今回のブログは、メキシコの妊婦集団における幼少期の急性白血病(AL)と食事パターンを調べた初の研究をまとめてみたい。
小児がんはメキシコの5~14歳の小児の死因の第1位であり、中でも乳幼児に最も多いがんは急性白血病(AL)。ALの病因はいまだにほぼ不明だが、一方で子宮内で早期に発生するイニシエーションイベントである遺伝子転座が、小児AL患者にかなりの割合で存在することが示されている。
この所見は、母親の食事など胎児環境における潜在的危険因子を調べる必要性を強調している。食事は、胎児におけるDNAメチル化、ヒストン修飾、ノンコーディングRNAなどのエピジェネティックな過程に関与するかのうせいがあり、癌を予防、あるいは癌につながる負の効果をもたらす可能性がある。
しかし、母親の食事パターンと小児白血病に関するエビデンスはない。
リンクの研究は、妊娠中の母親の食事パターンとメキシコ乳児における急性白血病リスクとの関連を評価した初の研究。
結果
様々な食品群をバランスよく摂取し、野菜の摂取量が多い “バランス&野菜リッチ “パターンは、“高乳製品&穀類 “パターンと比較して急性白血病と負の相関を示した。
女児を出産し、妊娠中に健康的な食事パターンを守っていた母親は、男児を出産した母親と比較して子供がALを発症する確率が有意に低いことが観察された。
Maternal dietary patterns and acute leukemia in infants: results from a case control study in Mexico
・果物、野菜、アリウム、豆類の摂取量が多く、精製糖質や穀類摂取量が少ないことを特徴とする”バランス&野菜リッチ “パターンは、女児においてのみALと有意に逆相関していた。
・対照的に、飽和脂肪と穀類を特徴とするパターンとALの間には正の相関が認められたが有意ではなかった。
・最近のメタ解析では、果物・野菜の消費量とALとの間に逆相関があることが報告されている。果物や野菜には白血病発症に対して保護作用を発揮する微量栄養素が含まれている。抗酸化物質、特にビタミンA(レチノイド酸)、C(アスコルビン酸)、Eやカロテノイドは、脂質、リポタンパク質、DNAの酸化的損傷から保護する。カロテノイドはDNA修復を促進し、免疫機能、細胞形質転換、分化に好影響を与える。アスコルビン酸は白血病細胞のin vitro増殖を抑制し、ビタミンAはリンパ芽球や骨髄芽球の終末分化誘導やクローン形成増殖抑制に重要な役割を果たしている。
・多くのの緑葉野菜に含まれる様々なフラボノイドが、細胞周期タンパク質を選択的に制御することで白血病細胞に対する直接的かつ用量反応的な細胞毒性作用が示唆されている。
・広範な研究により、大腸や胃(特にタマネギに多く含まれるケルセチン)における硫化アリルやフラボノイドの抗発がん性が一貫して示されており、突然変異誘発の抑制、酵素活性の調節、DNA付加体形成の抑制、フリーラジカル消去、細胞増殖や腫瘍増殖への影響を促進することが判明している。
・過去のメタ解析ではアリウム属野菜の大量摂取は胃がんや大腸がんと逆相関する可能性が示されている。さらに世界的なプール解析でも、アリウム属野菜の摂取と胃がんとの間に逆相関があることが報告されている。それらのメカニズムのいくつかは小児ALでも同様である可能性があるため注目に値する。
・ギリシャの集団で行われた研究では、母親の砂糖やシロップの摂取量が増えるほどAL発症の確率が高くなることが明らかになった。糖質と癌の正の相関を支持する潜在的機序についてはすでに議論されており、体脂肪率とインスリンシグナル伝達経路障害、ホルモンバランスの乱れ、炎症、酸化ストレス、DNA損傷、遺伝子発現の変化などが挙げられる。
・肉および加工肉の摂取と小児がんとの関連については、最近の研究で定期的に(週に1回以上)生肉を食べる子供は、急性白血病を発症する確率が74%高いことがわかった。肉にはニトロソアミンが含まれており、これはタイプ1の発がん性物質に分類されている。生肉や燻製肉の摂取は、胃の中で発癌性のN-ニトロソ化合物の形成につながる。
・”バランス&野菜リッチ “パターンは女児子孫のALに対してより顕著な予防効果を有する可能性がある。母親の健康的な食事パターンが白血病リスクに及ぼす影響における性差は今回の所見から明らかだが、根底にある正確な生物学的機序は依然として完全に解明されていない。
・妊娠中の母親の食事は胎児のエピジェネティックな変化に影響を与える可能性がある。それらの変化は遺伝子発現や細胞機能に影響を与え、白血病リスクの変動に寄与する可能性がある。23年に発表された38研究の包括的レビューとメタ解析では、母親の果物摂取量が増加すると急性リンパ芽球性白血病のリスクが低下する一方、コーヒー摂取量が増加するとリスクが上昇することが報告された。