近年、地中海食(MedDiet)に基づいて構成された食事介入が、健康にもたらす潜在的な有益効果に関するエビデンスが多く提供され続けている。
MedDietは、糖尿病、炎症性疾患、がん、認知機能低下リスクを持つ人々の心血管プロファイルの改善と心血管イベントの減少に寄与することが証明されており、精神障害の発症におけるMedDietの役割は研究の焦点となっている。
PREvención con DIeta MEDiterránea(PREDIMED)試験の二次解析では、ナッツを加えたMedDietを摂取した2型糖尿病患者ではうつ病リスクの減少が観察され、37の研究に基づくレビューでは、(ポリ)フェノール摂取とうつ病リスクおよびうつ症状の重症度の低減との関連が確認されている。
食物繊維、抗酸化成分、オメガ3-多価不飽和脂肪酸を豊富に含む質の高い食事は、うつ病、不安、ストレスのリスク低減につながり、精神疾患全般の治療や予防する可能性がある。
ストレスや不安は妊娠中女性の間で頻繁に起こるもので、周産期不安障害は女性の5人に1人がかかると言われる。
精神障害は妊娠前から現れて妊娠中や産後に経過が変化することもあるため、妊娠初期からストレス関連障害のスクリーニングを行い、さまざまな医療専門家による教育を行う必要性がある。
また、地中海食の有益な効果は妊娠中女性や新生児における妊娠転帰でも確認されていおり、最近の無作為化臨床試験ではSGA(small-for-gestational-age newborn)リスクが高い妊婦に対するMedDiet介入は、出生体重が10%未満での出産やその他の周産期合併症の発生率が有意に減少することが示されている。
リンクの研究は妊娠中のMedDiet介入が母親のストレスや不安、マインドフルな状態、QOL、睡眠に与える影響を評価することを目的としたもの。
1221人のハイリスク妊婦を妊娠19~23週目に3つのグループ(地中海食介入、マインドフルネスに基づくストレス軽減プログラム、または通常ケア)に振り分け、ベースライン時と介入終了時(34~36週)に、不安(State Trait Anxiety Inventory(STAI)、Perceived Stress Scale(PSS))、幸福(WHO Five Well Being Index(WHO-5))、睡眠の質(Pittsburgh sleep quality index(PSQI))をアンケート方式で分析。
介入終了時(34-36週)、地中海食グループは通常ケアグループと比較して、知覚ストレスと不安のスコアが有意に低く、睡眠の質も向上していた。
また地中海食グループは、妊娠中の24時間尿中コルチゾン/コルチゾール比がより有意に増加した。
妊娠中の地中海食介入は母親の不安とストレスの有意な減少、および妊娠期間中の睡眠の質の改善と関連していると結論。
・SGA新生児リスクが高い妊婦を対象としたこの試験では、MedDietに基づく介入が母親の不安やストレスを有意に軽減し、幸福感と睡眠の質を改善した。
・大うつ病性障害の被験者に対するMedDiet介入の有効性を比較した試験では、MedDiet群は対照群と比較してうつ病症状において有意に大きな改善を示した。他の研究でもうつ病発症率の低下はMedDietアドヒアランスの向上と有意な相関があることが証明された。さらに、2型糖尿病の参加者を対象にした試験では、MedDietによるうつ病予防効果が認められ、特にナッツ類を添加したMedDiet群に割り付けられた2型糖尿病参加者は、対照群に比べてうつ病リスクが40%低下していた。
・この研究では、妊娠中のMedDietの実践がコルチゾール不活性化酵素の増加とともに母親の不安・ストレスの軽減に関連することを明らかにした。最近の研究では、MedDietの遵守率の高さは不安と逆相関し、幸福度と直接関連することが示されている。
・MedDietの主要な食品、全粒粉シリアル、果物、野菜、エクストラバージンオリーブオイル、ナッツ摂取群で有益な健康効果が示された。それらは食事性抗酸化物質の食物源である。
・妊婦を対象とした観察研究およびコホート研究では、全粒穀物、果物、豆類などいくつかの食品が精神障害(うつ病や不安症)に対する保護因子であることが確認されている。
一方で、菓子パンなどの超加工食品、赤身肉や加工肉、マーガリン、人工ジュースなどは高い精神障害リスクと関連する。
・MedDietによって母親の幸福感と睡眠の質が向上することが実証された。メンタルヘルスにおける食事の役割は、炎症および酸化ストレス経路、腸内細菌叢の調節、脳の可塑性によって媒介されている可能性がある。
・うつ病患者では、シナプス可塑性と神経細胞の生存に関与するペプチドである脳由来神経栄養因子の生産量が少ないことが観察された。Pittsburgh Sleep Quality Indexで測定した睡眠の質が低い妊婦では、睡眠の質が高い妊婦と比較して脳由来神経栄養因子量の減少が観察された。PREDIMED試験サブグループでは脳由来神経栄養因子の血漿中濃度が、ナッツを添加したMedDiet群は対照群と比較して有意に高いことが観察され、その分泌は食事によっても調節されている可能性がある。
・母親のメンタルヘルスの変化(主に不安)は、産後うつ、早産、乳児の認知・行動発達不良など、母親と子孫にとって不利な転帰と関連している。
MedDietの介入は、妊娠中の母親の不安とストレスを有意に軽減し、幸福感と睡眠の質を改善することから、強力な公衆衛生戦略として妊娠期に適応したMedDietの推進を示唆している。