皮膚は体内で最大の臓器であり、全身の約16%を占めている。
基底層のケラチノサイトにはメラニン産生細胞が存在し、紫外線を吸収して紫外線によるダメージから肌を守っている。
紫外線は過剰なフリーラジカルを発生させ、細胞やDNAに損傷を与える酸化ストレスを引き起こすことでシワや赤み、肌荒れ、色素沈着など肌の老化を早め、皮膚がんリスクを高める。
紫外線が皮膚に害を与える主なメカニズムとしてリボフラビン、ポルフィリン、ヘム含有タンパク質が紫外線の光子を吸収して発生する活性酸素がある。
活性酸素は低濃度あるいは中程度の濃度に保たれていれば、細胞増殖、シグナル伝達、遺伝子発現、宿主防御など様々な生物学的プロセスにおいて有益な役割を果たすが、過剰な生成はDNA、タンパク質、脂質、その他の生体分子への酸化ストレスによって有害な結果をもたらす。
近年、植物性栄養素がこの酸化ストレスを抑制し、紫外線損傷を予防する可能性があるという証拠が増えつつある。
植物にはカロテノイド、フラボノイド、植物性エストロゲン、レスベラトロールなどヒトにとって有益な栄養素が含まれており、主に抗酸化物質特性を示してフリーラジカルを消去、酸化ストレスを克服するのに役立っている。
さらに、抗菌、抗真菌、抗炎症、抗アレルギー、抗痙攣、高脂血症、神経保護、抗高血圧といった特性もある。
リンクの研究は、特定の植物性栄養素がもつ皮膚光損傷の予防効果を探るために文献の系統的レビューを行ったもの。
主にフラボノイドやカロテノイドを豊富に含む紅茶、ブルーベリー、レモン、ニンジン、トマト、ブドウに注目。
このレビューは3つのin vitroと動物実験の組み合わせ、4つのヒト実験、1つのin vitro研究、および1つのin vitroとヒト実験の組み合わせから構成されている。
すべての研究で、紫外線皮膚障害に対するフラボノイドとカロテノイド含有植物エキスのポジティブな効果が報告されている。
フラボノイドとカロテノイドは、日焼けや光老化の予防と治療のための臨床的および美容的応用に役割を果たし、紫外線関連の皮膚がんに対して使用できる可能性がある。
・我々が浴びる紫外線の90-95%はUVAで、残りはUVB。
表皮層に吸収されるUVBと異なり、UVAは表皮と皮膚深層部の両方に浸透する。
UVBは日焼けや皮膚がんを引き起こし、UVAはしわ、色素沈着、肌荒れ、黒子など、肌の老化を早める原因となる。
UVAも間接的なDNA損傷を引き起こすで、皮膚がんの発生に関与している。
・このシステマティックレビューでは、トマト、レモン、ニンジン、ブルーベリーや、ブドウ、紅茶、緑茶など入手しやすく、広く消費されているフラボノイドとカロテノイドを多く含む植物を選び、その特徴を明らかにした。これらの植物は健康維持に良い影響を与えるとして注目されており、機能性医学の一翼を担う可能性がある。
・フラボノイドには植物内部への有害な光の照射を遮断することで紫外線を防御する働きがある。イソラムネチン、カテキン、ケンフェロール、エピカテキン、ケルセチン、エピガロカテキン-3-ガレート(EGCG)などが主な食物フラボノイドで、フリーラジカルの消去、紫外線吸収剤、細胞保護、抗炎症、抗アポトーシス因子、DNA損傷防御、細胞シグナル伝達経路に影響を与えるという特性を持つ。
先行研究では、ポリフェノール(フラボノイドの一種)を多く含む食品は、紫外線発がんに対する有効な保護剤であることが示されている。
・動物実験において緑茶ポリフェノール(GTP)の抗老化および光防御機能が実証されている。
GTPはタンパク質高分子の酸化的損傷を防ぎ、GTP飲料を12週間日常的に摂取することで皮膚の血流と酸素供給が促進され、紫外線による紅斑は25%も減少し、GTPを摂取した女性の皮膚は、潤い、弾力性、密度などの構造パラメータが著しく改善されたことで、有害な紫外線に対する光保護効果が得られることが明らかになった
この知見は、別の二重盲検プラセボ対照試験でも臨床的に確認されている。
・経口投与だけでなく、GTP由来の抗酸化化合物を局所的に適用することで皮膚に有益な効果が得られることも報告されている。
その例として茶フラバノールであるエピガロカテキン-3-ガレート(EGCG)が挙げられる。
EGCGの局所投与は、紫外線照射によって誘発される皮膚がんの生成を劇的に減少させることがわかっている。さらにUVA照射の30分前にEGCGを局所投与すると、照射した無処置のWistarラットに比べて日焼け細胞の発生と真皮表皮の活性化を有意に減少させることも観察されている。
・レモン果皮から抽出したフラボノイドの局所投与が、UVBによるマウスの皮膚損傷を防ぎ、酸化ストレスを軽減し、光老化の原因となる炎症反応を緩和したとする報告もある。
・紫外線皮膚障害に対するフラボノイドの有益な影響は、ブルーベリーやニンジンを用いた研究でも観察された。ボグブルーベリーエキス(BBe)は、ヒト皮膚線維芽細胞のNF-kB応答性経路およびMAPK依存性経路を調節してUVBによるコラーゲン分解および炎症反応を抑制することが示された。
ニンジンに含まれるルテオリンはUVB誘発MMP-1産生を抑制する。
さらに、ケルセチンやシリマリンの外用療法も同様に保護的であることがわかっている。
・最小紅斑量(MED)とは、皮膚の発赤や紅斑を誘発するのに必要な紫外線の線量を指す。
MED値が高いほど、皮膚の変色を引き起こすためにより多くの放射線エネルギーが必要となる。
ヒトのボランティアを対象に実施した研究では、シトラスフラボノイドとローズマリーポリフェノールをブレンドした飲料を8週間摂取したところMEDが大幅に上昇した。
コントロール群と比較して、皮膚の赤みを発生させるためにより多くの量の紫外線を必要としたことからポリフェノール混合物の光保護特性を実証している。
・MEDの増加はカロテノイドの混合物を用いた別の二重盲検プラセボ対照臨床試験でも確認されている。カロテノイドはの代表には、β-カロテンがあり、ブドウ、ニンジン、トマトなど様々な野菜や果物に豊富に含まれている。
カロテノイドの中でも、α-カロテン、β-カロテン、リコピン、ルテイン、ゼアキサンチンは多くの研究対象になっている。
カロテノイドはスーパーオキシドアニオン、ヒドロキシラジカル、過酸化水素など活性酸素種の除去にも役立つ。
2019年の無作為化二重盲検プラセボ対照試験では、紫外線照射前にトマトとローズマリー抽出物のカロテノイド混合物を参加者に補給すると、紅斑が減少し、炎症性サイトカインの増加が防止された。
2011の研究では、リコピンを豊富に含むトマトペーストが、光障害の短期的な(そしておそらく長期的にも)影響に対する防御になることを発見した。
別の研究者では、10週間にわたり毎日40gのペーストを摂取したところ、太陽光を模擬した紫外線にさらされた際に生じる皮膚の紅斑の発生が40%減少した。
トマトに加え、ブドウ果皮抽出物(GPE)を用いた研究でも、紫外線による皮膚障害に対するカロテノイドの有益な影響が観察されている。
・ポリフェノールは細胞の生存率を高め、活性酸素を防ぎ、DNA損傷を制限することが指摘されている。フラバノールのケルセチンとケンフェロールは、UVAによって誘発されたヒト皮膚線維芽細胞のMMP-1(コラゲナーゼ)活性と発現を減少させた。
EGCGは、MMP-2および-9の活性を抑制する機能を有することが明らかになった。
EGCGで処理するとUVA照射を受けた成人ヒト皮膚線維芽細胞および健康なヒト表皮ケラチノサイトでDNA損傷が有意に減少した。
・異なるフラボノイドの吸収とバイオアベイラビリティは、食物および食物源におけるフラボノイドのポジションに大きく影響される。赤ワインに含まれるエタノールは、アントシアニンを吸収する腸の能力を増大させる。ケルセチンを炭水化物と一緒に投与すると、腸管吸収とバイオアベイラビリティの両方が高まる。
・カロテノイドのバイオアベイラビリティはその処理方法によって異なる。
熱処理や機械的なホモジナイゼーションはバイオアベイラビリティを数倍に高め、脂溶性化合物はその吸収を減少させる。
β-カロテンのバイオアベイラビリティは、ほうれん草を液状にして摂取すると、葉全体を摂取した場合と比較して高くなる。
・フラボノイドは、食品に含まれる濃度で摂取する分には毒性は問題ないが、サプリメントとして極端に大量に摂取した場合、フラボノイド中毒の可能性がある。
また、フラボノイドは非ヘム鉄と結合する性質があるため、高齢者など軽度の鉄欠乏症の人には有害となる可能性がある。
一方、カロテノイドは精製されたサプリメントとして大量に摂取しても一般に無毒とされている。
カンタキサンチンの大量摂取は、可逆的な網膜症を引き起こす可能性がある。
B-カロテンは胃がんや肺がんのリスク上昇と関連すると報告する研究もあるため、喫煙者は多量の摂取を控えたほうがよい。