近年、ヒト腸内細菌叢(HGM)が骨格筋量(SMM)とその機能に重要な役割を果たすことを示唆する証拠が増えつつある。
腸内細菌叢を欠くマウスは腸内細菌叢を持つマウスと比較するとSMMが減少し、骨格筋の成長と機能に関連する遺伝子の発現が減少し、腸内細菌叢を持つマウスの腸内細菌を腸内細菌叢のないマウスに移植すると筋肉量が回復したという研究や、60人の高齢者(65歳以上)を対象としたプレバイオティクス(イヌリンとフラクトオリゴ糖の混合物)の補給によって疲労度の低下と筋力レベルの向上が確認された研究など、様々な報告がある。
しかし、HGMとSMMの具体的な因果関係についてはほとんど解明されていない。
この因果関係を理解することで、SMMの喪失に対する新たな介入方法となる可能性がある。
リンクの研究は、中国の健康な更年期女性においてヒト腸内細菌がSMMに因果関係を持つかどうかを調査したもの。
メタゲノム解析の結果、腸内細菌の酪酸合成能の向上は、血清酪酸値および骨格筋指数と有意に相関していた。
2つの酪酸産生細菌種(Faecalibacterium prausnitziiおよびButyricimonas virosa)が、腸内細菌による酪酸合成能力の向上および骨格筋指数と正の相関を示した。
また、腸内細菌産生SCFAである酪酸の合成と除脂肪量との間に因果関係があることが確認された。
この結果は、今後SMMの維持あるいは喪失の予防・緩和のための新たな介入アプローチの開発に役立つと考えられる。
・中国人更年期女性の研究サンプルにおいて、HGMがSMMの変動に重要な役割を果たしており、それはSCFA酪酸の腸内細菌合成に起因していることが支持された。
・最近の研究では、閉経前女性の糞便サンプルと比較して、閉経後女性の糞便サンプルではFirmicutesとRoseburia属の著しい減少が観察された。
Firmicutes属とRoseburia属は酪酸産生菌としてよく知られる。
これらの菌が内因性エストロゲンの欠乏を緩和し、酪酸産生菌が多い閉経後女性ではサルコペニアなどの疾患のリスク低減に寄与している可能性が考えられる。
・嫌気性菌の減少(抗生物質などによる)は、酪酸濃度の低下につながり、好気的環境を促進し、酪酸産生菌の増殖を抑制する。抗生物質処理による酪酸産生菌の枯渇は、SMMに対して負の影響を及ぼす可能性がある。一方、酪酸産生菌の量を増やすと、酪酸の生産によりSMMの向上に寄与する可能性がある。
・F. prausnitziiは腸内に最も多く存在する細菌(本研究では細菌の9%)であり、主要な酪酸産生菌の一つであることから、F. prausnitzii量が少ない個体に対して栄養法によりその増加を促せばSMMを改善することができる可能性がある。例えば、食物繊維の摂取量を増やせば、食物繊維を発酵させて酪酸を生産するF. prausnitziiの数を大幅に増やすことができる。