本日のブログは、当院でご相談が多い骨盤帯痛(PGP)に関するデータをまとめてみたい。
PGPは、腸骨稜〜仙腸関節および/または恥骨結合領域の痛みと定義され、大腿後面への放散痛や鼠径部痛が併存することもある。
また、長時間の立位や座位の維持、座位から立位への移行、ベッド上での寝返りなど動作痛を伴うケースが多いが、当院の動作痛治療テクニックはこれにテキメンに効果があるため好評をいただいている。
PGPは、妊娠中や産後女性に多い。
発症原因として、ホルモンや生体力学的な側面、運動機能の低下、靭帯構造へのストレスなどが一般的な仮説として挙げられる。
最近では中枢性疼痛のメカニズムが検討され、その関与が指摘されている。
PGPは腰痛(LBP)や骨盤の痛みとは異なる症状であり、別々に研究されるべきものであることを示すエビデンスがあるが、現在までのところPGPに特化した研究はほとんどない。
リンクの研究のは、産後6~24週の持続性PGPを持つ女性と持たない女性との間の骨盤底機能、腹直筋離開、心理的要因の差異を評価することを目的としたもの。
結果、PGP群では安静時膣圧が低く、骨盤底筋の圧痛が強く、骨盤底筋の随意運動が損なわれていた。
また痛みのある女性は痛みのない対照群と比較して、前腹壁の歪曲とより重度の腹直筋離開を有していた。
安静時膣圧の低下はPGPを説明する最も強い因子であった。
骨盤底筋力,持久力,尿失禁の重症度,報告された苦痛の程度については,両群間に差はなかった.
・産後6~24週のPGP患者は、安静時膣圧が低く、PFM随意運動が損なわれ、PFMの圧痛が強かった。また、痛みのない女性と比較して、前腹壁の歪曲が大きくDRAが重症だった
しかし、PFMの強度、持久力、尿失禁の重症度は健常対照者と差がなかった。
さらに、両群は自己申告によるストレス、不安、抑うつ、痛みの悪化レベルも同程度であった。
・PFMトーン
今回の結果は、産後早期(6~24週)のPGP女性は安静時膣圧が低く、PFMを活性化する能力が低く、PFMの圧痛を呈することを示した。
他の研究結果と比較すると、産後PGP女性は筋緊張が低く、(痛み、圧痛、活性化の障害により)PFMの運動不足/機能不全を呈するかもしれないという仮説が立てられた。
これが受動的で適応的な構造変化をもたらし、粘弾性硬化をもたらす可能性がある。
これが最終的にPFM硬縮として現れ、筋緊張の増加として測定される可能性がある。
・PFMの圧痛
触診やUDI(Urinary Distress Inventory)質問票によって評価されたPFMレベルの痛み/圧痛がPGP患者により多く見られたという過去の報告を今回の研究結果は裏付けるものであった。
軽い接触や筋肉の圧痛に対する感受性は、以前から中枢性感作に関連していると言われている。
現在の疼痛科学の進歩は、妊娠関連PGPが骨盤構造の感作を表している可能性を示唆している。
・PFMの強度と耐久性
PFMの強度は多くの研究グループによって研究され、これまでの報告と一致する結果が得られた。
筋力に関する群間差は見出されなかった。
持久力に関してもグループ間の差は観察されなかった。
しかし、LBP/PGPの女性では、対照群の被験者よりも統計的に有意に短い収縮が観察された研究もある。
・PFMの随意運動能力
本研究のPGPグループは対照群と比較して、PFMの正しい随意運動がより困難であることが示された。
・心理的要因
今回の研究グループでは、産後6-24週のPGP女性は、心理的要因の点で健常対照者と差がなかった。
他の研究でも、産後PGP女性と産後3-12ヶ月の健常対照者の間で抑うつ症状が同程度であると報告されている。心理的影響を与えるには、例えば腰痛のような他のタイプの痛みよりもPGP期間が長いことが必要であると仮定している。
しかしそれらの結果は、PGPに関するこれまでの研究とは相反するように思われ、PGP女性は妊娠中および産後に健常対照者と比較して、より多くの抑うつ、不安、痛みの悪化が見られることが報告されており、最近のレビューでは妊娠中の抑うつが産後の継続した痛みの危険因子となる可能性があることが示されている。
出産後3ヶ月の腰部および骨盤痛女性で抑うつ症状の有病率が高いことを発見した研究では、PGPよりも腰痛の方が抑うつ症状との関連性が強いと報告している。
・尿失禁
今回の研究では、産後6~24週のPGP女性と対称群で、尿失禁症状の報告に差はなかったが、PGP、腰部骨盤痛、妊娠関連腰痛を評価した他のシステマティックレビューとは一致しない。このレビューでは4つの研究が含まれ、そのすべてが尿失禁と痛みの間に有意な関連があることを報告した。しかし、この研究グループは骨盤底機能不全が非常に多く見られるトライアスロン選手で構成されていたため、差異は研究デザインによるものかもしれない。
・腹直筋離開
この研究では、産後6~24週のPGPを有する女性は、痛みのない女性に比べて腹直筋解離が広かった。
一方で、今回の報告は最近発表された系統的レビューに反している。このレビューでは、対象研究に基づき、腹直筋解離と腰部骨盤痛の重症度および存在との間にいかなる相関も見出せなかったとしている。
前腹壁の障害とPGPとの間には、他の腰部痛の症状には見られない何らかの関連がある可能性があるのである。
結論
産後PGP(分娩後6~24週)を有する女性におけるこの研究は、PGPのない女性と比較して、痛みのある女性は安静時膣圧が低く、PFM随意運動の障害およびPFM圧痛の増加を示すことを明らかにした。
また、痛みのない対照群と比較して、PGPを持つ女性では腹直筋解離の増加や前腹壁の歪み(膨らみ)がより一般的に認められ、これらの差はすべて統計学的に有意であった。
しかし、PFMの強度、持久力、尿失禁の重症度について、健常対照者と統計的な差はありませんでした。
自己申告によるストレス、不安、抑うつ、痛みの異化は両群で同程度であった。