新型コロナ感染が女子バレーボールの神経筋抑制に及ぼす影響という、興味深いデータをご紹介したい。
新型コロナで陽性となったスポーツ選手では、咳、頻脈、極度の疲労、神経筋障害など、初感染から数週間から数ヶ月にわたり残存症状を示すケースがある。
新型コロナが引き起こす神経筋システムの機能低下はアスリートパフォーマンスに直接的に悪影響を及ぼし、スポーツ傷害の高いリスク因子となる。
末梢神経、神経筋接合部、筋肉および脳神経障害が新型コロナ患者における神経筋抑制もたらすことは広く文献に記載されている。
2469人のコロナ患者を対象とした観察では、コロナ感染後6カ月の時点でも被験者の63%が疲労感または筋力低下を示している。
コロナ感染後の神経学的症状に焦点を当てた最近の系統的レビューとメタアナリシスでは、コロナ感染患者では筋肉痛が最も頻度の高い神経学的症状で、神経筋系統に深く影響している可能性が示唆された。
他の観察研究でも、COVID-19と末梢神経疾患との関連は広く示唆されている。。
また新型コロナ患者は、すべての筋肉量に影響を及ぼしうる著しい体重減少を起こしがちであると報告されている。
体重減少は組織の恒常性を乱す大規模な炎症反応によって引き起こされ、栄養失調と(体の)不動化を併発することによって促進される。
上記の文脈から、新型コロナがが神経筋系、身体組成およびアスリートパフォーマンスに負の影響を与え、傷害リスクを増加させるという仮説は妥当と思われる。
リンクの研究は、バレーボール選手における新型コロナ感染後の大腿筋群の活性化、身体組成、身体能力の障害を評価することを目的としたもの。
同じチームに所属する女性プロ選手12名を対象に、COVID-19感染前(T0)と感染後(T1)の大腿直筋(RF)、内側広筋(VM)、内側ハムストリング(MH)、外側ハムストリング(LH)大腿二頭筋(BF)の予備活動時間、生体電気インピーダンス分析(BIA)、ジャンプテストについて評価。
T1では、RF、VM、BF、MHの活性化時間が有意に遅れ、BIAでは身体組成が大きく低下していた。COVID-19感染後の女性アスリートにおける膝安定化筋の神経活性アンバランスは膝の安定化の欠損を決定付けるため、特定の神経筋リハビリテーションプロトコルを設定する必要があると結論。
Neuromuscular Impairment of Knee Stabilizer Muscles in a COVID-19 Cluster of Female Volleyball Players: Which Role for Rehabilitation in the Post-COVID-19 Return-to-Play?
・プロバレーボール女子選手を対象に、COVID-19感染が膝関節安定筋の神経筋活動パターンに及ぼす影響について検討した。ACL損傷のリスクが高い選手群において、COVID-19が神経筋系に及ぼす影響を調査した初めての研究。
・トレーニング復帰時のVM,RF,MH,LHの筋力活性化時間がCOVID-19感染前の値と比較して有意に遅延していることが判明。
発熱を訴えた選手では、BIAでの位相角の有意な減少が見られた。
神経筋の活性化パターンと大腿筋繊維、特に大腿四頭筋とハムストリングスの動員率は、動的安定性を提供し、損傷のリスクを低減する上で重要な役割を果たす。(最近のデータでは特に大腿四頭筋の重要性が報告されている)
・ハムストリングの活性化が遅れると脛骨前方せん断力が増大し、スポーツ特有のタスク中にACLの負荷が拡大する。VMとRFは、2つの大腿骨顆の中央を走る膝蓋靭帯への間接的な接続を介して安定化モーメントを有する。大腿四頭筋の活性化の遅れは、プレコンタクトから体重受容の段階における膝の動的不安定性を表している。
大腿四頭筋の活性化が遅れ、大腿四頭筋の縦方向への動員パターンがアンバランスになると膝の動的位置が外転し、ジャンプ着地時のACL負荷が増加する。
・COVID-19は末梢神経、神経筋接合部、筋組織など神経・筋組織に特異的なトロピズムを示すという報告がいくつかある。神経系への感染の可能性として、ウイルスが篩骨から直接侵入するか、肺感染後の全身循環によって引き起こされ、一過性または持続性の神経筋・神経学的後遺症を引き起こすリスクが高くなると考えられる。
・COVID-19は、中枢および末梢神経系を血管、炎症、および/または直接的な神経細胞損傷などのいくつかの方法で攻撃し、ドーパミン神経系、基底核および辺縁系を損傷することによって、神経学的後遺症を引き起こす可能性がある。
・コロナウイルス感染症患者の3分の1にも筋肉痛、CK値上昇、横紋筋融解が認められ、コロナウイルス感染症はウイルス性筋炎を引き起こす可能性が示唆された。
・COVID-19はサルコペニアや栄養失調の有用なマーカーである体重減少、ECM/BCM比の増加、位相角の減少というアスリートの身体組成に影響を及ぼす。
COVID-19患者の身体消耗は、味覚と食欲の喪失、固定化、炎症と発熱、異化-同化不均衡、および器官特異的合併症を含むいくつかの要因によって決定されると報告する研究もある。
他の研究では、軽度のCOVID-19の患者が栄養失調や嗅覚・味覚の変化、疲労や食欲不振など、食事摂取に影響を与えかねない症状に苦しむかもしれないと報告されている。
・この研究に参加したアスリートの40%以上が味覚の喪失を報告し、体重減少、筋肉量の減少およびICWと有意な相関があることが判明した。
・感染回復期以降の再トレーニング開始プロトコルは、競技に復帰前にすべての神経筋および栄養障害を考慮して、罹患したアスリートのスポーツパフォーマンスを高めて傷害のリスクを低減するために全身的な変化に対処する必要がある。
・感染後のアスリートに起こりうる神経学的後遺症を軽減するために、早期のリハビリテーション(求心性信号と動的関節制御を担う中枢機構を同時に刺激することによって無意識の運動反応を強化する神経筋トレーニングプロトコル)介入が極めて重要。筋力低下はベッドレストによって非常に早期に発生し、筋量、筋力およびエンデュランスパフォーマンスの低下を伴う。
神経筋の弱点を迅速かつ効果的に管理することによって患者の状態を改善することができる。
・女子プロバレーボール選手において、ACLに負荷をかける動作時の大腿四頭筋機能低下による膝関節不安定性は、COVID-19感染後の傷害リスクの上昇につながる可能性が示唆された。
膝関節安定化筋の神経筋力不均衡を早期に発見することは、これらの選手にとって最適なトレーニング戦略を定めるために有用である。