世界保健機関(WHO)によると、現在鉄分と葉酸の欠乏が深刻な問題で、先進国、発展途上国の双方で貧血などの生理的不均衡が観察されている。
2011年には世界の妊婦の19.2%が鉄欠乏による貧血を患っていたという。
また妊娠中の鉄欠乏性貧血は、母体の罹患率および死亡率の増加、さらには子孫の有害事象(早産、低出生体重児、神経行動障害)のリスク増加と関連していることが示唆されている。
しかし鉄剤の経口投与は、高用量で投与すると胃腸障害(食欲不振、腹痛、吐き気、嘔吐、下痢、便秘)といった腸内細菌叢の好ましくない変化や酸化ストレス、潜在的な炎症を引き起こす可能性がある。
さらに、早産、子癇前症、耐糖能異常/妊娠糖尿病、低出生体重児、認知機能障害などの重篤な全身性イベントのリスクを高める可能性もある。
そこで、植物のフェリチンや哺乳類のラクトフェリン(LTF)など天然の鉄結合タンパク質は簡単に手に入る安全な非ヘム系有機鉄源として妊婦の貧血を安全に予防・治療するための新たな臨床プロトコルへの応用が検討されている。
ご紹介するのは、LTFの前臨床試験および臨床試験の一部を紹介し、妊娠中の栄養補助食品としてのLTFの実用的な側面を紹介したレビュー。
鉄欠乏状態(ID)/鉄欠乏性貧血(IDA)/炎症性貧血(AI)の治療におけるLTFの有効性は、鉄製剤による補充でしばしば見られる毒性のリスクを伴わずに、鉄製剤による補充と同等以上であり、貧血の予防と治療に適用できる可能性があると結論。
詳細は以下のリンクよりご確認ください。
Lactoferrin for Prevention and Treatment of Anemia and Inflammation in Pregnant Women: A Comprehensive Review
・LTFは経口投与することで、鉄の吸収を促進するだけでなく、生理的に鉄が不足する原因となる慢性疾患に伴う炎症プロセスを抑制する。
・LTFは妊婦の外科手術によって引き起こされる感染症や炎症性合併症からも保護する。
・妊娠中のLTF摂取は、酸化ストレスの抑制、腸内・生殖器系の微生物叢と糖脂質代謝の正常化、腸のバリア機能の保護、創傷治癒の促進、さらには血圧降下作用、鎮痛作用、抗ストレス作用など、多方面に渡って効果を発揮している。
・貧血は鉄欠乏だけが原因ではなく、鉄が機能的に固定化され、細胞の代謝機能や造血に利用できない状態で、これは慢性炎症に起因するものである。
特に慢性疾患(遺伝性血栓症や糖尿病)を持つ女性に多く見られる。
LTFの補給により血液学的パラメータが大幅に改善された結果、炎症性のIL-6レベルが低下し、その結果、ヘプシジン濃度とFPN活性が調整された。LTFは、炎症反応の抑制に続き、鉄のホメオスタシスを正常化する。
・貧血時の鉄分補給は効率が悪く、活性酸素の生成を促進し、炎症や病原体の増殖が促進されるためむしろ有害である。鉄分補給の効果は、全体の鉄分代謝が正常化して初めて得られるものと考えられる。
・LTFを鉄源として摂取している妊娠中の女性は、LTFの他の作用からも恩恵を受けるはずである(消化管・生殖器系におけるLTFのプレバイオティクス作用、消化管粘膜の保護、骨形成・創傷治癒の促進、糖代謝や脂質代謝の正常化、さらには血圧降下や抗ストレス作用など)
鉄が過剰に排泄される特定のシステムは存在しないため、鉄の貯蔵量は鉄の摂取量で調整される。
・妊娠中ではない女性が1日に摂取する鉄の推奨摂取量(RDA)は、米国医学研究所(IOM)の指示に基づいて通常の食事と栄養補助食品から鉄分として18mgを摂取することとなっている。しかし、実際にはこの量の10%(約1.8mg)しか吸収されていない。
・赤身の肉、鶏肉、魚に含まれるヘム鉄(Fe2+)は、野菜製品、卵、牛乳に含まれる非ヘム鉄(Fe3+)よりも吸収率が高い(25%)。
・バランスのとれた栄養価の高い食事は、鉄分の最良の供給源であるが、大多数の女性は妊娠前後の食生活を改善しないため、鉄分の必要量がカバーされない。また、ベジタリアンやビーガンの方は、鉄分の必要量を満たすことができない。
・鉄分の吸収に障害があり、補給の必要性が高い妊娠中の女性
ヘリコバクター・ピロリ菌に感染し、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)治療を受けている方。
痔の慢性的な出血、妊娠糖尿病の女性性、妊娠間隔の短い多胎妊娠の女性、思春期の妊婦
・貧血は妊婦(出産時の出血、周産期死亡、感染症への感受性の増加)および胎児/新生児(体内成長阻害、未熟児、低出生体重、貧血、感染症への罹患)のリスクを高めるため脅威となる。
・貧血の母親の子供の精神運動能力の低下には特に注意が必要。鉄はすべての組織や器官、特に胎児の脳(感情、記憶、学習をつかさどる大脳辺縁系や海馬を含む)の成長には鉄分が不可欠である。周産期の鉄欠乏による神経行動異常(運動、情緒、社会性の発達障害、自閉症、統合失調症、気分障害のリスク増加)は生後の鉄分補給にもかかわらず、永久的かつ不可逆的。
・WHOは2011年に発表した世界の貧血に関する報告書の中で、すべての妊婦および妊娠を計画している人に対して、母子の合併症のリスクを軽減するために、、毎日30〜60mgの鉄分補給を推奨している。
同様に米国疾病予防管理センター(CDC)も、食事では鉄分の適切な供給を確保できないと結論づけ、妊娠中の鉄分補給を推奨している。
Royal College of Obstetrics and Gynaecology (RCO) のような、妊婦に焦点を当てた科学者団体の大半も鉄分の補給を推奨している。
・鉄分を含む製剤は食間に使用し、複合的なマルチミネラル製剤は避けるべきである。なぜなら、多くの微量元素(カルシウム、銅、亜鉛、マンガン、鉄)が相互に影響し、吸収を阻害するからである。アスコルビン酸(ビタミンC)やβ-カロチン(プロビタミンA)が含まれていると、鉄の同化が促進される。
・LTFは腫瘍の形成や転移の抑制、糖質や脂質の代謝調節、骨形成や創傷治癒の促進、鎮痛、抗ストレス、血圧降下などの作用がある。
最近のデータでは、ビタミンD欠乏症に対するLTFの経口投与が、炎症反応の抑制、腸管の改善などの有益な効果をもたらすことが明らかになっている(炎症反応の抑制、腸管バリア機能の改善、大腸菌叢の正常化など)
・鉄分の吸収におけるLTFの役割は、妊娠していない女性を対象とした研究でも支持されている。スポーツ選手に見られる貧血は、激しい運動による赤血球の溶血・分解、酸素の供給不足、汗・尿中の鉄分の損失などが原因である。
また汗や尿、便でも鉄分が失われる。
特に、月経中の体重をコントロールしている女性アスリートは貧血になりやすい。