腰痛や骨盤領域の疼痛、腹痛治療に関する患者さんとの会話の脈略から、子宮や月経に関して話が及ぶことがある。
今回のブログは、子宮内膜症における栄養学的考察をまとめてみたい。
子宮内膜症はエストロゲンに関連する慢性炎症疾患で、子宮内膜様組織が子宮腔以外の骨盤領域(卵管、卵巣、腹膜、膀胱、尿管、腸)に発現し、腹部の慢性疼痛、月経困難症、排尿困難、性交疼痛症、性交疼痛症などを特徴とする。
また子宮内膜症女性では、一般集団よりも不妊症が多く見らる。
子宮内膜症のメカニズムは未だ十分に解明されていない。
子宮内膜症進行に寄与する病原因子リストには、逆行性月経、遺伝子プロファイル、ホルモン活性、炎症、免疫機能障害、酸化ストレス、有機塩素負荷、メタプラスティックプロセスおよびアポトーシス抑制が含まれる。
子宮内膜細胞の浸潤性、接着性、増殖性の不均衡と炎症性細胞の産生増加が子宮内膜症発症に関与していることは証明されている。
腹腔内に異所性子宮内膜の移植が起こる要因として、本来排除されるべき異常な組織が残る免疫機能不全がある。移植片の出現によって酸化ストレスが増加し、炎症が徐々に進行する。
腹膜のマクロファージは、成長因子や血管新生因子、炎症性サイトカインを産生してこの障害の持続と生殖機能障害に関与する。
最新の研究では子宮内膜症は血管新生依存性疾患であることが証明されており、血管新生は子宮内膜組織の成長に大きな影響を与える。
子宮内膜症は悪性腫瘍と類似し、子宮内膜症組織は異所性のものに巣を作り、侵襲的に成長し、隣接する組織を損傷する。
子宮内膜症の患者さんは、卵巣がん、非ホジキンリンパ腫、内分泌がん、脳腫瘍、子宮内膜がんや乳がんなど、何らかのがんに罹患するリスクが高まると考えられている。
世界的な子宮内膜症発症率の違いは、遺伝的要因に加え、環境要因、生活習慣、食事要因の違いによるものと考えられ、特に食事は修正可能な危険因子として子宮内膜症の進行および重症度に関与している可能性がある。
リンクのレビューは、子宮内膜症患者に推奨される栄養について詳しく説明することを目的としたもの。
子宮内膜症発症におけるポリフェノール、ビタミンC、D、E、PUFAs、鉄などの栄養素の重要性について論じている。
子宮内膜症の経過に有益な影響を及ぼす可能性があるという観点から、地中海式、抗炎症、ベジタリアン、低ニッケル、低FODMAP食などの代替食も紹介されている。
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・BMIと子宮内膜症
肥満は子宮内膜に悪影響を及ぼし、子宮内膜癌の進行に重要な危険因子となる。
しかし疫学的データでは、BMIと子宮内膜症発症率との間に逆相関があることが示されており、この肥満パラドックスの解明にはさらなる研究が必要。
BMIが低いと子宮内膜症発症リスクだけでなく、重症の子宮内膜症の素因となる。
慢性骨盤痛(CPP)は、低BMIとの関連が指摘されている。
11研究のメタアナリシスでは、高BMIほど宮内膜症リスクが低かった。
BMIが5kg/m2上昇するごとに、子宮内膜症リスクが33%減少する相関が観察されている。
肥満パラドックス仮説は、BMIのみに基づくのではなく、体組成分析に基づいてさらに検討する必要がある。
・野菜・果物のポリフェノール
野菜や果物など、植物が持つ生理活性物質ポリフェノールは、抗がん作用、抗炎症作用、抗動脈硬化作用、抗酸化作用、抗高血圧作用を持つことが証明されている。
ポリフェノールの抗炎症作用は、安価で毒性がなく、容易に入手できる薬剤として子宮内膜症の管理に利用できる可能性がある。
いくつかの研究では、植物性エストロゲンのようなポリフェノールの適用と女性の癌リスクとの間に逆相関があることが示されている。
・植物性エストロゲン
フィトエストロゲン(PE)は、エストロゲンと構造的・機能的に相同性のある天然由来の植物性化合物で、植物エストロゲンには、リグナン、スチルベン、フラボノイドの3つがある。
フィトエストロゲンは、野菜、果物、お茶、穀物、豆、もやし、大豆、キャベツに含まれている。
PEはエストロゲンと構造が非常に似ており、分子やホルモンのシグナル伝達を妨害する弱いエストロゲン因子として機能し、非インスリン依存性糖尿病、癌、肥満、心血管疾患、更年期の陰性症状の進行を防ぐことができる。
多くの研究がPE摂取と子宮内膜症リスクとの関連性を調査しており、EMSが証明された患者78人と健康な女性78人のPE摂取量の比較において、イソフラボンとリグナンの摂取量は子宮内膜症リスクと逆相関があることが示されている。
またシステマティックレビューでは、22の研究のうち19で植物性エストロゲンが培養細胞に対してプロアポトーシス、抗炎症、抗増殖効果をもたらすことが示されている。
・レスベラトロール
健康への有益な影響がin vitro、in vivoモデルや臨床試験で証明されたポリフェノールの中で、最も試験されているのがレスベラトロール(RSV)。
黒ブドウ、赤ワイン、ベリー類、ナッツ類などが、フィトアレキシンとフィトエストロゲンであるRSVで構成されている。
RSVの子宮内膜細胞や子宮内膜症細胞への影響として、アポトーシス促進機能、細胞増殖や浸潤の抑制、血管新生抑制効果が証明されている。
・ビタミンC
ビタミンCは最も重要な抗酸化物質の一つで、フリーラジカルを強力に減少させる。
人間はビタミンCを合成できないため、食品またはサプリメントや医薬品で摂取する必要がある。
ピーマン、柑橘類、キウイ、ブロッコリー、トマト、ジャガイモ、イチゴは、ビタミンCを多く含む。
マウス実験では、ビタミンCが卵巣増殖機能を向上させ、子宮内膜移植の誘発と成長を抑えるためにかなりの重要な役割を担っていることが示唆された。
ビタミンCとE補給による無作為化三重盲検プラセボ対照臨床研究では、子宮内膜症患者の酸化ストレス指標を低下させる効果が確認された。
・スパイスとハーブ
オレガノ、ローズマリー、タイム、パセリなどのハーブやスパイスは、ポリフェノール、特にフェノール酸やフラボノイドを多く含んでいる。
抗炎症作用が最も知られているスパイスは、タイム、オレガノ、バジル、ローズマリー、ミント、セージ、クルクマ、ディル、シナモン、パセリ、クローブ、レモングラス、ナツメグ、ジンジャー、フェヌグリーク、コショウ、チリペッパー。
スパイスやハーブに含まれる抗炎症物質(カプサイシン、ジンゲロール、クルクミンなど)の多くは、炎症性刺激とシクロオキシゲナーゼ(COX)活性を結びつけるプロセスの一つまたはそれ以上を阻害する。
ターメリックは、抗炎症作用と抗がん作用が証明されている。エストロゲン、TNFα、インターロイキンメディエーター濃度を下げ、細胞のアポトーシスを促進し、血管新生を抑制する。
ターメリックを黒胡椒(ピペリンを含む)と一緒に摂取すると、クルクミンのバイオアベイラビリティが最大で2000%増加する。
200mgのケルセチン、210gのクルクマ・ロンガの乾燥エキス、150mgのアセチルシステインを2ヶ月間補給した女性で子宮内膜症に伴う痛みが著しく軽減し、非ステロイド性抗炎症薬の使用量も少なくて済むことが観察された研究もある。
・お茶とコーヒー
白茶や緑茶には、強い抗酸化力を持つカテキン(ポリフェノールに分類される物質)が、紅茶に比べて多く含まれている。
白茶は、ミネラル、タンパク質、アミノ酸、カフェイン、没食子酸、カテキンなどから構成されているが、メタ解析によると300mg/日以下のカフェイン摂取は子宮内膜症発症リスクは高くならないことがわかっている。
カフェイン摂取量が多いと子宮内膜症発症リスクが高くなる可能性があるが、子宮内膜症の病態生理におけるカフェインとの関連性を説明するデザイン性の高い大規模臨床試験は不足している。
カフェイン酸は、コーヒーや一部の野菜、豆類などに含まれるポリフェノールで、酸化ストレスを軽減し、子宮内膜症の合併症を緩和する可能性がある。
・乳製品
乳製品が子宮内膜症発症リスクに及ぼす生化学的・生理学的な潜在的影響についていくつか仮説があるがその中で、カルシウムを多く含む乳製品の大量摂取は、炎症因子である腫瘍壊死因子-a(TNF-a)、活性酸素、IL-6を減少させることで炎症および酸化ストレスを軽減させる可能性があることが指摘されている。
アテローム性血管疾患や糖尿病において、ビタミンD値とCRPの間に逆相関が認められたことから、子宮内膜症においても同様の関係が示唆される可能性もある。
イラン人女性のケースコントロール研究では、乳製品の摂取量が多いほど子宮内膜症リスク低減につながることが明らかになっている。
さらに、ヨーグルトやアイスクリームなど乳製品を多く摂取すると、成人後の子宮内膜症確定診断率が低いことが実証された。
・魚
魚油はプロスタグランジン系の循環レベルを低下させ、月経困難症や炎症症状を軽減する。
・オメガ3とオメガ6
オメガ3(n-3)およびオメガ6(n-6)PUFAは、脂肪の多い魚や種子/植物油に含まれている。
臨床試験では、オメガ3を豊富に含む魚油を摂取した子宮内膜症女性において骨盤痛の軽減が認められたが、プラセボグループにおいても同様の結果が得られている。
他の横断的研究では、血清中のEPA濃度が高い患者はEPA濃度が低い患者と対照的に子宮内膜症発症リスクが82%低いことが示されたが、総PUFA、総オメガ3 PUFA、総オメガ6 PUFAとEMSの関連は認められなかった。
・肉類
赤身肉は、エストラジオール濃度を上昇させて性ホルモン結合グロブリン(SHBG)を減少させる。エストロゲンはプロスタグランジン合成を増加させ、局所エストロゲンとプロスタグランジンの正のフィードバックは子宮内膜症の増殖および炎症性特徴を亢進する可能性がある。
Nurses’ Health Study II(NHSII)プロスペクティブコホートは、加工・非加工を問わず赤身肉消費は、子宮内膜症リスクと相関することを示している。
赤身肉を1日2皿以上食べる女性は週に1皿以下の女性と比較して、腹腔鏡で証明された子宮内膜症のリスクが56%高かった。
閉経前の米国人看護師を対象としたこの調査は、赤肉の摂取を減らすことが、特に痛みの症状を持つ女性にとって子宮内膜症リスクを減らすための戦略である可能性を示唆している。
・鉄 (Fe)
鉄は細胞の生存に不可欠な成分で、鉄不足は多くの生殖機能不全の危険因子。
EMS患者は月経の出血量が多く、腹腔内の慢性炎症があるにもかかわらず鉄欠乏性貧血と診断されることはあまりない。
子宮内膜症がある場合とない場合の非ヒト霊長類モデル(マカク)対象とした研究では、子宮内膜症マカクのほぼ半数に貧血が見られ、また、赤血球数および血清ヘプシジンの減少、MCVおよび網赤血球の割合の増加というヘマトグラムの異常が観察された。
子宮内膜症女性では、臨床的に明らかな貧血の徴候がなくても鉄貯蔵量を評価する必要がある。
鉄ホメオスタシス異常は局所的な鉄過剰負荷と炎症を伴う子宮内膜病変のその後の病態生理に極めて重要である可能性がある。
・鉄過多と不妊症
子宮内膜症女性の腹膜液(PF)は鉄過剰であり、メカニズムは不明だが初期胚の発生に悪影響を及ぼすとされている。
重度子宮内膜症による卵胞液のトランスフェリン欠乏と鉄過剰負荷が卵子成熟不全を引き起こし、不妊の一因となる可能性もある。
・代替食、抗炎症食
子宮内膜症は慢性炎症性疾患。
高脂肪・高カロリーの欧米食は炎症を促進する。
一方、伝統的な地中海料理や日本食など多くの果物や野菜、ミネラルを多く含む食品は、抗炎症作用を示す。
抗炎症食は子宮内膜症に関連する炎症を抑え、妊娠前期の抗炎症食が生殖機能に良い影響を与えて妊娠および周産期合併症を減らすことから、子宮内膜症患者にとっても適切であるとする研究もある。
・地中海式ダイエット
地中海式食事法(MD)は、世界で最も健康的な食事法の上位にランクされています。
MDは、野菜、果物、乾燥豆類種子、ナッツを主食とし、乳製品と魚の摂取は控えめで、赤肉とワインの摂取は少ない植物性の食事です。MDは、婦人科疾患のみならず、心血管疾患や癌などの大部分の非伝染病予防に多くの効果があると言われています。
Ottらによるシングルアーム研究では、新鮮な野菜や果物、全粒粉製品、さや、大豆製品、脂肪分の多い魚、白身肉、低温圧搾油を食べることと、赤身肉、甘い飲み物、動物性脂肪、甘い物の消費を減らすことが、子宮内膜症の女性の全般的な健康を改善し、疼痛、性交疼痛症、月経困難症を軽減することが示された。
・ベジタリアン・ビーガン食
ベジタリアン食は女性の性ホルモン結合グロブリン(SHBG)レベルの上昇とエストロゲンレベルの低下をもたらすことが研究で示されている。エストロゲンによる子宮内膜への刺激が減少しプロスタグランジン産生組織の増殖が抑制されることから子宮内膜症女性に相応しく思えるが、過激な菜食主義はその他の健康という意味で疑問。
野菜、果物、ハーブを多く摂取する一方で、肉や動物性脂肪の摂取を控えることは重要も、過激思想には注意が必要。
・低ニッケル食
トマト、豆類、全粒粉、ナッツ類、貝類、ニンニク、タマネギ、大豆、トウモロコシ、お茶などの食品に含まれるニッケルはアレルギー性接触粘膜炎(ACM)を引き起こすことがあり、過敏性腸症候群(IBS)に似た症状が出る。
それらの症状やACMは子宮内膜症の患者にも見られる。
低ニッケル食はすべての胃腸症状だけでなく、婦人科系症状も有意に減少させる可能性があることが示されている。
・グルテンフリーダイエット
グルテンフリー食は、グルテンを介した免疫調節とサイトカイン系を屈折させることによる炎症反応を阻害するため痛みを軽減する可能性がある。
330人の女性を対象とした研究では、患者の75%が痛みの症状がかなり緩和されたと報告している。痛みの増加を報告した女性はいなかった。
まとめ
相当量の抗酸化物質、PUFA、ビタミンD、CおよびEを含む製品で満たされた栄養計画に従うこと、および加工食品、赤肉、および動物性脂肪を避けることの正当性を示した。
場合によっては、低FODMAP食、低ニッケル食、グルテンフリー食などの代替食の利用を個別に検討すること。
最も健康的な食事法のひとつである地中海食も、子宮内膜症の女性にとって良い解決策になると思われる。
下の画像は子宮内膜症で推奨される食品と禁忌とされる食品