過去の研究で、ここ数十年間に大幅に増加した果糖含有飲料の消費が肥満やメタボリックシンドロームの原因となることが報告されている。
最近の研究では、メタボリックシンドロームや心血管疾患は、出生前の栄養や環境ストレスに影響を受ける胎児プログラミングによって誘発される可能性が明らかになった。
下の研究は、妊娠中および授乳中の母親の果糖過剰摂取が子孫の心臓の発達および圧負荷誘発心肥大の進行に及ぼす影響をラットを用いて検討したもの。
生後3カ月の雄ラットに大動脈弓狭窄術(TAC)を行い心室の過負荷を誘発。TACの4週間後、心エコー評価、病理組織学的および生化学的検査を行った。
心エコー図および肉眼検査の結果、心臓重量、拡張期の心室中隔厚(IVD;d)、拡張期の左心室後壁厚(LVPW;d)は、TACを受けた子孫で上昇し、母親の果糖暴露(MFE)によってさらに上昇した。
しかし、左心室駆出率には有意な影響はなかった。
心筋の病理組織学的検査では、繊維化と酸化ストレスの指標がMFEとTACを受けた子孫で、どちらかの操作を受けたラットよりも高かった。
妊娠中および授乳期の母親の果糖過剰摂取は、心筋の酸化ストレスを増大させ、軽度の心肥大を引き起こすことを明らかになった。
また、母親の果糖摂取量が多いと心室圧負荷による心筋リモデリングが悪化することもわかったと結論。
Maternal Fructose Intake Exacerbates Cardiac Remodeling in Offspring with Ventricular Pressure Overload
・胎児プログラミングの研究では、子宮内で低酸素の悪影響を受けると心機能への永続的な影響、特に心室肥大を示す報告がある。
心室肥大は、母親の栄養不足に起因する可能性があることを示した報告もある。
羊モデルにおける母親の栄養制限および栄養過多により、心肥大と線維化を伴う胎児の左心室における遺伝子発現プロファイルの変化が明らかになった。
さらに臨床研究で、母親の肥満が子孫の心機能を変化させ心血管系疾患リスクを増大させることが示されている。
これらの結果は出生前プログラミングが、出生後の心疾患に対する脆弱性のレベルを決定している可能性を示唆している。
・最近の動物実験で、妊娠中および授乳中の母体の果糖過剰摂取(MFE)が、高血圧の原因となり、子孫の腎臓に胎児プログラミングを誘発することが示されている。最近の研究では、MFEによる血管内皮前駆細胞(EPC)の血管新生作用の低下も指摘されている。
・MFEの影響を受けた子孫は、重症虚血肢の傷害回復が不十分であったことから、MFEが発生学的プログラミングを誘発し、成人してからの心血管機能に影響を及ぼす可能性を示唆している。
・これまでの研究でも、母親の果糖摂取が腎系の胎児プログラミングに関与し,ラットモデルでは高血圧を引き起こすことが明らかになっている。
高血圧と内皮機能障害は、心肥大や心不全などの心筋疾患の発症および進行の重要な因子と考えられている。
・本研究で妊娠中および授乳中の母親の果糖摂取が心臓の胎児プログラムを変化させ、心室圧過負荷による心臓リモデリングの進行を悪化させるかどうかを調べたところ、軽度の心肥大、心筋線維化、コラーゲン沈着が、TACによる心室負荷のない子孫にも認められた。
さらに、心室過負荷によって誘発される冠動脈リモデリングも、本研究ではMFEによって悪化していた。心筋の動脈中膜層の厚さが有意に増加していた。
・酸化ストレスは心肥大の重要な要因であると考えられており、これまでの研究で心筋細胞および心筋細胞内のフルクトース処理に伴う酸化ストレスの増加や、フルクトースを過剰に摂取した動物における心肥大が明らかになっている。今回の研究では、心筋の酸化ストレスの上昇と抗酸化タンパク質の遺伝子発現レベルが上昇したことから、MFEによる心筋の酸化ストレスの上昇が成人した子孫の心肥大に寄与している可能性が示唆された。
・過去の研究では、酸化ストレスが炎症性サイトカインやMAPK経路など、心肥大に関連するシグナル伝達を活性化することが示唆されている。今回の研究では 心筋におけるp38-MAPK活性化が認められた。したがって心筋の酸化ストレスとp38-MAPKの活性化は、MFEによる心肥大に重要な役割を果たしていると考えられる。