大のビール党で腸内細菌大好きな私には目から鱗のデータが飛び込んできたのでまとめてみたい。
ちなみに各国を旅して現地のビールをいろいろ飲んだが、ナンバーワンは日本のSAPPOROという結論に落ち着いている。これは間違いない。
最近は日本でもクラフトビールが多数出現し、ビール党を楽しませてくれるいい時代になった。
非常に古い考古学的発見によって数千年にわたるビールの歴史が明らかになりつつあり、かつては覚醒剤や鎮痛剤などと同様の薬効もあったと考えられている。
古代エジプトでは、すでにビールは広く飲まれていた。
他のアルコール飲料と同様に、ビールも医学の世界では注意深く見られているが、ビールにはホップと麦芽から得られる数多くの抗酸化物質、特にフェノール類、ビタミン(特にB群)、ミネラル(セレン、ケイ素、カリウム)、水溶性食物繊維が含まれている。
またビールにはいくつかの細菌や菌類も確認されており、Lactobacillales、Bifidobacterium、Saccharomycesが観察されている。
微生物叢は、口腔、腸、皮膚、膣や肺などに生息する微生物集団のことで、1900年代初頭に発見されて以来多くの研究者によって研究されてきた。
微生物叢には様々な微生物が生息しており、その中でも最も研究が進んでいるのは人体と共生してその機能を最適化する細菌や真菌である。ヒトの微生物叢の中には、まだ役割が完全に解明されていない古細菌やウイルスも存在する。100兆個以上の微生物からなる腸内細菌叢は最も研究が進んでおり、食物発酵、ビタミンの生産、あるいは免疫など重要な役割が指摘されている。
健康な腸内細菌叢の変化は細菌集団のアンバランスな構成につながり(ディスバイオーシス)、心血管疾患、癌、糖尿病、炎症性腸疾患、慢性肝疾患、慢性腎臓疾患など様々な疾患を引き起こす可能性がある。
アルコールは、摂取量に応じて二重の効果を発揮する。
アルコール度数の高いビールの過剰摂取は有害な影響を及ぼすため最初から除外されるが、多くの研究がアルコールを含む/含まない、少量または中程度のビール摂取が健康に及ぼす影響を追跡調査している。確認された効果は、心臓保護効果、骨の健康、微生物叢へのポジティブな刺激など健康にとってポジティブなものだった。
ビール成分と腸内細菌叢との関係は興味深く、これまでにいくつかの研究が行われているが、腸内細菌叢の組成、多様性、機能性に及ぼす影響、特に長期にわたる持続的な影響に関してはまだ十分に解明されていない。
アルコールの慢性的な摂取は腸内細菌叢の多様性に悪影響を及ぼし、腸内細菌の異常増殖を引き起こすなどヒトの代謝に悪い影響を及ぼす可能性もある。
リンクのレビューは、腸内細菌叢と相互作用する可能性のある微生物、抗酸化物質、食物繊維、メラノイジンという四つの成分を対象とし、ビールがプレバイオティクスやプロバイオティクスメカニズムによって糖分解菌や短鎖脂肪酸産生菌が優占する健康な腸内細菌叢の発達を促進する可能性を示し、腸内細菌叢への影響を強化した強化ビールの開発の展望を紹介している。
Beer and Microbiota: Pathways for a Positive and Healthy Interaction
・ビールと微生物叢の相互作用
ビール由来微生物とプロバイオティクスの可能性
ビールは通常低温殺菌された製品だが、クラフトビールには細菌が含まれおり腸内細菌叢に影響を与える可能性がある。しかし、ビールの摂取が腸内細菌叢に及ぼす影響に関する研究は少ない。
2019年の研究では、米ビールに存在する18属の細菌が検出され、ラクトバチルスが支配的なグループ(90%)だった。細菌プロファイルに基づき、炭水化物、アミノ酸、ビタミン、補酵素代謝や異種物質の生分解など米ビール摂取の影響を受ける代謝経路が明らかにされている。
アルコール摂取が腸内細菌叢に及ぼす主な影響は、バクテロイデーテス、ファーミキューテス、プロテオバクテリアなどの優勢菌バランスが変化することによるディスバイオーシスだが、通常のビールには5%程度のアルコールしか含まれていないため節度を持って飲めばそのような影響はないと思われる。
サッカロミセス・セレビシエ株を豊富に含むビールは腸内細菌叢を調節し、アルツハイマー症状に有益な影響を与え、認知機能改善や抗炎症サイトカイン濃度の増加による神経保護効果を生み出す可能性が2022年に新しいデータとして明らかにされている。
細菌豊富なビールに、ベルギーのランビックビールがある。
製造工程中に存在するさまざまな細菌は、環境中の空気や木樽の内面から微生物が自然に抽出されることで生じる。ランビックビールでは、Acetobacter lambiciやGluconobacter cerevisiaeなど、いくつかの新しい細菌種が報告されている。また、この種のビールの製造過程では、腸内細菌(Enterobacter cloacae; Klebsiella oxitoca)、酢酸菌(Acetobacter spp.)、乳酸菌(Pediacoccus spp.)、そしてさまざまな酵母(Hanseniaspora uvarum; Saccharomyces spp.、Brettanomyces spp.)の存在が確認されている。
上記のような有益な効果がある一方で、ビール由来の乳酸菌の一部はヒスタミン、チロシン、プトレシン、カダベリンなどの生物活性アミンを生成し、ビールを変質させて有害な影響を与える可能性がある。特にLactobacillus brevisはホップとアルコールを多く含む酸性条件下でも培養可能で、horA、horC、hitA遺伝子を持ち、最も高い生物活性アミン生産量を示すことが知られる。
コーンビールにはコレステロール低下作用を有するプロバイオティック乳酸菌の供給源となる可能性がある。同定された乳酸菌株は、Levilactobacillus brevisとEnterococcus faeccium。
心血管疾患の主な危険因子であるラット血清中のLDL-cを効果的に低下させ、HDL-cを増加させる単離菌として知られる。
いくつかの研究では、ビールが抗菌性を持つ可能性も指摘されている。
ビールから得られる微生物叢(細菌と真菌)は、初期組成、アルコール量、保管される樽の種類、時間経過によって異なり、ビールの熟成過程で著しく高いレベルで出現する。
乳酸菌はホップが適度に効いたビールで優勢になり、苦味の強いビールではほぼ一定に保たれる。従来のビール組成では、Pediococcus damnosus、Lactobacillus brevis、Acetobacterそして真菌はアルコール量に影響される。
非サッカロミセス系酵母のビールに関する研究もあり、今後酵母の安全性評価やガイドラインの作成が進めばこのようなビールも市場に出てくる可能性がある。つまり、ビールの製造工程で出現する細菌や菌類の強化ビールやクラフトビールは、ビタミン、バクテリオシン、有機酸など、消費者の健康に有益な効果を与えることができる化合物を多数産生することになる。
・ポリフェノールと微生物叢
ビールは抗酸化物質を形成するポリフェノールの重要な媒体でもある。
ポリフェノールのほとんどは麦芽からで、ホップからは20%程度。
ポリフェノールが微生物叢に作用することを確認したin vitro、動物実験があり、ビールに多く含まれるポリフェノールであるフェルラ酸は微生物叢の多様性を増幅させ、ラットの大腸でプロピオン酸や酪酸を生産するバクテリアの増殖を促進することが確認されている。
ヒトを対象とした研究でも、ポリフェノールと微生物叢の相互作用が確認されており、ポリフェノール摂取後に短鎖脂肪酸(SCFA)の産生が増加し、その結果、局所的な抗炎症作用を示すことが確認されている。
SCFA合成の増加は微生物叢への作用を裏付けるもので、ポリフェノール供給源である赤ワインを摂取した場合でもその効果は実証されている。
赤ワインは微生物叢のビフィドバクテリウム、フェカリバクテリウム・プラウスニッツィ、ロエブリアのレベルを増加させ、エンテロバクターや大腸菌の増殖が抑制することがわかっている。
これらのポジティブな効果はアルコールを含まないワインでも確認されており、アルコールを含まない製品(ビール、ワイン)からのポリフェノール吸収はアルコールを含む同じ製品と比べて減少するものの、大腸に到達したポリフェノールは腸内細菌叢への作用を通じて効果を発揮する。
ビール由来フラボノイドのクエルシチンは腸内環境の悪化に対し、ファーミキューテス類とバクテロイデス類の比率を改善して過剰体重に関連する微生物群の増殖に対抗する。
ノンアルコールビールやワインを飲むと、微生物叢を含むエチルアルコールによる悪影響を回避できるだけでなく、腸に届くポリフェノールの数が増えて微生物叢に良い影響を与えることができる。
健康な被験者に1日355mLのビールを30日間投与した研究では、ノンアルコールビール群(n=35)とアルコールを含むビール群(n=33)に分け、両群共に腸内細菌叢、膵臓β細胞の機能および空腹時血糖に明確な影響が観察されている。腸内細菌叢への影響はバクテロイデス属が優勢になりファーミキューテス属劣勢に、そして細菌叢の多様性が増加することがわかった。
この効果はビール中のポリフェノールによるもので、ノンアルコールビールでも認められた。
アルコール入りビールでは同じ範囲のプラス効果はなく、血糖値とβ細胞の機能にマイナスの影響を与えたとしている。
・ビールに含まれる食物繊維と腸内細菌叢
ビール缶の成分表には、ビールに食物繊維が含まれていることは記載されていないが、実際にはβグルカン(約75%)、アラビノキシラン(約20%)、アラビノガラクタン、マンノースとフルクトースポリマー、レジスタントスターチといった非でんぷん性難消化性食物繊維が含まれている。
様々な種類のビールについて詳細なテストを行った結果、アラビノキシラン誘導体やβ-グルカンの存在が判明し、β-グルコシル型やペントシル型の小さなオリゴ糖(重合度の低いアラビノキシラン)もかなり多量に存在することが確認された。
アルコールフリービールや低アルコールビールも含めて、ビールは水溶性食物繊維の摂取に大きく貢献する可能性がある。
食物繊維の多くにはプレバイオティクス作用がある。
数年前から食物繊維の加水分解物であるアラビノキシロオリゴ糖(AXOS)、キシロオリゴ糖(XOS)、β-グルカノオリゴ糖(βGOS)のプレバイオティクス効果に関心が集まっている。
ベーカリー製品などの穀物製品、さらにはビールの濃縮/強化のために意図されたAXOS、XOS、βGOSの高含有量の原料が市場に流通しているが、口当たりを変更する目的のみが注目されている。
大麦由来β-グルカンはビール製造の過程である製麦およびマッシングの際に加水分解され、S. cerevisiaeによって消化されない低分子量オリゴ糖(βGOS)を生みだす。
βGOSはヒト消化管と同様のpHと酵素ストレス下で生存できる。
異なる乳酸菌株は、炭素源としてβGOSのみを使用して生存する。
加水分解βグルカン誘導体のプレバイオティック活性を比較した研究では、非加水分解βグルカン繊維が腸内細菌の発達にわずかに有利であるのとは対照的に、大麦由来βGOSはLactobacillus-Enterococcusグループの集団に著しい刺激効果を示している。
大麦由来XOSは、大腸モデルの血管内に短鎖脂肪酸、特に酪酸の蓄積を促進し、Bifidobacterium lactisの増殖をFOSおよびイヌリンと比較してより大きく刺激する能力を示し、特にB. longumに有利だった。
大麦とオート麦のβグルカンは、微生物叢を調節することでLDLと総コレステロールレベルを低下させることが証明されている。腸内細菌叢はSCFAを産生する糖質代謝方向にシフトし、その結果p-クレジル硫酸(pCS)やインドキシル硫酸などのタンパク質代謝産物が減少する。
オーツ麦由来Β-グルカンは大麦由来のものと比較して、乳酸菌やビフィズス菌の発育を促進する力が大きいことが証明されている。
とはいえビール中βグルカンの量は多くなく、そのほとんどは技術的な製造過程でグルコースに分解される。
アラビノキシランもビール食物繊維の一つ。
ビールメーカーの使用済み穀物からアラビノキシランの抽出物を使用して微生物叢に対する効果を調査した研究では、プロバイオティクス効果は乳酸菌の個体数を2倍、ビフィズス菌の個体数を3.5倍に増加させた。
また、アラビノキシランオリゴ糖を強化したパンを摂取した場合、酪酸産生結腸細菌とビフィドバクテリウム・フェカリスが増加することもわかっている。
様々な研究で、微生物叢への作用はアラビノキシラン凝集と分岐の程度に密接に関係し、その構造は原料、その発芽状態、抽出方法によって大きく異なるという事実を強調している。
明確な結論として、ビールに含まれるアラビノキシランやその他の水溶性食物繊維は、消費者の腸内細菌叢にプラスの影響を与える可能性が高い。
アラビノキシランはビールの粘性の増加、泡の安定性をもたらし、特にアルコールフリーのビールでは重要なので、アラビノキシランを意図的に添加することで付随する衛生的な利点を利用できると推測される。
しかし、消費者は食品に添加物や技術的なアジュバントを加えることに特に抵抗があり、ビールは一般的に天然原料に基づいた飲み物であると考えているという問題もある。
・ビール中のメラノイジンと腸内細菌叢
消化率が極めて低いことから食物繊維に近いとされる物質にメラノイジンがある。
ビール中のメラノイジンは大麦麦芽に由来し、メイラード反応によって生成される。
ビールはメラノイジンの一種であるメラノサッカライドと呼ばれる水溶性物質が主成分となっている。ビール中のメラノイジンは、ビールの色、質感、香りに関与する。
メラノイジン量は黒ビール中が最も多く、次いでブロンドビールが多い。
ノンアルコールビールは最も少ない。
近年、メラノイジンの健康への影響、特に抗酸化力、還元力に着目した研究が数多く行われている。明らかにされているメラノイジンの消化管に対する抗酸化作用は、腸内細菌叢を介したメカニズムによって達成されている可能性がある。
メラノイジンを含まない麦芽(対照群)、またはメラノイジン濃度を高めた麦芽をラットに3週間投与した研究では、Firmicutes(Dorea、Oscillibacter、Alisitpes)の個体数は減少し、Bacteroidetes、Lactobacilli、Verrucomicrobia Acinobacteria、Proteobacteria(Parasutterella)の個体数は増加した。
ビフィズス菌とアッケマンソウの2つの有益な菌株は、3週間の実験の終わりに有意に反応し、エネルギー源としてのメラノイジンに適応する必要があるという仮説を支持するものだった。
メラノイジンには抗菌作用もあり、サルモネラ・チフス菌、黄色ブドウ球菌、大腸菌、セレウス菌、緑膿菌などの病原菌を抑制する。
また、メラノイジンはストレプトコッカス・ミュータンスが付着性バイオフィルムを形成する能力を阻害する。
ビールによるメラノイジンの摂取量は他の食品からの摂取量に比べれば多いとは言えないが、しかし微生物叢との相互作用の可能性を無視することはできない。
・ビール中のアルコールと腸内細菌叢
ビール中のアルコール濃度が高いほど、腸内細菌叢や健康全般に対する悪影響が大きいことが証明されている。どのレベルのアルコール摂取も安全とは言えず、アルコールは腸内細菌叢の構成を変化させ、アルコール誘発性酸化ストレス、腸管内細菌産物に対する過透過性、およびその後のアルコール性肝疾患の発症に寄与している。
身体機能への悪影響を考慮すると、機能性ビールは最低限のアルコールしか許容できないこと、また、アルコールフリービールを強化することが最良の選択肢であるという結論に達するだろう。
結論
ビールは将来の機能性食品の有力な候補であり、ビール成分がヒトの腸内細菌叢に良い影響を与える経路は数多く存在する。食物繊維、抗酸化物質、プロバイオティクスを強化し、アルコール度数が極めて低いかゼロの機能性ビールを設計すれば、ビール摂取に対するネガティブなイメージを払拭し、アルコールのマイナス効果を無効にすると同時に、腸内細菌叢にプラスの作用を及ぼすことができるだろう。