大好評の妊娠中栄養学。
今回のブログは、亜鉛、銅、セレンの摂取と先天性心疾患(CHD)の関連性を調査した中国の研究をまとめてみたい。
CHDは乳児〜小児期における罹患率、死亡率、身体障害の主要な原因で、生涯にわたる身体的および精神的合併症を引き起こすが、CHDの潜在的メカニズムは依然として明らかではない。
CHDの一次予防のためのエビデンスを確立するために、修正可能な危険因子を特定することは非常に重要。
妊娠中の母親の栄養状態は、重要な修正可能因子として胎児の発育に不可欠。
動物実験では、妊娠中の亜鉛欠乏が子孫の心臓の奇形につながったことが示されている。
また、銅欠乏はラットの心臓の異常を誘発し、銅過剰はPagrus majorの胚と幼虫に高い死亡率と形態的な奇形を誘発した。
さらに、母体のセレン欠乏は流産、早産、子宮内発育遅延に関係することが報告されている。
しかし、亜鉛、銅、セレンのCHDへの影響については、ヒトの研究からはほとんど証拠がなくその結果も一貫していない。
妊婦の亜鉛、銅、セレンの主な摂取源は食事と栄養補助食品だが信頼できる生物学的マーカーがないため、食事やサプリメントからの「摂取量」を推定することが、疫学調査における母親の亜鉛、銅、セレンの状態の最適な指標となる可能性がある。
したがって、亜鉛、銅、セレンのCHDへの影響を明らかにするために、ヒトを対象とした研究をさらに実施するべきと考えられる。
しかし、妊娠中の母親の亜鉛、銅、セレン摂取量とCHDの関連性を明確に調査したヒトの研究はない。
リンクの研究は、中国のヒトを対象に、妊娠中の母親の亜鉛、銅、セレンの総摂取量、食事、サプリメント摂取量とCHDの関係を調査することを目的としたもの。
また、妊娠中の母親の亜鉛、銅、セレン摂取量とCHDとの相互作用についても検討した。
症例474名と対照948名を含む症例対照研究を実施。
妊娠中の亜鉛、セレン、亜鉛/銅比、セレン/銅比の総摂取量が多いほど、全CHDおよびサブタイプのリスクが低かった。
CHDとの有意な逆相関は、亜鉛、セレン、亜鉛と銅の比率、セレンと銅の比率の食事摂取量、妊娠中および妊娠第1期の亜鉛とセレンのサプリメントの使用でも観察された。
さらに、銅摂取比率が低いか高い場合でも、亜鉛とセレンが高い場合は、全CHDのリスクが有意に減少することが示された。
中国人におけるCHDの発症を減らすために、妊娠中の亜鉛とセレンの摂取を促進する取り組みを強化する必要があると結論。
Maternal Zinc, Copper, and Selenium Intakes during Pregnancy and Congenital Heart Defects
・妊娠中の母親の亜鉛、銅、セレンの総摂取量、食事、サプリメント摂取量とCHDの関係を具体的に調べた最初のヒト研究である。
・今回の研究では、妊娠中の亜鉛、セレン、亜鉛/銅比、セレン/銅比の総摂取量が多いほど、全CHDおよびサブタイプのリスクが低下することが確認された。
・CHDとの有意な逆相関は、妊娠中の亜鉛、セレン、亜鉛/銅比、セレン/銅比の食事摂取量、妊娠中および妊娠第一期の母親の亜鉛およびセレンサプリメントの使用についても観察された。
・銅が低いか高い場合でも、高亜鉛と高セレンは、全CHDのリスクを有意に低下させることが示された。
・過去の研究における一貫性のない結果は、測定方法、サンプルサイズ、研究対象者、遺伝的背景の違いに起因している可能性がある。
・個人のセレンの状態は、食物源だけでなく、土壌のセレン濃度によって大きく左右される。
一般に、土壌中のセレン濃度は、地理的な位置、季節の変化、タンパク質含有量、食品加工などの影響を受けると言われている。
・地域の違いによって土壌のセレン状態のベースラインが異なり、健康上の結果の違いにつながる可能性がある。
・過去の研究では、穀物ベースの食事や繊維の多い食品といった食事要因が亜鉛の吸収を阻害し、亜鉛摂取と健康アウトカムに影響を与える可能性が報告されている。
考えられるメカニズム
亜鉛は、多くの脂質、核酸、タンパク質の合成に関与する。
亜鉛欠乏は、胎児の心臓におけるコネキシン-43とHNK-1の分布の変化を誘発し、心臓の異常の発生につながる可能性がある。
また、亜鉛の欠乏はアポトーシスおよび炎症プロセスを活性化し、心臓組織におけるTGF-β1発現および一酸化窒素合成酵素活性を低下させる可能性がある。
亜鉛の補給は、胚の発達中の心臓におけるメタロチオネインタンパク質およびmRNAの発現を著しく低下させ、アポトーシスを減少させ、活性酸素のレベルを低下させることが報告されている。
比較的高いDNA結合親和性を持つ銅は、胎児において亜鉛フィンガー転写因子の亜鉛イオンを置換し、その機能を阻害する可能性がある。亜鉛フィンガー転写因子が阻害されると、胚の致死、心室壁の薄さ、原始心管のループ状の形態形成の異常が引き起こされる可能性がある。しかし、本研究では食事およびサプリメントによる銅の摂取量とCHDとの関連について有意な結果は得られなかった。
理由として、今回の研究対象には銅欠乏や過剰を持つ妊婦がほとんどいないことに起因すると思われる。
セレンは抗酸化酵素の活性と胎児の正常な発育に不可欠。
妊娠中のセレン欠乏は、神経管欠損や口蓋裂などの先天性異常の一因となる可能性がある。
ヒトおよび動物実験におけるセレンへの曝露は、エピジェネティックパターンの変化と関連し、胎児の心血管系の発達に影響を及ぼす可能性がある。
結論
今回の結果は、妊娠中に食事やサプリメントから亜鉛とセレンをより多く摂取することでCHDのリスクを低減できる可能性を示唆している。
また、妊娠中の亜鉛とセレンの高摂取がCHDとの関連に相加作用を持つ可能性を示唆している。