妊娠中の貧血は産前および/または産後のうつ病のリスク増加、有害な妊娠転帰と関連することが知られている。
貧血は妊娠関連の頻度の高い合併症の一つで、早産、低体重児出産、SGA(small-for-gestational age)新生児などのリスク上昇と関連することが知られている。
また、妊娠中の貧血は出産時の予後に加えて、妊娠中および/または産後の母体の精神衛生にも影響を及ぼす可能性があるが、ここの研究やメタアナリシスでは結果は一致していない。
うつ病は産後だけでなく妊娠中のどの時期にも発症する可能性があり、妊娠中の貧血が精神衛生に与える影響は各トリメスター間でも異なる可能性がある。
しかし、妊娠初期に貧血のある女性とない女性で、産前産後を通じて不安や抑うつ症状の有無を分析した研究はない。
Korean Pregnancy Outcome Study(KPOS)は、韓国で実施された大規模な前向きコホート研究で韓国人女性の妊娠合併症の有病率を調査し、その危険因子を明らかにすることを目的としたもの。
リンクの研究は、KPOSで収集されたデータから妊娠初期の貧血が出産アウトカムや妊娠中・産後の母親の精神衛生に及ぼす影響を明らかにしたもの。
妊娠第1期にヘモグロビン値を測定し、妊娠12週、24週、36週、産後4〜6週で心理的健康を評価。
韓国人対象者4067名のうち、119名が妊娠第1期に貧血と診断された。
不安と抑うつの発生率は、妊娠第一期に貧血があった人となかった人の間で、妊娠期間中に差はなかった。
しかし、産後の不安と抑うつは貧血のある女性がない女性よりも有意に多かった。
Maternal Anemia during the First Trimester and Its Association with Psychological Health
・低所得、低学歴、10代での妊娠、高齢出産、多胎、妊娠前の低体重、配偶者のいないこと、多胎妊娠、妊娠中の激しい吐き気や嘔吐は、これまで妊娠中の貧血と関連する可能性が示唆されてきた。本研究では、結婚相手がいないことと双子妊娠が妊娠第1期における貧血の独立した危険因子であることが明らかになった。
・ある研究では、多胎妊娠の貧血の有病率は妊娠第1期から有意に増加し、初期の貧血は妊娠後期の貧血を予測することが示された。さらに、多胎妊娠は産後出血の主要な危険因子。したがって、多胎妊娠の女性は出産まで正常なHb値を維持することが重要。
ある無作為化比較試験では、鉄欠乏性貧血を合併した双胎妊娠において、鉄の投与量を2倍にすることで、消化器系の副作用を悪化させずにHb値とフェリチン値を上昇させることが報告されている。
・妊娠後期の軽度の貧血は、妊娠初期の貧血とは臨床的意義が異なる可能性がある。
KPOSコホートでは、妊娠第1期の貧血者の大半は軽度の貧血であったが、低出生体重児、あるいはSGAは貧血者に有意に多かった。
・今回の研究では、産後不安や抑うつは妊娠第1期に貧血があった患者さんでは、なかった患者さんに比べて有意に多いことが判明。
妊娠第1期の母親の貧血が産後の不安とうつ病の独立した危険因子である可能性を排除することはできない。また、産前産後に貧血があった場合、産前産後出血によるHb値の低下など産後の生理的変化に対して精神的に脆弱である可能性が示唆された。
・貧血の妊婦に鉄分の補給が不可欠であることは否定できない。
しかし、貧血でない女性への日常的な鉄分補給については議論の余地がある。
米国疾病対策予防センター(CDC)は、すべての妊婦が最初の出産前の診察時に低用量の鉄分補給を始めることを推奨。対して英国のガイドラインでは、すべての妊婦に定期的に鉄分を補給することの利点と潜在的な危険性についての証拠は不十分であると結論づけている。
・妊娠初期に鉄剤を摂取した被験者と摂取しなかった被験者の妊娠有害事象の発生率を比較し、鉄剤の摂取が妊娠転帰や母親の精神状態に及ぼす影響を検討した。
この分析では、Hb値が正常な女性において、第一期中に鉄分の補給を受けた患者の低出生体重児の発生率が有意に低くなっていた。
この効果が第一期目の鉄分摂取によるものだけであると確実に結論づけることはできないが、この結果は、すべての妊婦が最初の出産前の診察段階から鉄分補給を始めるようにというCDCの勧告を支持するものだった。
・産後不安とうつ病予防のための鉄分補給の効果について、今回の分析では産後不安とうつ病は、妊娠第1期に貧血があった女性となかった女性の両方において、妊娠第1期の鉄分補給と関連がないことが示された。
〆
KPOSコホートでは、妊娠第1期の貧血の有病率は低く重症度も軽度だったが、母親の貧血は低出生体重児およびSGA新生児のリスク上昇と有意に関連していた。
妊娠第1期の貧血は、妊娠期間全体の精神衛生に影響を与えなかった。
しかし、妊娠第1期に貧血があった患者では産後不安やうつ病のリスクが高くなる傾向が認められた。