食事は、インスリン抵抗性(IR)などの肥満関連疾患の制御・予防に役立つ修正可能因子の一つ。
健康的な食事パターンは、子供と成人の両方において心血管疾患、2型糖尿病、メタボリックシンドロームおよびIRといった疾患リスクの低下と関連付けられている。
小児では、健康的な食事パターンをより多く守ることが、より良い心血管系の健常性、メタボリックシンドローム、高血圧またはIRの低リスクと関連していることいくつかの研究で報告されている。
現在、食事の質や健康的な食事パターンの順守状況を評価するためにいくつかのスコアや指数が利用されている。
高血圧を止める食事法(DASH)や2015年に更新された健康的な食事指標(HEI)(HEI-2015)は、アメリカ人の食事ガイドラインの遵守度を評価するための食事指標の一つで、世界的に多くの研究で使用されている。
スペインはDASHとHEIが大人と子供の両方の集団で使用されている国の1つ。
小児のIRに関するシステマティックレビューによると、多くの研究は思春期に焦点を当てており10歳未満の小児に焦点を当てた研究はほとんどない。
これは、インスリン抵抗性が思春期中期にピークを迎え、この年齢層に焦点を当てた研究が多いためと考えられる。
しかし、思春期における正常な発達に伴うインスリン感受性の生理的低下により、IRおよび関連合併症が増悪する可能性があるため、思春期前の小児のIRを研究することは特に重要であるとの指摘もある。
しかし、小児における食事の質指標とIRに関する研究は少ない。
リンクの研究は、小児における様々な食事の質指標とIRとの関連を調査し、IRの低リスクと関連する食事の質指標を特定することを目的としたもの。
栄養対策や介入の成功率を向上させるのに役立つと思われる。
854人の学童(8~13歳)を対象に、3日間の食事を記録。
食事内容の評価と、空腹時血糖値とインスリンを測定し人体計測データを収集。
食事の質の指標として、Healthy Eating Index-2015(HEI-2015)、Dietary Approaches to Stop Hypertension(DASH)、調整DASH(aDASH)を算出。
結果、IRの有病率は5.5%で女子で高かった。
HEI-2015とDASH平均スコアはそれぞれ59.3点と23.4点で、男子は両指標で低スコアだった。
女子ではHEI-2015スコアが33パーセンタイル以上でIRのリスク低下と関連していた。
HEI-2015スコアが高い健康的な食事パターンの順守は、学童、特に女子においてIRリスク低減と関連していると結論。
DASH食の遵守については、本研究ではIRとの関連は観察されなかった。
小児層でHEI-2015指数に基づく健康的な食生活を推進することは、IRを減らし、その結果2型糖尿病やメタボリックシンドロームの発症を予防することにつながると考えられる。
・890人の学童において、HEI-2015の遵守は、女子においてIRリスクの低下と関連するが、男子においては関連しないことが観察された。
DASH食の高遵守率は、男女ともにIRと関連していなかった。
IR有病率は男子より女子で高く、これらのデータは学童を対象とした他の研究で得られたものと一致する。これは、思春期の発育が男子に比べて女子で早く起こるためと、男女間のホルモンレベルの違いによるものと思われる。
・今回の結果では、HEI-2015の遵守はIRの保護因子であり、これは成人に行われた他の研究と一致している。HEIを遵守するほどHOMA-IRが低下することを成人集団の研究で観察他研究もある。さらに米国の成人男性集団では、HEIはHOMA-IRを含む様々な心血管パラメータと関連していた。
・HOMA-IRとHEI-2015のスコアの関係
メカニズムの一つとして、食物繊維を豊富に含む植物性食品の摂取量に応じたスコアリングが挙げられる。
不溶性食物繊維は食後の満腹感を改善し、食欲を減退させる。
水溶性食物繊維は、炭水化物や栄養素を捕捉して吸収を低下させ、胃からの排出を遅らせることで食後の血糖値反応を低下させると考えられる。
さらに、腸内で発酵することで腸内細菌の質を向上させて短鎖脂肪酸の産生が増加、交感神経と副交感神経を調整し、ひいては糖代謝やIRを調節することが期待される。
HEI-2015には脂肪とその質に言及した項目もある。
飽和脂肪酸(SFA)は一価不飽和脂肪酸に比べて筋肉に蓄積されやすく、細胞内脂質の蓄積の増加を通じて筋肉内のIRを増加させる可能性がある。
また、長鎖SFAは不飽和脂肪酸に比べてトリアシルグリセロールよりもジアシルグリセロールに取り込まれやすく、炎症とIRを増加させる可能性がある。
加糖のスコアがマイナスになっていることにも注目したい。
糖質の高摂取は糖質負荷の増大を招き、β細胞機能障害、炎症、IRを引き起こす。
・今回の結果で、多くの学童が質の高い食事をしていないことが観察された。
さらに、年長の学童は食事の質の指標でより悪いスコアを示し、赤肉、砂糖入り飲料、ナトリウムをより多く摂取している。インスリン抵抗性は年齢と関係があり、すなわち年長の子どもはIRが多く、これは思春期に観察されるインスリンピークと一致する。