貧血は幼児や妊婦に影響を及ぼすため世界的に深刻な公衆衛生問題となっており、2019年、15~49歳までの妊婦における貧血の世界的な有病率は36%で、東アジアと東南アジアでは27%となった。
貧血が問題視される理由として、妊娠中の有害事象(妊娠糖尿病、多飲症、早産、低出生体重、新生児合併症、NICU入室など)は貧血の妊婦で有意に高いことが挙げられる。
貧血の原因として最も多いのは栄養不良、特に鉄不足が指摘されているが、近年はビタミンD(VD)欠乏も重要な要因であることが示唆されている。
ビタミンDはヘモグロビンとの関連性が示唆されており、ビタミンDは赤血球前駆細胞の増殖誘導により赤血球生成に影響を与え、鉄吸収を促進することが明らかになっている。
しかし、妊婦におけるビタミンDとヘモグロビンの関係を示した研究は乏しい。
リンクの研究は、各妊娠期と血漿ビタミンDレベルとヘモグロビン濃度との関連性を調査したもの。
データは2011年から2018年にかけてZhoushan Pregnant Women Cohortで収集。
2962人の妊婦と第1期トリメスターの4419人が対象。
第1期(T1)、第2期(T2)、第3期(T3)の血漿25(OH)DはHbと正の相関があった。
T1の血漿25(OH)D レベルとHb濃度との関連は、妊娠年齢と正の相関があった。
T1期のVD欠乏症の妊婦は、VD欠乏症でない妊婦と比較して貧血リスクが高かった。
さらに、VDとHbの有意な関係は妊娠中に鉄分を補給している女性でのみ観察された。
各妊娠期の血漿25(OH)D濃度はHb濃度と正の相関があった。
鉄分補給は、VDとHbの関係に影響を与える重要な因子である可能性がある。
各妊娠期の血漿25(OH)D 濃度はHb濃度と正の相関があり、T1の血漿25(OH)D とHbの相関は妊娠年齢の上昇に伴い次第に強くなっていった。
妊娠前またはT1初期のVD補給がVD欠乏を改善するだけでなく貧血の予防にも有効であり、特に妊婦の鉄分補給が有効であることを示していると結論。
Association of Vitamin D in Different Trimester with Hemoglobin during Pregnancy
・T1、T2、T3の血漿25(OH)D濃度とHb濃度は正の相関を示し、T1の血漿25(OH)DとHb濃度の相関は妊娠年齢の上昇とともに強くなることが示された。
・T1またはT2のVD欠乏症妊婦は、VD欠乏症のない妊婦と比較してそれぞれ貧血のリスクが増加。
・VDとHbの有意な関係は、妊娠中に鉄分を補給している人でのみ観察された。
・T1、T2、T3の25(OH)DはそれぞれHbと正の相関があった。
・T1またはT2におけるVDの欠乏は貧血リスク上昇と関連していた。
・VDの欠乏は、骨髄微小環境における免疫細胞を刺激してサイトカインを産生させ、赤血球産生を阻害している可能性もある。
・ヘプシジンもVDとHbの関連に重要な役割を果たすと認識された。
ヘプシジン増加は腸管細胞の鉄吸収を阻害し貧血を引き起こす可能性があるが、VDは単球の鉄-ヘプシジン-フェロポーチン軸を制御することでヘプシジンmRNAの発現を抑制し、鉄吸収を促進する可能性がある。
・VD欠乏症と貧血の間に関連性がないことを示した研究も過去にあるが、それらの一貫性のない研究結果の理由を以下の観点でまとめ、推測される。
1.それらの研究はいずれもサンプルサイズが小さい横断的研究であったこと。
2.VD欠乏症と貧血の関係はそれらの研究の主要な目的ではなく、そのうち2つの研究はVD欠乏症を統計モデルのアウトカムとしており、後者は統計的検出力が低かった。
3.VDと貧血の関連は、妊娠期によって異なる可能性がある。
4.それらのデータの研究者は妊娠中の鉄分補給を考慮に入れていない。
・ある研究では、ビタミンD欠乏症女性では出産時の貧血リスクが6.97倍に上昇することが判明し、先行研究および本研究におけるVD欠乏症と妊娠中の貧血との関連よりもはるかに強いことが示された。
・先行研究では、ビタミンD3補給群では25(OH)D3が3ヶ月目にプラトーに達しており、VD補給が最大限の効果を発揮するには3ヶ月以上かかることが示された。
・T1からT2までのVD値の変化と、T2からT3までのHbの変化に有意な関連性があることを見出した。