日本では精神疾患と食物アレルギー(FA)の有病率が年々増加傾向にある。過去の研究では、FAと精神疾患の関連が報告され、 FAは小児期や思春期の精神疾患に関与していると考えられている。
近年、精神疾患と腸内環境の関連性、腸ー脳軸の研究が増加している。
統合失調症患者では腸管炎症マーカーが高値を示し、食物抗原抗体との相関が認められていることから、食物由来の腸の炎症が脳機能に及ぼす影響に対する研究が進んでいる。
精神疾患の治療は薬物療法が主な戦略だが、生活習慣や併存する生活習慣病に対する介入も重要性であることをエビデンスは示している。
いくつかの研究で、栄養学的アプローチがうつ病などの精神疾患の治療および予防に重要な役割を果たすことを指摘されている。
しかし、成人の精神疾患と食物アレルギー(FA)の関連性を評価した実証研究はほとんどない。
リンクの研究は、メンタルヘルス患者におけるFAとQOLおよび睡眠との関係を明らかにすることを目的とした日本の研究。
812名(女性451名、平均年齢42.7±11.3歳)、統合失調症・統合失調感情障害430名、うつ病106名、双極性障害124名、不安障害40名、発達障害38名、摂食障害11名、その他63名を対象に、FAと睡眠障害を質問紙で記録。
QOLはMedical Outcomes Study 8-Item Short-Form Health Surveyで評価。
FAを報告した患者は126名(15.5%)。
FA患者におけるSF-8身体項目要約(PCS)および精神項目要約(MCS)得点は、いずれも非FA患者より有意に低かった。
アレルゲン数の増加に伴いPCSおよびMCSスコアは低下。
睡眠障害は76.0%の患者にみられた.睡眠障害と夜間覚醒の割合はFA群で有意に高く、その割合はアレルゲン数が多いほど増加した。
FAが精神科患者のQOLと睡眠障害に関連し、食物アレルゲンへの曝露を避けることで改善されることを示す証拠を得たと結論。
Relationship of food allergy with quality of life and sleep in psychiatric patients
・この研究は、精神疾患患者を対象にFAとQOLおよび睡眠障害との関連を初めて明らかにした。
精神疾患患者において少なくとも1つのFA(自己申告による)を有する割合は15.5%で、他の研究におけるインターネット調査で日本人11.876人のうち14.5%が有すると報告された割合と同程度。
SF-8の平均値は一般人より心身ともに QOL が劣っていることが示された。
・日本人成人の不眠症の有病率は男性17.3%〜22.3%,女性20.5%〜21.5%と報告されているが、精神疾患患者の不眠症の割合ははるかに高いことが示された。
・SF-8をFA群と非FA群で比較した結果、FA群ではPCSとMCSのスコアが非FA群に比べ有意に低かった。FAが身体的、精神的、社会的機能を含むQOLを低下させる要因として作用していることを示唆。
・可能性のあるメカニズム
食物アレルゲンが体内に侵入すると、アレルゲンは肥満細胞上の特異的IgE抗体と結合し肥満細胞を活性化し、インターロイキン-4(IL-4)などのTh2サイトカインやケモカインを産生して炎症が誘発される。
また、FAは末梢臓器のみならず、脳内でもアレルギー因子を増加させる可能性が示唆されている。食物アレルギーマウスでは、大脳皮質と海馬領域の両方で、総マイクログリア数と活性化マイクログリア比率が有意に増加し、炎症性サイトカインである腫瘍壊死因子-α(TNF-α)レベルが上昇する。
ミクログリアの活性化はTNF-αやIL-6などの炎症性サイトカインを放出し、炎症反応を引き起こし、うつ病、統合失調症、自閉症などの精神疾患を悪化させると考えられている。
・アレルゲン数が多いほど、PCS、MCS、SF-8スコアが有意に低い。これは、アレルゲン数が多いほど、うつ病や重度のストレス症状を持つ人の割合が高い他の報告と一致する。
・睡眠障害を持つ人の割合は非FA群よりFA群で高かった。夜間覚醒のある人の割合は、非FA群よりFA群でより高かった。FAを含むアレルギー性疾患の子どもは健康な子どもに比べ、目覚めずに眠れた日が有意に少ないとした他の研究と一致する。
また、FAの子どもは夜間に2回以上目を覚ますリスクが高いことを示した別の研究とも一致している。
・FAがQOLや睡眠の質を低下させる可能性が示唆され、FAの既往や特定のアレルゲンに関する情報を得ることはQOLや睡眠の改善に重要であると考えられる。
麺類やパンなど手に入りやすい食品の過剰摂取により、潜在的に体調を崩している患者もいる可能性がある。グルテンフリー食が統合失調症患者の精神機能を改善し、症状の重症度を低下させたという事例が報告されている。
メンタルヘルス患者は食物アレルギー歴やアレルゲンを検査し、アレルギーを示す食品に触れることを避けることが、QOLや睡眠を改善する可能性を示唆している。