メタボリックシンドローム(MetS)や2型糖尿病など、肥満とその併存疾患は世界的に重大な医療問題となっている。
心代謝系疾患の発生率は世界中で急速に増加しており、そのため危険因子を早期に特定し、予防策を導入することが非常に重要。
近年、更年期女性におけるMetSの予防と治療には、ライフスタイルの修正(食事と身体活動)に重点を置いた効果的な管理戦略が必要と考えられている。
栄養学的には、地中海食やベジタリアン食が各身体的パラメータや心代謝危険因子に良い影響を与えるなど、多くの健康上の利点と関連することが示唆されており、外因性のサプリメントと定期的な運動は体を酸化ダメージから守り、運動は抗酸化防御を向上させて過酸化脂質のレベルを下げることからMetS予防と治療に推奨されている。
活動的な高齢者は座りがちな若い人と同様の抗酸化活性と過酸化脂質のレベルを示したとする研究もあり、定期的な身体活動の重要性を裏付けている。
また現在では、必須バイオエレメントへの関心が高まっている。
多くの研究が、バイオエレメント補給とMetSリスクとの間に有意な関連があることを示している。
血清中バイオエレメント濃度レベルの乱れはエネルギー代謝を著しく乱し、肥満関連の併存疾患および代謝性疾患の素因となりうる。
クロム、銅、亜鉛、セレンは心血管系の保護とコレステロールの調節に不可欠であり、亜鉛は様々な酵素系(DNAポリメラーゼ、グルタミン酸、乳酸デヒドロゲナーゼ)の重要な構成要素。
The Third National Health and Nutrition Examination Survey (NHANES III) によると、マグネシウム (Mg) 欠乏は、BMI が「肥満」のカテゴリーに属する人々に、標準体重のアメリカ人集団よりも多く見られるとされている。
また、多くの研究がMg摂取量とMetSのリスクとの間に有意な相関があることを示している。
過体重と肥満は鉄(Fe)欠乏と関連し、食事性カルシウム(Ca)摂取量が多いとMetSリスクが低下することが分かっている。
また、Caが多くMgが少ない食事によって細胞内のCa/Mg比が高くなると、高血圧、インスリン抵抗性、MetSになる可能性も示唆されている。
リンクの研究は、閉経前後の女性におけるバイオエレメントレベル(Ca、P、Na、K、Fe、Mg、Cu、Zn、Sr)とMetSおよびそれに付随する代謝異常の発生率との関係を評価したもの。
170名の閉経前後の女性を対象にアンケート、身体測定(WC、身長、BMI、WHtR)、血圧測定、静脈血の生化学的分析(脂質プロファイル、グルコース、インスリン、HbA1C)を実施。
MetS予備軍の女性は、MetS女性および対照群に比べ、腹囲(WC)、ウエスト・身長比(WHtR)、収縮期血圧(SBP)、拡張期血圧(DBP)値が統計的に有意に高いことが示された。
また、空腹時血糖(FPG)、中性脂肪(TG)、低密度リポ蛋白(LDL)、HbA1C、インスリン、TG/HDL比、TC/HDL比は、MetS群がそれ以外の群に比べ有意に高い値を記録した。
また、MetS予備軍とMetS女性の平均K濃度に統計的に有意な差があることが判明した。
更年期女性における血中K濃度の低さは、MetSのリスク上昇と関連している。
体重過多の女性では有意に高いCu濃度が観察された。Cu濃度は、総コレステロール(TC)、LDL、SBPの値と負の相関があると結論。
The Levels of Bioelements in Postmenopausal Women with Metabolic Syndrome
多くの研究者が食事、ひいてはバイオエレメントレベルが集団におけるMetSリスクに大きな影響を与えることを認識しつつある。さらに文献データは、腸内細菌叢が宿主の代謝に影響を与え、いくつかのMetS危険因子に影響を与える可能性があることを示唆している。
ディスバイオーシスは腸内細菌叢の組成および活性の乱れで、複数の慢性疾患の病因に関与している。
・生体内バイオエレメント(Ca, P, Na, K, Fe, Mg, Cu, Zn, Sr)濃度と MetS, 更年期障害, BMI, HA などの因子との相関
今回の研究では、K濃度とMetSの有無に統計的に有意な相関があることが示された。
MetS予備軍女性は、他の対象者に比べてK濃度が有意に高かった。
残りのバイオエレメントとMetSの発生との間には、統計学的に有意な関係は認められなかった。
バイオエレメント濃度と閉経の有無との間にも統計的に有意な関係は認められなかった。
・食事性K摂取量の多さが、MetSおよびインスリン抵抗性リスクの重要な決定因子であることを示す研究もある。この関係は、閉経前女性と比較して閉経後女性で特に顕著だった。多くの研究が、K摂取とMetSリスクとの間の関連性を示している。
中高年中国人を対象にした中国の研究では、血清カリウム値の低さは、メタボリックシンドロームの有病率と有意に関連していた。
また、薬物未使用の正常血圧者において、高カリウム食の血圧への影響は女性でより顕著であることを示す研究もある。その研究では、高血圧の新規発症とその合併症を予防するには、正常血圧者であってもナトリウム制限とカリウム摂取量増加のバランスが重要であり、特に女性においてその重要性が示唆された。
他にも、食事性Kの高摂取が血圧と逆相関することを報告した研究や、カリウム摂取量の低さがSBPおよびDBPの上昇と有意に関連することを示した研究、カリウム摂取量の四分位が最も低い女性では高い四分位と比較してMetSの有病率が有意に高いことを示した研究もある。
今回の研究でも、十分なカリウム摂取が肥満とメタボリックシンドロームを予防する効果があることが示された。
CaとMgは研究デザインによって結果が異なる。
食事性Caの高摂取がMetSのリスクを低減させることを指摘したデータがある一方、Caが多くMgが少ない食事によって細胞内のCa/Mg比が高くなると、高血圧、インスリン抵抗性、MetSになる可能性が示唆を示唆する研究もある。したがって、MgとCaはRDAを摂取することが重要で、それによりMetSリスクを低減する可能性がある。
また、閉経後女性は閉経前女性に比べて血清総Ca濃度が高いことが示されている。55歳以上の女性では55歳以下の女性よりも血清総Ca濃度が高かった。閉経後女性は通常エストロゲン不足に陥り、骨からのCa吸収により骨粗鬆症のリスクが高まる。このことが、閉経後患者の血清Ca値が閉経前患者群より高かった理由の一つかもしれない。
過去の研究で、肥満女性において、血清中Ca、Fe、Mg、Na、Znの減少およびいくつかのバイオエレメント(例えば、Sr)の増加が観察されたことは注目に値する。Zn、Cu、Feの血清レベルの高さがMetSのリスクと関連していた。
またZn、Cu、Feの血清レベルはメタボリックファクターが増加するにつれて上昇した。
今回の研究では、Na、Mg、Cuの値とBMI値の間に統計的に有意な関係があることが示された。
Na とMgは標準体重の女性で有意に高いことがわかった。
一方、Cuは太り気味の女性で高い値を示した。
NHANES IIIによると、Mg欠乏は正常体重のアメリカ人集団よりも肥満の人に多い。
同様に、BMI が35kg/m2 以上のフランス人の35%でMgの摂取が損なわれている。
さらに過去のレビューでは、年齢、性別、BMI、人種、教育、配偶者の有無、喫煙、飲酒、運動、降圧剤や脂質剤の使用などの他の危険因子にかかわらず、食事性Mg摂取量の低さと心代謝系疾患リスクとの間に正の相関があることが示されている。
食事からのMg摂取量はMetSの発生率と逆相関することが証明され、同様の結果は11,000人の中高年女性を調査した研究でも発表されている。
食事性Mgの高摂取は全身性炎症とMetSリスクを減少させることも観察されている。
CardIA(Coronary Artery Risk Development in Young Adults)研究では、Mg摂取量は肥満の発生率およびC反応性タンパク質レベルと逆相関することが示された。
Mg摂取量とBMIやウエスト周囲径などの肥満マーカー、および心血管疾患、糖尿病、総死亡のリスクとの間には有意な相関があることが示されている。
肥満女性の血糖値とMg濃度が負の相関を示す研究もある。
これは、肥満者において血清Mg値の低下を確認した他の報告と一致する。
循環血中Mg濃度が高いほど冠動脈疾患を含む心血管疾患のリスクが低いが、慢性的な食事性Mg摂取量が少ないと血清および細胞内Mg不足になり、特にMetSを有する肥満者や高齢者で顕著になる。
血清フェリチン値はインスリン抵抗性の程度とMetS構成要素の数に比例して増加する。
代謝異常性鉄過剰症(DIOS)は、2型糖尿病や非アルコール性肝疾患(NAFLD)の発症の前兆。
食事中の血清鉄濃度の上昇は糖尿病のリスク上昇と関連している。
血清鉄濃度の上昇はMetSと強い相関があることが確認されている。
閉経後女性におけるFe欠乏のリスクは閉経前女性よりも低いことが示されている。Fe不足の閉経前女性は、そうでない女性に比べてMetSのリスクが2.5倍も低かった。
逆に閉経後女性群では、Feが欠乏している人の方がそうでない人よりもMetSリスクが高かった。
MetSリスクは、閉経前女性、閉経後女性ともに、血清フェリチン値の上昇に伴い増加した。
・バイオエレメント濃度(Ca, P, Na, K, Fe, Mg, Cu, Zn, Sr)と脂質(TC, HDL, LDL, TG)、糖質代謝(空腹時血糖、インスリン)、体格(BMI、WC、WHTR)、血圧(BP)との関係
この研究ではFPG濃度とSr濃度は正の相関を示し、さらにHbA1CとSr値との間にも正の相関が認められた。
TC値とCu値との間には負の相関が認められた。
また、LDL値とNa値には統計学的に有意な相関が認められた。
WC値とMg値との間には負の相関が見られた。
SBPとNa、SBPとCuの間にも統計学的に有意な相関が観察された。
その他の変数と本研究で分析した残りの元素の間には、統計的に有意な相関は観察されなかった。
血清総Ca濃度はFPG、TG、HDL、LDL、TCと有意な正の相関を示す研究もある。
HDL、LDL、TCは補正血清Ca濃度の上昇とともに増加する傾向を示したが、FPG、TGは増加傾向を示さなかったという。
他の研究では、糖尿病の有無にかかわらず、血清Ca濃度はFPGと独立した正の相関があることが示されている。
多くの先行研究では、Ca値の低さと血圧上昇のリスクの高さの間に統計的な相関があることが示されている。メタアナリシスではCaの補給が収縮期血圧を下げることが確認されている。
これは、Caの補給がMetSに対して予防効果を有することを証明した他の研究結果と一致する。
食事性Ca摂取量を300mg/日増加させると、MetSリスクが7%減少することが観察された。
MetS発症に対するCaの保護効果には、閉経が重要な役割を果たしている可能性があると主張しする研究者もいる。
彼らは、閉経後の女性においてのみ、Ca摂取量の多さがMetSリスクの低減と関連することを見出した。
食事性Ca摂取量の四分位が増加すると、女性ではインスリン値および血圧の低下、HDLコレステロールの増加を伴うことも観察されている。
- 更年期女性における血中K濃度の低さは、MetSのリスク上昇と関連している。
したがって、更年期女性のMetSのリスクを低減するために、食事によるKの摂取を通じてK欠乏を治療することが重要。 - 体重過多の女性では、有意に高いCu濃度が観察された。
Cuの濃度は、TC、LDL、SBPの値と負の相関があった。
この知見は、更年期女性におけるバイオエレメントレベルとメタボリックリスクの間に関連性があることを示す