閉経後女性は、大動脈硬化や収縮期血圧(SBP)の上昇によって心不全を発症するリスクが高くな流傾向があることから、閉経移行期から血圧の管理に意識を向けることが重要とされている。
一酸化窒素(NO)バイオアベイラビリティの低下といった内皮機能障害が動脈硬化とSBPの機序であり、NO合成基質であるL-アルギニン(ARG)の利用能低下も閉経後女性における内皮機能障害の一因となっている。
近年、内皮機能障害と動脈硬化が高齢者、特に女性の四肢除脂肪量(LM)および筋力低下と関連することを示す証拠が増えている。
動脈硬化の影響は高齢女性の大腿部に明らかで、実際に加齢関連の四肢血管機能障害は筋血流制限につながり、筋量および筋力減少に寄与する。
血漿中ARG濃度を高めるためのサプリメントの利用は、血管機能改善に有効であることが過去の研究で示されている。しかし、短期間のARG補給は高齢者の内皮機能を改善するが、長期間の摂取後は増加したアルギナーゼ活性によるARG異化のために内皮機能改善効率が減少することには注意が必要だろう。
L-シトルリン (CIT) は、そのアルギナーゼ活性を阻害する。
したがって、経口CITは同様の量のARGよりも大きな血漿ARGレベルにつながる。
CIT経口補給は、血管攣縮性狭心症患者の上腕動脈内皮機能(流動性拡張、FMD)を改善し、高血圧閉経後女性における下肢動脈硬化(大腿-足首脈波速度、faPWV)を減少させたとの報告もある。
また、低タンパク食の成人におけるCIT補給がる骨格筋タンパク質の同化作用を支持する証拠も増えている。
高血圧管理における運動の側面では、高血圧の中年成人の12週間にわたる有酸素運動とレジスタンストレーニング(RT)の両方が上腕FMDに同様の効果を持つことが示唆されている。
RTは内皮機能と筋肉の特性を改善するために重要な運動様式である。
しかし、閉経後女性が高強度RTを実施することは急性運動に対するSBP反応が誇張され傷害リスクがあるため実現性は低い。
低速度低強度レジスタンストレーニング(SVLIRT)は、若い男性において高強度RTと同様に筋肉量と筋力を向上させ、上腕FMDおよび全身性動脈硬化を改善したとの報告がある。
閉経後女性の12週間のSVLIRT後は、血管機能と筋力改善がみられたが下肢LMは改善されなかったことから、筋同化反応が鈍化していることが示唆された。
45歳以上の女性では加齢に伴う下肢LM減少が認められ、下肢への栄養血流の必要性が高まる。
CITの補給とSVLIRTの組み合わせはNO産生を介して血管機能を改善し、LMを改善すると考えられるが、はっきりとした結論は出ていない。
リンクの研究は、高血圧閉経後女性のCITとSVLIRTの併用(CIT + SVLIRT)が、脚の内皮機能(表在性大腿動脈流動性拡張(sfemFMD))、除脂肪量(LM)、筋力にさらなる利益をもたらすかどうかを検討したもの。
CIT(10g/日、n=13)またはプラセボ(PL、n=11)単独に4週間、CIT+SVLIRTまたはPL+SVLIRTにさらに4週間振り分け。
CITは4週間後と8週間後にsfemFMDを増加させた。
脚のLMはPL+SVLIRTと比較してCIT+SVLIRTで改善がみられた。
脚のカール強度は、PL+SVLIRTに比べ、CIT+SVLIRTでより大きく増加した。
高血圧閉経後女性では、CIT補給は単独で下肢内皮機能を改善し、SVLIRTと組み合わせると下肢LMとカール強度に相加的な効果があった。
SVLIRTと組み合わせたCIT補給は、高血圧閉経後女性の内皮機能の強化を介して筋肉量と筋力を改善する有効な治療戦略であると結論。
・CITサプリメント単独およびRTとの併用によるsfemFMD反応を評価した最初の研究。
・4週間のCITサプリメント単独投与により、脚部内皮機能(sfemFMD)とレッグカール筋力が改善された。さらに4週間のCIT補給+SVLIRTでsfemFMDはさらに向上し、PLと比較して脚LMとレッグカール強度がより向上した。
8週間のCIT補給は脚の動脈硬化(faPWV)に影響しなかったが、SVLIRTは両群で同様にfaPWVを減少させ、脚の筋力(カール以外の筋力)を増加させた。
高血圧閉経後女性ではCIT補給とSVLIRTを併用することで、下肢内皮機能改善を介して下肢LMおよびカール強度を効果的に増加することがわかった。
・CITとARG補給は、血漿ARGレベルを増加させたが健康な個人におけるFMD増加には効果がなかった。一方、ARGの補給はベースラインの上腕FMDが7%未満の個人において内皮機能を改善することが示されており、ARGとCITの利点は内皮機能障害を持つ個人においてより顕著である。
・過去の文献では、高血圧閉経後女性において4週間のCIT投与が上腕FMDを有意に増加させることが明らかにされている。この研究では、CITの単独投与によりsfemFMDが増加することが初めて明らかになった。
・冠攣縮性狭心症と内皮機能障害を有する患者における800mg/日のCIT補給が4週間後に上腕FMDを改善した一方、8週間以降はそれ以上の改善は認められなかったことを報告した研究がある。
また、心不全の高齢者、中年男性、肥満閉経後女性において、急性および短期CIT補給後に、de novo ARG産生を介してNOバイオアベイラビリティが増加することが報告さている。
・CITの補給にSVLIRTを4週間追加したところ、PLでは変化がないのに対し、sfemFMDが徐々に増加することがわかった。
他の研究では、高血圧予備軍の若年成人の8週間RTにより、NOと強力な血管収縮物質であるエンドセリン-1の血漿レベルが改善し、上腕FMDが改善することが観察された。また、正常な閉経後女性における12週間の脚部SVLIRTの後、上腕FMDが対照群と比較して改善したとの報告もある。
・両群とも4週間のSVLIRTの後、下肢動脈硬化(faPWV)に有意な減少がみられた。
この知見は4週間のSVLIRTがCIT補給とは無関係に下肢動脈硬化を低下させることを示唆している。
大腿-足首動脈セグメントがbaPWVの大きな構成要素であり、baPWVが1m/s増加するごとに心血管イベントリスクが12%増加することを考えると下肢動脈硬化の有意な減少は臨床的意義がある。
・過去の研究では、閉経後の女性における8~12週間のSVLIRTだけでは下肢LMの改善に効果がないことが明らかにされていたが、SVLIRTと組み合わせたCITの補給が、脚部LMを改善したことを初めて報告した。閉経後女性にける4週間のSVLIRT+CITは期間が短いにもかかわらずLMの増強に有効である。
1日10gのCIT補給とSVLIRTと組み合わされが、ARG/NO経路による血管拡張を介して下肢内皮機能を増加させ、下肢LMの増加に役立つことを示唆している。
・CITに4週間のSVLIRTを加えることで、高齢者の内皮機能障害発症関連因子である総脂肪率が低下することがわかり、臨床的重要性が示唆された。
同量のCITを3週間投与すると高齢女性の総脂肪量が減少し、脂肪分解作用が示唆された。
・メカニズムとして、CITが血漿ARGの前駆体としてARG-NOバイオアベイラビリティを高めることで末梢血管拡張を促進し、骨格筋への栄養素、インスリン、酸素の供給量を増加させることが挙げられる。
CITの補給は筋タンパク質合成を直接刺激し、栄養失調状態や座りがちな高齢者における筋肉量と筋力の向上に寄与する可能性がある。