、収縮時と弛緩時のPFMの筋電図評価と、これらの結果とエラストグラフィ(sEMG-表面筋電図)評価の結果との相関関係を評価することとしている。
2017年1月から2019年12月にかけて尿失禁を有する閉経後女性14名を対象に、ポーランド・ヴロツワフの大学病院で実施された。
結果
安静時の骨盤底のエラストマー評価とPFMの収縮との間には、尿道前のすべての位置で有意な差があった。
エラストグラフィの結果とPFMの生体電気活動との間には、統計的に有意な相関は認められなかった。
結論
尿道周囲構造物の弾性は安静時よりも骨盤底筋の活動的な収縮時に高くなることから、せん断波エラストグラフィはPFMの収縮の強さを客観的に評価する有効な検査であると考えられる。
Assessment of the Elastographic and Electromyographic of Pelvic Floor Muscles in Postmenopausal Women with Stress Urinary Incontinence Symptoms
・他の研究では、閉経後の尿路・性器症状の主な原因はエストロゲンレベルの低下であると指摘している。エストロゲン受容体の減少は、膀胱の上皮、尿道、膀胱三角部、膣粘膜およびその支持構造である仙骨子宮靭帯、肛門挙筋、恥骨頚部筋膜で観察された。
・さらに、エストロゲン分泌量が減少することによる膣壁の機能と構造の変化に注目している研究者もいる。膣内の血流の減少、膣平滑筋の収縮力の低下、神経終末とコラーゲン構造とその密度の変化により膣壁の弾力性が低下し、その結果、臓器脱や性的障害などのPF機能不全の発生を助長することになるという説明。
・適切なコンチネンスにおける膣の重要な機能を強調する考察もある。
膣の前壁、膀胱、内尿道口、尿道を支える筋膜構造の損傷や弱体化は、下部尿路に関連する障害を引き起こす可能性がある。
骨盤筋膜を介して膣の平滑筋線維と結合しているため、膣の機能と構成に影響を与える疾患として、肛門挙筋不全(損傷および/または脱神経)があげられる。
・尿道括約筋に関連する解剖学的領域を評価した研究では、安静時および5%、10%、15%の最大値で自発的に骨盤底筋を収縮させたときに、尿道括約筋の領域の硬さがSWEで測定された。
・尿道組織の弾力性と尿道可動性の相関、およびパラ尿道組織の弾力性とUIの相関を評価した研究では、尿道可動性と尿道組織の弾力性との間に相関関係を認めたが、UIと尿道の弾力性との間には相関関係がないことを発見した。
データは剪断波エラストグラフィの有効性を説いたものですが、しかし、閉経後女性の尿失禁の治療・予防・進行の遅延など、解決策を考える上でヒントが散りばめられた示唆に富む文献だと思います。