25年最初の患者さんはパワーリフターの方。
年末のベンチプレスの大会で優勝されたという嬉しいご報告が聞けました。
今年も良い一年になりそうです。
さて今回のメモは、妊娠中のアミノ酸摂取と妊娠糖尿病の関連性を報告するギリシャのデータをまとめてみます。
研究数も少なく、何も結論づけるものではありませんが、妊活中・妊娠中の方に頭の片隅においていただければ幸いです。
世界的な妊娠糖尿病(GDM)有病率の上昇に伴って、GDM発症リスクを低下させるための修正可能な危険因子の研究が近年注目されており、中でも代謝の健常性と妊娠経過に深く関わる母親の栄養状態が重要要素として注目されている。
妊娠前および妊娠中の食事性タンパク質の役割を調査した最近の研究では、タンパク源(動物性または植物性)とタンパク質の質がGDMリスクに異なる影響を及ぼす可能性が示されている。
アミノ酸(AA)はタンパク質の基本的な構成要素で、必須アミノ酸(EAA)と非必須アミノ酸(NEAA)に分類され、最適な健康を維持し、成長に必要なエネルギーを供給する。ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、スレオニン、トリプトファン、バリンを含むEAAは人体で合成できないため食事から摂取する必要がある。
一方でNEAA(アラニン、アスパラギン、アスパラギン酸、グルタミン酸、セリン)は通常の条件下では体内で合成される。新たなエビデンスによると、NEAAは遺伝的潜在能力をフルに発揮させる成長、発育、グルコースと脂質代謝、内分泌状態などを達成するための必須栄養素として機能する可能性があり、タンパク質に関する栄養学のパラダイムシフトが提唱されている。
アルギニンやシステインなどのAAは生理的ストレスや病気の際に内因性合成が不十分になる可能性があるため、条件付き必須アミノ酸として分類されている。
ロイシン、イソロイシン、バリンを含むEAAのサブグループである分岐鎖アミノ酸(BCAA)は、インスリン抵抗性の増加や2型糖尿病などの代謝障害に関与している。循環BCAAレベル上昇は脂肪組織におけるBCAA異化障害によると考えられており、特にBCAAを食事から摂取した場合、BCAAは血中に蓄積してインスリン抵抗性や代謝異常の原因となる。
フェニルアラニン、チロシン、トリプトファンなどの芳香族アミノ酸(AAAs)は酸化ストレスと恒常性に影響する経路に関与している。妊婦を対象とした研究では、AAAs、特にフェニルアラニンとトリプトファンの循環レベル上昇はGDMのリスク上昇と関連し、これらAAAsと腸内細菌関連代謝産物との間に有意な相互作用が認められている。この結果はGDMリスクのバイオマーカーとしてのAAAsの可能性を示しており、食事摂取がどのようにAAAsの循環レベルに寄与しているかを理解する必要性を強調している。
過去の研究ではGDMリスクに関連する食事性タンパク質の質と供給源の重要性が強調されているが研究結果にはばらつきがあり、個々のAAAs摂取量とGDM発症リスクに焦点を当てたさらなる研究が必要。
リンクの研究は、現在進行中のBORN2020疫学的ギリシャ人コホートの一部における妊娠前および妊娠中の母親の食事からのAA摂取とGDMリスクとの関連を検討したもの。
【結果】
797人の妊婦がリクルートされ、そのうち14.7%がGDMを発症した。
妊娠中のシステイン摂取量の増加はGDMリスクの増加と関連しており、リスクの476%増加に相当した。
さらに妊娠中のアスパラギン酸、フェニルアラニン、スレオニンの摂取量が多いことも、GDMリスクの上昇と関連していた。
妊娠中の必須アミノ酸(EAA)および非必須アミノ酸(NEAA)の総摂取量もGDMリスクの上昇と関連していた。
評価時期に影響される二次用量反応解析では、特定のアミノ酸の摂取レベルが高いほどより顕著なリスクを示すことが明らかになった。
【結論】
妊娠中のアミノ酸AA、特に必須アミノ酸EAAおよびNEAAの摂取量の増加はGDMリスクの増加と正の相関があることが明らかになった。
特にイソロイシン、フェニルアラニン、スレオニン、システイン、アスパラギン酸、アルギニンの摂取量はGDMリスク上昇と有意に相関した。
さらに四分位を用いた二次用量反応分析では、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、スレオニン、トリプトファン、アルギニン、チロシン、EAAsの摂取量が多いほどGDMリスクと強く相関し、用量依存的な関係があることが明らかになった。
これらの知見は、妊娠中のアミノ酸摂取、特にインスリン抵抗性に関連するアミノ酸摂取に焦点を当てた食事介入がGDMリスク管理に役立つ可能性を示唆している。
主な知見
・妊娠前のAAsの摂取はGDMと関連しない。
・妊娠中のAAsの摂取はEAAsとNEAAsの両方でGDMと正の相関を示した。
・妊娠中のイソロイシン、フェニルアラニン、スレオニン、システイン、アスパラギン酸、アルギニンの食事からの摂取量が多いほどGDMリスク上昇と有意な相関が確認された。
四分位分析による重要な知見
・期間A(妊娠前)では、グリシン摂取量が中位四分位値、EAAの摂取量が最高四分位値でGDMリスクが上昇した。
・期間B(妊娠中)では、イソロイシン、ロイシン、バリン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、スレオニン、トリプトファン、アスパラギン酸、システイン、プロリン、アルギニン、チロシン、EAAs、NEAAs、BCAAs、AAsの上位四分位数が妊娠中のGDMリスク増加と有意に相関しており、アミノ酸摂取量とGDMリスクとの間に用量反応関係がある可能性が示唆された。
これらの結果は妊娠中のEAAとNEAAの摂取がGDMリスクと正の相関があるという主解析の結果をさらに支持している。
二次解析ではアミノ酸摂取量とGDMリスクとの関係が用量依存的であり、四分位数上位の摂取量が多いほどGDMリスクとの相関が強いことがさらに明確に示された。この用量反応関係は、特定のアミノ酸の存在よりも高レベル摂取が重要な影響を果たすことを強調している。
ディスカッション
・妊娠前のAA摂取量とGDMリスクとの間に有意な相関が観察されなかったことは、妊娠中の母体の代謝適応がAA代謝を調節する可能性を示唆している。最近のメタ解析でも妊娠前の総タンパク質摂取量はGDMと関連しないが、妊娠中は正の相関があることがわかっている。これは、健康な妊婦では妊娠中期以降、主に肝血流量の増加と妊娠中の母体のインスリン感受性の低下によって基礎的な内因性グルコース産生が増加するためと考えられ、このインスリン抵抗性を補うために妊婦の膵β細胞がインスリン分泌を十分に高められないとGDMが発症する可能性がある。したがって、妊娠中期における母親の蛋白質、ひいてはAAの摂取量は妊娠前の摂取量よりもGDMリスクに対してより大きな意味を持つことになる。
・特定のAA、すなわちイソロイシン、フェニルアラニン、スレオニン、システイン、アスパラギン酸、アルギニンの食事からの摂取量が多いほどGDMリスクと統計的に有意な相関が観察された。GDMのオッズが最も高かったのはシステイン摂取量の増加。グルタチオン合成および酸化ストレス経路におけるシステインの役割がGDMリスクとの強い相関を説明する可能性がある。酸化ストレスの上昇はインスリン受容体シグナル伝達を障害し、GDM妊娠で観察される代謝異常の一因となる可能性がある。
・BCAAの中でGDMオッズが最も高かったのはイソロイシンで、統計的有意だった。BCAA、イソロイシンおよびバリンの高値はインスリンシグナル伝達障害および膵β細胞機能障害への寄与によって、GDMおよび2型糖尿病の予測因子となることを示した先行研究とも一致している。イソロイシンは特に他のBCAAと比較して、GDM高リスクと関連しているようだ。
・妊娠中および非妊娠中を含む小児および成人集団の両方において、BCAAはインスリン抵抗性および代謝機能障害と関連している。BCAAはグルコース調節に悪影響を及ぼすことが示されており、BCAAレベル上昇はタンパク質同化作用の乱れやインスリンシグナル障害による肥満やインスリン抵抗性と関連している。しかし、妊娠中のBCAAの累積摂取量はGDMと関連しなかったことは注目に値する。全てのBCAAが妊娠中のインスリン抵抗性に等しく影響するわけではなく、イソロイシンが優勢な因子として浮上していることが示された。
・イソロイシンレベル上昇は他のBCAAと比較して、PI3K/ACT/mTORC1シグナル伝達経路をより効果的に活性化する可能性があり、この経路はインスリンシグナル伝達とタンパク質合成や細胞増殖などの代謝プロセスを制御している。慢性的なmTORC1の活性化はインスリン受容体の基質をセリン残基でリン酸化するS6K1を過活性化することでインスリンシグナル伝達を阻害し、インスリン抵抗性を促進する。妊娠中におけるこのメカニズムはインスリン感受性の低下を悪化させ、GDMを引き起こす可能性がある。
・全てのAAAsがGDMのaORを増加させ、特にフェニルアラニンは統計的に有意な相関を示した。AAAs累積摂取量は統計学的有意差には達しなかったが、アミノ酸群の中で最も高い調整オッズ比を示し、GDMリスク上昇の傾向を示唆した。2800人の妊婦を対象とした研究では、GDMと有意に関連するアミノ酸群はAAAのみだった。特にフェニルアラニンとチロシンがAAAとインスリン抵抗性、またはGDMリスクとの関係を主に牽引している可能性がある。
正常血糖値の2422人を12年間追跡した研究では、フェニルアラニンとチロシンの両方が2型糖尿病の発症リスク上昇に関連していることがわかっている。
・アスパラギン酸とスレオニン(糖原性AAs)もGDMと有意に関連していた。グルタミン酸とアスパラギン酸はN-メチル-D-アスパラギン酸(NMDA)の活性化に関与し、NMDAの阻害はグルコース刺激によるインスリン分泌を増加させ、耐糖能を改善する。EAAであるスレオニンはグルコース合成の前駆体であるα-ケト酪酸への分解を通じて糖新生に寄与することで、グルコース代謝において重要な役割を果たしている。
スレオニンは一般にグルコースの恒常性維持に関与しているが、今回スレオニン濃度の上昇がGDMのリスクを高める可能性が示唆された。これはタンパク質摂取量の増加へのシフトを含む妊娠中の特異的代謝シフト、あるいはグルコース調節に対するスレオニンの影響を増幅させるAA代謝の個人差に起因している可能性がある。
・AA消化率やタンパク質全体の質に影響を及ぼす要因がいくつか報告され、これには加熱やアルカリ処理などの食品加工技術が含まれる。これらの技術は分離大豆タンパク質、カゼイン、小麦タンパク質を含むタンパク質ベースの食品の調製および製造に広く使用されており、食品の食感、風味、保存性を向上させるが、タンパク質の構造を変化させ、メイラード反応生成物、酸化硫黄AA、D-アミノ酸、リシノアラニンなどの化合物の形成につながる可能性がある。
ヒトではこれら化合物は消化が悪く、リジンのようなEAAの生物学的利用能を低下させ、最終的にタンパク質源の栄養的質を低下させる。こうした影響は、主要蛋白源を高度に加工された食品に依存している人々にとっては、考慮すべき重要な問題である。
上記結論の段に記載されている種類の妊娠中の摂取と、超加工食品の摂取には少し気を配ってあげてもいいかもしれません。