国際的に睡眠不足の有病率は高く(米国では成人の65%、サウジアラビアでは大学生の70%)、男性よりも女性で高いことが報告されている。
睡眠状態の悪化は、体重増加や肥満、糖尿病、糖代謝異常、炎症、死亡率など、健康に悪影響を及ぼす。
また、睡眠障害は女性や高齢者で特に顕著に見られ、女性のマタニティ に関する健康状態やQOLに悪影響を及ぼす可能性があるため睡眠障害改善のための戦略が求められている。
睡眠障害の原因として、遺伝的要因、肥満、うつ病、不安症といった危険因子が報告されており、近年では栄養因子も睡眠状態に関連するとして関心を集めている。
ビタミンB12やビタミンDの欠乏は若年成人の睡眠状態の悪さと関連していることがわかっている。
睡眠に関連すると考えられるもう一つの栄養素は「ポリフェノール」。
ある研究では、果物や野菜に含まれる食事性ポリフェノールが、最適な睡眠を含む健康上の利点と関連することが報告されている。
しかし、栄養と睡眠不足に関連するメカニズムは十分に研究されていない。
リンクの研究は、健康な若いサウジアラビア人女性における栄養バイオマーカーと睡眠状態に関連する因子を特定することを目的としたもの。
19~25歳の正常体重および肥満のサウジアラビア人女性92名を対象。
空腹時血糖値、インスリン、脂質プロファイルを測定した。
インスリン抵抗性は、Homeostasis model assessment of insulin resistance (HOMA-IR) 法に基づいて算出。
参加者の約76%が睡眠不良だった。
ポリフェノールの高摂取が睡眠不良の保護因子として、HOMA-IRが睡眠不良の独立したリスクとして報告された。
BMI、脂質プロファイル、ビタミンなどの他の栄養バイオマーカーや要因に有意な結果は得られなかった。
妊娠適齢期の女性における睡眠障害はインスリン抵抗性に関連し、一方、高ポリフェノール摂取は保護因子として浮上した。
栄養学的バイオマーカーを考慮することは、睡眠不足とその健康上の合併症を予防するのに役立つ可能性があると結論。
*インスリン抵抗性と睡眠
・この研究結果は希少な先行研究の知見を拡張し、HOMA-IRが睡眠不足リスクを5倍にすることと独立して関連していることを示した。
睡眠不足の参加者は睡眠が良好な参加者と比較して、高いインスリンレベルを示した。
・BMI≧25kg/m2の成人(20歳以上)612名を対象とした他の横断研究では、インスリン抵抗性の有無にかかわらず、HOMA-IR>3.4の参加者は、インスリン抵抗性のない人に比べて睡眠の質のスコアが著しく低いことが示されている。
・血糖状態が睡眠の質に影響を与え、2型糖尿病、糖尿病予備軍、正常耐糖能の人々の間で睡眠効率に有意差があることが示されている。
・今回の結果から、睡眠状態の悪化は食欲調節ホルモンの変化、交感神経緊張亢進、コルチゾール分泌の増加などと相関し、これらはすべてインスリン抵抗性の一因となる可能性があることが示された。睡眠状態とインスリン抵抗性の関係は双方向性である可能性がある。
・6年間の研究で、HOMA-IRスコアが閉塞性睡眠時無呼吸症候群の発生率の予測因子であることが判明している。
・肥満と睡眠不足の関係はよく知られている。睡眠状態の悪さは、成人や大学生の肥満や過剰な体脂肪と関連があると考えられている。
今回の研究では、睡眠不足群は睡眠良好群に比べBMIが有意に高かった。
*ポリフェノールと睡眠
・この研究では、ポリフェノールをより多く摂取している参加者は、睡眠不足から76%保護されることを提案。
・最近のイタリアの研究では今回の研究と同様に、食事性ポリフェノール(フラボノイド、フェノール酸、リグナンのサブクラス)の摂取量が多いと、体重が正常な健康な成人の睡眠の質が高まることが示された。体重過多/肥満の参加者ではその関連は確認されなかった。
・不顕性睡眠障害を持つ参加者を対象に30日間のポリフェノール補給が睡眠の質に及ぼす影響を調査した研究では、ポリフェノール補給はプラセボ群と比較して睡眠の質を有意に改善し、不眠症の重症度指数を低下させた。
・18~48歳の過体重および肥満の女性390人を対象に行った横断研究では、不健康な食生活の遵守度が高いほど、PSQIスコア(睡眠の質が悪い)が高いことと有意に関連することがわかった。植物ベースの食事はミトコンドリア機能、エネルギー代謝、体組成を高め、睡眠の質を大幅に向上させる可能性があることも報告されている。
・ポリフェノールが睡眠状態に好影響を与えるメカニズムとして、ポリフェノールの抗酸化作用が挙げられており、抗炎症作用や抗酸化作用のメカニズムを通じて睡眠の質を向上させる可能性がある。
・ロスマリン酸(フェノール酸)やエピガロカテキンガレート(フラボノイド)などのポリフェノールが睡眠に有益であることが新たな研究で示唆されている。
脳内ではロスマリン酸は著しい抗酸化作用、神経保護効果を発揮し、γ-アミノ酪酸とアセチルコリンを修飾することで睡眠に影響を与える可能性がある。
γ-アミノ酪酸はヒトの脳内の抑制性神経伝達物質である。
エピガロカテキンガレートは、ストレスホルモン(コルチコステロン)の分泌を抑えて視床下部-下垂体-副腎軸をダウンレギュレートし、抗不安作用を発揮すると考えられる。