腰部脊柱管狭窄症(LSS)について興味深いデータを見つけたのでまとめてみたい。
当院でもLSSのご相談を承っている。
治療目的は主に、機械的負荷を取り除くことによる進行の遅延と症状の緩和。
加えてパーソナルトレーニングによる関連構造の強化、代謝の強化、同化作用の強化である。
構造的な変性が進行して症状が発現するLSSのような症状では、痛みをいきなりゼロにするのは他の腰痛とは異なって難しい。
なんだ治らないのか・・・と思う方もいるかもしれないが、間欠性跛行がよごのQOLに及ぼす影響を想像すれば、進行の遅延が非常に重要であることは疑いようがないだろう。
この疾患における下肢痛を伴う神経因性跛行がどのようにして発症するかは未だ明確には解明されていない。
脳脊髄液(CSF)は様々な疾患の早期診断や治療指標として利用できる。
しかし、腰仙部における脳脊髄液(CSF)の生理機能は定量化や可視化が困難なためあまり理解されていない。
過去の研究では、CSFの動態と腰部脊柱管狭窄症(LSS)の病態との相関が報告されている。この研究では腰部脊柱管狭窄症の患者では、健常者に比べて髄液の流れが遅いことが観察された。
具体的には、歩行後の仙骨CSFフローはLSS患者ではほとんど検出されず、ピークフロー速度は健常対照者よりも遅かった。
近年、CSFに関連する神経疾患の研究では主にミトコンドリアの解析が行われている。
最近の研究では、CSF中のミトコンドリア機能を評価することで神経疾患を間接的に評価することができ疾患進行の特徴となることが示唆されている。
最近の研究では、細胞が損傷して機能が低下すると他の細胞のミトコンドリアが細胞外に放出され、損傷した細胞を救出・回復するために輸送されることが報告されている。細胞外に放出されたミトコンドリアはCSFにも存在し、CSF中のミトコンドリアの形態的・機能的変化が疾患の進行や治療経過と関連していることが報告されている。
LSSのCSFにおけるミトコンドリアの質的・量的変化を調べることができれば微細環境の変化に対する理解や根本原因に対応した治療法の開発に貢献することができると考えられる。
リンクの研究では、LSSラットにおけるCSF中のROS、mtROS、MMPを解析した。
LSS群のCSFではシャム群に比べて遊離のmtDNAの濃度が減少していた。さらに、LSSのCSFでは酸化反応の有意な増加が観察された。特に、CSFの細胞外のミトコンドリアでは、ミトコンドリアのスーパーオキシドが増加しており、機能に関わる指標である膜電位も有意に低下していた。
これらの結果は、CSF中の活性酸素、mtROS、MMPのレベルの変化は、LSSの理解と治療に役立ち、LSSの診断のためのバイオマーカーとなりうることを示唆していると結論。
Elevated Mitochondrial Reactive Oxygen Species within Cerebrospinal Fluid as New Index in the Early Detection of Lumbar Spinal Stenosis
・酸化ストレスは心血管疾患や変性疾患、さらには神経疾患における重要な病態生理学的メカニズムとして提唱されており、その主な原因として過剰な活性酸素(ROS)の産生が浮上している。
ミトコンドリアは活性酸素を産生する重要なオルガネラであり、ミトコンドリアが損傷を受けて形態的・機能的な変化が生じると、酸素のほとんどが活性酸素の産生に使われる。
過剰なROSの産生は細胞のDNA損傷を引き起こし、細胞死や組織損傷を誘発する酸化ストレス環境を作り出す。
・LSSは脊柱管が狭くなり、背骨で神経が圧迫されるのが特徴。LSSを対象とした最近の研究では、脊柱の変形は加齢による酸化ストレスが原因であると報告されている。
・老化とは細胞のホメオスタシスが保たれないときに、酸化物質が蓄積されることである。細胞内タンパク質や細胞小器官への酸化的損傷の蓄積は恒常性維持システムによって修復されるが、加齢によってこのシステムの機能が低下すると老化ミトコンドリアでの活性酸素の産生は、多数の酵素反応の副産物として細胞小器官や高分子に酸化的損傷を与え、その結果細胞死や組織損傷の引き金となる酸化的ストレス環境を形成する。
そのため、適切なタンパク質分解が行われないことによる酸化性タンパク質やフリーラジカルの蓄積が、加齢に関連する多くの変性疾患の原因である。
・脊柱管狭窄症疾患において酸化ストレスから細胞内の恒常性を維持するメカニズムの解明や、酸化ストレスを根本的に抑制する治療ターゲットの研究は進んでいない。脊柱管狭窄症とミトコンドリア機能障害、酸化ストレスの関係を直接解析した研究はまだないが、脊髄損傷、多発性硬化症、パーキンソン病などのいくつかの神経疾患において、ミトコンドリアをターゲットとした機能変化や相関関係の観点から新たな治療戦略が発表されている。
・ミトコンドリアは小器官の中で唯一自分のDNAを持っている。
最近の研究では、CSFには無細胞のmtDNAが含まれており、mtDNA濃度の変化が神経変性と関連することが報告されている。
CSF中のmtDNA濃度の変化は疾患の経過や進行に影響を与え、炎症反応を引き起こす損傷に関連する分子因子と関係していることが報告されている。
また、CSFのミトコンドリアに含まれるマトリックスメタロプロティナーゼ(MMP)の違いを解析したところ、疾患の進行に伴ってMMPが正常値に比べて有意に減少することが確認された。
したがって、CSF中の内在性細胞外ミトコンドリアは中枢神経系の変化を間接的に反映するバイオマーカーとして新たな治療戦略の基盤となることが期待される。