夜勤労働に従事している身近な女性といえば病院勤務の方が思い浮かぶ。
他にあるだろうか?
現在では在宅勤務によるサーカディアンリズムの乱れで夜行型の女性も増えているのかもしれない。
ヒトは他の生物と同様、生物学的な概日リズムの特性を共有する。
体温やグルコース代謝のホメオスタシス、ホルモン分泌、免疫機能などの生理機能はサーカディアンリズムに従うことから、夜間労働はいくつかの疾患の潜在的な危険因子として研究されている。
サーカディアンリズムは視床下部の中枢性概日ペースメーカーによって制御されている。
「光」は網膜とペースメーカー間の直接的なニューロン接続によって、概日リズムを毎日リセットする最も重要な刺激であるため、夜勤(NSW:ナイトシフトワーク)時の人工光への曝露は、概日リズムの位相と振幅に重要な変化をもたらし、健康に悪影響を及ぼす可能性がある。
2019年、国際がん研究機関はNSWをヒトに対して発がん性があると分類した。この決定は、ヒトを対象とした研究から得られた証拠と、免疫抑制、慢性炎症、細胞増殖における影響を示す実験結果から得られた強力な証拠に基づいている。NSWと正の関連を持つ腫瘍として指摘されたのは、乳がん、前立腺がん、大腸がん。
乳がん(BC)が世界的に大きな問題となっていることや、NSWへの従事率が高いことからこの関係は大きな関心を呼んでいる。
しかし残念ながら、個々の疫学研究やメタアナリシスの結果は一貫していない。研究結果の不一致の要因の一つは、NSWの期間である。
さまざまな期間を評価した研究のほとんどで、長期のNSW(≥15年/≥20年)ではBCリスクの上昇が観察されたのに対し、短期間の被曝(15年未満)では過剰リスクが中等度または存在しないことが観察された。
もう一つの不一致要因は、閉経状態の影響の可能性である。
閉経前と閉経後の乳がんは時間的傾向が異なり、分子プロファイルも異なる可能性があり、さらに肥満など乳がんの既知の危険因子のいくつかと反対の関係がある(すなわち肥満女性は正常体重の女性に比べて、閉経前のがんのリスクが低く、閉経後の腫瘍のリスクが高い)。
研究結果の不一致のもう一つの理由として考えられるのは、いくつかの研究における最後のNSW曝露から追跡調査終了までのタイムラグに関連しているかもしれない。もしそうであれば、NSWへの曝露がなくなるとBCリスクの上昇は弱まるはずで、NSWに関連するリスクの上昇はNSWに曝露されたばかりの女性に現れるはず。
過去にこの興味深い問題に焦点を当てたメタアナリシスはない。
リンクのシステマティックレビューは、閉経前と閉経後のBC発症の違いを考慮しつつ、長期的なNSWと女性のBCリスクについて議論している。
レビューはPRISMAガイドラインに従っている。
PubMed、Embase、WOSで検索した結果18件の研究が含まれた。
長期的なNSWおよびBCのリスクについて、全体および閉経状態別のメタ分析、定年前の女性を対象とした研究に基づく最近の長期的なNSWに関するサブ分析、およびNSW期間に関する用量反応メタ分析を行った。
結果は、NSWへの長期従事はBCリスクを増加させ、更年期の状態と曝露後の時間が関係している可能性を示唆するものであった。
Long-Term Nightshift Work and Breast Cancer Risk: An Updated Systematic Review and Meta-Analysis with Special Attention to Menopausal Status and to Recent Nightshift Work
・長期NSWとBCリスクの関連性
グローバル・メタアナリシスでは、15年以上NSWに曝された女性のBCリスクは夜勤をしていない女性よりもリスクが13%高いことが示された。
用量反応メタ分析では、NSWに10年以上さらされるごとにBCリスクが4.7%増加した。
更年期別の解析では、関連性は閉経前のBCに限られることが示唆され、閉経後のBCリスクには関連性が認められなかった。この差は質の高い研究に限定して解析した場合、より顕著であった。
・過去のメタアナリシスおよび関連研究との比較
この研究で得られたグローバルな知見は、長期的なNSWでBCリスクが15%増加すると報告した他のメタ分析の結果と類似している。
さらに別の用量反応メタ分析では、暴露期間10年ごとに6%のBCリスクの増加が見られ、この研究結果と一致している。
閉経前BCと長期NSWについては、この研究では曝露期間が10年から20年の間ではリスク上昇が観察されなかった。
・結果の解釈と考えられる関連性の機序
長期NSW解析では、NSWへの曝露が定年または閉経前のBCと関連していることが示唆された。
NSWに定期的に暴露されている間は、性ホルモン分泌の変化やその他の生物学的メカニズムにより、促進効果で悪性腫瘍細胞の増殖が促される可能性があると考えられる。
NSWに関連したリスクはより多くの年数を経ることで持続するが、さまざまな原因で生じる加齢による累積DNA損傷が、高齢女性におけるNSWの有害な影響を覆い隠している可能性もある。
長期のNSWに関しては、少なくとも15年間夜勤で働いていると、感受性が高まる時期、つまり有害因子ががんにつながりやすくなる期間に入る可能性が高くなる。
結論
今回のメタアナリシスでは、長期のNSWがBCの危険因子であるという仮説が支持された。
観察された不均一性の原因となりうる、このリスクを修飾する可能性のある要因としては、閉経とNSWに最後に曝露されてからの時間が挙げられ、いずれの要因も若い女性の方がリスクが高いことを示している。
対照的に、閉経後の女性では長期にわたるNSWとBCとの間に関連性は認められなかった。