抗生物質への曝露は乳児のディスバイオーシス(腸内細菌叢の崩壊)と、小児喘息リスクの上昇に関連することがわかっている。
母乳もまた、幼少期の腸内細菌叢の主要な調節因子として作用するが、喘息発症に対するその影響は今まで不明だった。
ヒトの母乳は、遺伝、食事、環境的要因に適応する無数の成分を含み、母子関係において動的かつ最適化されたものになっている。最適化の個別化は母集団におけるばらつきが大きく、おそらくこの不均一性のために喘息およびアレルギー発症リスクに対する母乳育児の効果は不明なままとなっている。
脂肪酸のような特定のヒト乳成分は乳児の主要な栄養源で、乳児の微生物叢の構成に影響を与える。しかし、ヒト乳オリゴ糖(HMO)は乳炭水化物の20%を占めるため母親のエネルギーを大量に必要とするが乳児にはほとんど消化されず、これらの複合糖質は乳児の微生物叢を直接調節し、BifidobacteriumやBacteroidesなどの特定の微生物に選択的な栄養上の利点を提供する。BifidobacteriumやBacteroidesなどの微生物はこれらの糖質を細胞レベルで、乳児の発達を支援する二次代謝産物に転換させる。
ヒト母乳成分と有益な微生物間の相互作用を明らかにすることは、母乳育児ができない場合に抗生物質投与後の乳児の微生物叢を「再バランス化」する治療法の開発を方向付ける可能性がある。
また、母乳育児が乳児の腸内細菌叢における抗生物質の影響に及ぼす影響を調べることは、抗生物質関連喘息リスクからの保護におけるメカニズムを明らかにし、出産後の女性に有益な情報を提供することができるだろう。
リンクの研究は、抗生物質治療時に母乳育児をしていた場合、抗生物質関連喘息リスクがほぼ回復することを観察したもの。
CHILD研究の乳児1,338人を対象に、ショットガン・メタゲノムシークエンスにより2時点の腸内細菌をプロファイリングし、抗生物質と母乳育児が乳児の腸内細菌群の分類と機能に相反する力を及ぼしていることを明らかにした。
母乳育児をせずに抗生物質を服用した小児は喘息発症確率が3倍高かったが、母乳育児をしながら抗生物質を服用した小児にはそのような関連は見られなかった。
この効果は、乳児のマイクロバイオームの分類学的および機能的構成要素の広範な「再バランス化」と関連していた。
母乳育児と特定のヒト乳成分が、Bifidobacterium longum subsp. infantisの機能的能力を支え、Bifidobacterium longum subsp. infantis のコロニー形成が抗生物質曝露からマイクロバイオータを緩衝する可能性があることを確認。
母乳育児でB. infantisを豊富に摂取することで、抗生物質が幼少期の腸内細菌叢に与える障害を緩和し、喘息リスクを低減できる可能性があると結論。
・生後早期の抗生物質への曝露は乳児のマイクロバイオームの広範な変化と関連し、治療後数ヶ月にわたって抗生物質耐性遺伝子(ARG)が増加し、バイスタンダーセレクションの犠牲となる有益な種が枯渇する。これらの障害は学童期の喘息発症に関連し、小児医療における抗生物質スチュワードシップの強化の必要性が支持されている。
・この研究では抗生物質とヒト母乳曝露の相互作用を調査し、母乳育児が抗生物質の喘息への影響を緩和する証拠を見出した。この相互作用を調べた他の研究は今のところない。
この発見は、抗生物質投与後の臨床勧告に有益な影響を与え、個人および集団レベルでの抗生物質関連喘息負担を軽減する可能性がある。
・1,338 人の乳児の便のマイクロバイオームを調べたところ、抗生物質の影響を受けた種と KEGGオーソログの大部分がヒト母乳に反応し、ヒト母乳曝露児では抗生物質を含まないレベルまで再バランス化できることが判明した。
最も顕著な観察結果は種の数ではなく、マイクロバイオームの機能的多様性の増加として検出された。
・ヒト母乳育児と抗生物質の乳児腸管への相反する影響は広範囲に及ぶが、この研究結果の多くはB. infantisのコロニー形成に関連していた。B. infantisはヒト母乳栄養児に濃縮され、ヒトミルクオリゴ糖(HMO)を主要基質として利用する。B. infantis は免疫発達や腸管バリアーを含む多くの宿主プロセスをサポートする。
北米ではB. infantisの減少が広く認められ、喘息や肥満などの慢性疾患の発症と相関していると言われている。
今回の研究で、B. infantisは宿主の腸や免疫発達に有益であることに加え、抗生物質による擾乱時にもマイクロバイオームの機能的多様性を維持することが明らかになった。この効果はB. infantisに特有のもので、他のB. longum亜種では検出されなかった。
・B. infantisは他のビフィドバクテリウム属細菌と比較して、HMOを利用することでその存在量を高め、ヒト母乳栄養児のマイクロバイオームにおける主要な微生物として機能することを可能にする。