普段我々が口にする食べ物は、私たちの心身の健康に直接影響を与えて、疾病リスクと関係する。
しかし、人口過密や農業生産に影響を与える気候変動などにより、栄養価が高く安全な食品へのアクセスが難しくなりつつある。
また、生活環境におけるテクノロジーの進化によって運動量が減少し、質の低い食生活が「普通」とみなされる環境が世界各地で生まれている。
私は仕事柄毎日のように栄養学や筋骨格系の情報にアクセスしているため、質の高い健康管理が当たり前になっており、これだけの情報化社会なのだから多くの人がそうなのだろうと思ってしまうがこれは錯覚で、SNS上では優等生でも実際に実践している人はごく少数にすぎない。
実践が継続(カルチャー)になっている人はさらに少ないだろう。
現代にマッチした食生活にはアクセスが容易で、健康上の利点があり、生産及び消費の持続可能性がある「スーパーフード」がマッチしている。
スーパーフードの候補の一つである豆類は上記の条件を満たしている。
豊富なタンパク質を持たない他の植物性食品と比較して動物性食品の代替品としても適している。
また、 脂肪分が少なく消化の遅い炭水化物を多く含む豆類の摂取はグリセミック指数を低下させ、糖尿病や肥満などを含む慢性的代謝疾患にふさわしい。
カリウム、鉄、ビタミン、フェノール、タンニン、フラボノイドなど、生物学的に利用可能な微量栄養素や生理活性化合物が含まれており、これらが健康効果に貢献している。
全体として、豆類の摂取は炎症や酸化ストレスの低減、体重管理の改善、心血管疾患や様々な種類の癌の発症リスクの低減と関連している。
一方で、豆類の利点とその摂取がもたらす結果に関する広範な研究にもかかわらず、摂取による健康増進のメカニズムは何か?という重要な疑問が残る。
また、豆類の摂取による健康上の利点については多くの報告があるが、腸内細菌叢の構成と機能に及ぼす影響に関するデータは限られており、豆類の腸内細菌叢への影響を比較分析した報告はない。
タンパク質、ポリフェノール、そして特に食物繊維は、腸内細菌叢の変化を促す主要な要因である。
腸内細菌叢は、宿主の代謝、発育、免疫に関与しており、病気のリスクや健康全般に大きな影響を与える。
リンクの研究は、豆類の摂取がマウスの腸内細菌叢に及ぼす影響を評価したもの。
雄マウスに4種類の豆類(レンズ豆、ヒヨコ豆、ソラマメ、乾燥エンドウ)のタンパク質成分をそれぞれ35%添加したものと添加しないものを与え、肥満を誘発する食事を与えた。
豆類を摂取したマウスは、摂取していない動物とは異なる腸内細菌叢を形成していたことが明らかになった。
豆類を摂取した動物はバクテロイデテスが増加し、プロテオバクテリアとファーミキューテスが減少していた。
これらの組成変化はメタゲノム機能の変化を伴い、これまでに報告されている抗肥満の生理学的結果と一致し、宿主に利益をもたらすことを示唆している。
Compositional Changes of the High-Fat Diet-Induced Gut Microbiota upon Consumption of Common Pulses
・今回の研究では、高脂肪食においてBacteroidales(Muribaculaceae, B. acidifaciens, Rikenellaceae)がが最も高いLDAを示し、豆類を用いた食生活を最も代表するものであった。これらはFirmicutes/Bacteroidetesの減少に貢献した。
Muribaculaceae(ムリバキュラ科)は、マウスの腸内細菌の中で最も優勢な細菌の1つで、炭水化物を分解する能力があることが知られている。その存在量は肥満マウスでは減少し、食物繊維の多い環境では増加することが明らかになっている。今回の豆を使った食事ではMuribaculaceaeが他のグループに比べて最も多く含まれていたが、豆フリーコントロールでは最も少なくなっていた。
・高脂肪食で発見された9つの細菌群の多くは、肥満の発生や代謝性疾患のリスクに関係している。これらの細菌を減少させることは、豆類の抗肥満作用やその他の健康上の利点を考慮すると有望な発見である。
・最も高いスコアを示した腸内細菌によるプロピオン酸生成は、エネルギー摂取量を減らし、脂肪生成、循環コレステロール、炎症反応を減少させることで肥満や癌の発生を防ぐことに関連している。また、豆類の摂取は、チアミン、ヘムB、ピリドキサール、5′-リン酸、フラビン、葉酸(6-ヒドロキシメチル-ジヒドロプテリン二リン酸経由)、NAD、ホスホ-パントテン酸、コエンザイムAなどのビタミンや有機補因子の合成に寄与する。これは、ビタミンの生成に関連した豆類の摂取によるさらなる健康上の利益を示唆している。
・L-メチオニン、L-フェニルアラニン、L-チロシンなどの多くのアミノ酸の生合成は促進されるが、L-オルニチン、L-リジン、L-スレオニン、L-トリプトファン、L-イソロイシン、L-バリンの生合成は減少した。
また、L-ヒスチジン、L-ロイシン(さらに生合成が減少)、L-グルタミン酸分解経路も豆類関連細菌で発現された。
L-アルギニンの生合成については、シトルリンを主体とする経路が亢進する一方で、他の同化経路は抑制されるという複雑な結果となった。
・豆類を摂取するとグルコースの分解が促進されるのに対し、対照食では腸内細菌叢のグルコース産生経路が増加することが予測された。
このような腸内細菌叢に起因する効果が、パルス摂取に伴う血糖応答の低下に寄与している可能性がある。